
可視化だけでは、現場は動かない
入力機能とデータ基盤が現場定着を実現
データ活用の重要性が高まる一方で、BIツールを導入しても現場への定着に課題を抱える企業は多い。日本トランスオーシャン航空(以下、JTA)も当初は、収支データを可視化したダッシュボードを構築したものの、現場への浸透には至らなかった。転機となったのは、Dr.Sumをデータ基盤とし、MotionBoardの入力機能を活用することで、現場の“困りごと”を解決する発想へ転換したことだ。現場主導でBI活用を広げた取り組みから、データ活用定着のポイントを探る。
経営が求めた、収益データの可視化
データベース・BI・ETLを一体で選定
沖縄を拠点とするJTAは、1967年の誕生以来、JALグループの一員として地域の活性化や観光を支える航空会社だ。現在では沖縄県内離島路線を含む国内線14路線と国際線1路線を運航し、沖縄はもとより日本各地への周遊や地方集客をつなぐ架け橋となっている。2026年2月にはJTA初の国際線「沖縄(那覇)―台北(桃園)」が就航し、新たなステージに入った。
JTAは、安全運航と経営基盤の強化を支える取り組みとして、運航計画や便数など航空会社の収益に結びつくデータを一元管理し、可視化する基盤づくりを進めた。経営層の強い要望に応えるべく、2017年に製品選定に入ったと、JTA 路線事業部 路線業務グループ マネジャーの国吉真也氏は経緯とポイントについて話す。
日本トランスオーシャン航空株式会社
路線事業部 路線業務グループ
マネジャー
国吉 真也 氏
「重視したのは、データベース、BI、ETL※が一気通貫で提供されている製品でした。様々なデータを集約し、多様な切り口で可視化するには、それぞれを個別に運用するより、一連の流れをスムーズに実現できることが重要だったのです」
※ETL(Extract、Transform、Load):異なるシステムからデータを抽出・変換し、データベースへ取り込むための仕組み
「当初は、コスト面から他社製品を検討していました。しかし、当社のデータを使ったデモでは、MotionBoardの画面はグラフやチャート・ドリルダウンなど当社の要望を的確に実現でき、インターフェースも洗練されていました。長く使い続けることを考え、価格よりも機能性や技術力を評価し、採用を決めました」
2017年、同社はウイングアークのデータ分析基盤「Dr.Sum」、データアプリ基盤「MotionBoard」、ETLツール「Dr.Sum Connect」を導入。2018年、最初にリリースした収支情報の可視化ダッシュボードは経営層から高い評価を得た一方で、現場の業務にまで活用は広がらなかった。「可視化だけでは現場でのデータ活用は定着しませんでした」と国吉氏は振り返る。
“困りごと”解決が現場活用拡大のきっかけに
MotionBoardの入力機能が業務変革を促進
では、どのようにして現場で使われる仕組みへと進化したのか。その転機となったのが、収支予実管理ダッシュボードの開発・展開だった。「当時、私はIT担当として収支管理担当に『なぜ費用が増えたのか』という理由を説明していました。しかし、収支管理担当は各部門の担当者に予実差異の理由を一つひとつ確認し、その内容を取りまとめる必要があり、決算時期には夜遅くまで分析作業に追われていました」と国吉氏は話し、こう続ける。
「そこでMotionBoardの入力機能を活用し、各担当が予実差異の理由をダッシュボードへ直接入力できるようにしました。その結果、収支管理担当は各部門への聞き取りやメモのとりまとめが不要となり、各担当も説明に費やす時間を削減できました。さらに、理由がデータとして蓄積されることで、収支管理担当だけでなく各担当も迅速に判断できるようになりました。毎月の決算締日には、収支実績と各担当者が入力した予実差異の理由がDr.Sumに集約されるため、実績分析を早期に完了でき、翌月以降の見通しも迅速に立てられるようになり、次の一手が打ちやすくなったと感じています」
収支予実管理ダッシュボードは、単なる可視化ツールではなく、現場の“困りごと”を解決する仕組みとして受け入れられた。その結果、各部門から「この業務もMotionBoardで効率化できないか」といった相談が寄せられるようになり、MotionBoardの活用は全社へと広がっていった。
日本トランスオーシャン航空株式会社
路線事業部 路線業務グループ
主任
大城 万季 氏
収支予実管理をきっかけに、予算登録や従業員1人あたりの生産性分析、毎月の収入分析など、様々な業務がMotionBoardによる仕組み化の対象となった。それらを国吉氏と、当時グループIT会社に在籍していた大城万季氏(現JTA 路線事業部 路線業務グループ 主任)の2人でDr.Sumをデータ分析基盤として活用しながら、MotionBoardによる各業務の仕組みを構築していった。「1年かかるといったスピード感ではなく、3カ月に1つのペースで構築し、各部門の要望に短期間で応え続けました。その結果、現場でのデータ活用が一気に広がったと思います」(国吉氏)
全社60機能、グループ会社へも展開
現場活用を支えるデータ分析基盤「Dr.Sum」
MotionBoardの活用は、部門別採算にかかわる業務だけにとどまらないと、JTA 路線事業部 路線業務グループ 課長補佐 松井夕葵氏は話す。「航空会社では、安全運航に係るJALグループ独自の教育など、受講すべきカリキュラムが数多くあります。従来は、各部門のグループ長がExcelで受講状況を管理しており、メンテナンスに手間がかかっていました。そこでMotionBoardを活用し、人事情報と連携した教育受講管理業務を構築しました。受講対象者が受講の有無を入力することで、各課の進捗がひと目で把握できるようになり、管理業務の効率化につながっています」
従来、部門ごとにExcelで管理していた契約書管理台帳も業務アプリとして管理する仕組みに移行した。「各担当任せだった管理を業務アプリに置き換えることで、第三者もチェックできるようにし、ガバナンス強化を図りました。手間はかかるものの、専用システムを導入するほどではない業務ほど、活用効果を実感しています。現在、全社や各部門で利用されている機能は約60種に及びます。社員自ら情報を入力・更新できる仕組みによって、必要な情報へいつでもアクセスできることもJTAの強みです」(松井氏)
JTAで培ったこの仕組みは、JALグループ内の他社にも広がりつつある。2022年には、グループ会社の琉球エアーコミューター(RAC)へ部門別採算管理の機能から導入を開始し、その後は教育受講や契約書管理など、JTAで培った機能を順次展開してきた。RACでの評判の高まりを受け、今年度には鹿児島を拠点とする日本エアコミューター(JAC)への展開を予定している。「RACもJACも小規模な会社で、なかなか人材を確保できずIT投資も限られています。JACについては、限られた予算の中で補助金活用を目指しながら、部門別採算の機能を、今年度から導入する計画で進めています」(国吉氏)
日本トランスオーシャン航空株式会社
路線事業部 路線業務グループ
課長補佐
松井 夕葵 氏
JTAでは、MotionBoardの入力・出力データも含め、あらゆる情報をDr.Sumで一元管理し、現場で使えるデータ基盤として運用する方針を徹底している。「2018年にJALのシステム担当と調整し、諸元情報などをDr.Sum Connectで自動連携する仕組みを構築しました。経営の要望に応えるとともに、JALのシステムからダウンロードして自社システムへアップロードするという作業も不要になりました。また、これまでExcelで管理していた業務をMotionBoardでインプット、アウトプットを行いDr.Sumで一元管理することで、Excelからの脱却を図りました」(国吉氏)
一方で、システムを導入するだけでは現場には定着しない。そのためJTAでは、本社や整備部門、空港部門などで説明会を開催し、利用者の理解を深めることにも力を入れた。「システムが変わるという情報だけでは、現場でハレーションが起きます。目的やメリットを伝え、実際の画面を見てもらいながら普段の業務をイメージできるよう丁寧に説明しました。また、利用者目線の手順書も提供し、本格運用もスムーズに進めることができました」(国吉氏)
開発よりも使い続けることに意義がある
アジャイル的改善と生成AI活用への期待
実態に合わなくなり利用率が低下した既存機能を、ユーザーの要望に基づいた改修にも注力している。「お客さまからのお褒めやお叱りの声、社内方針などをダッシュボードに入力し、サービス向上に役立てている機能があります。このダッシュボードは、現在の運用に合わせてJALやRACとも情報を共有できる仕組みに改善しました。開発を委託しているグループ会社のJTAインフォコム(JTIC)の体制も強化しており、ユーザーの要望に迅速に対応頂いている効果も大きいです。」(松井氏)
業務変革の観点では、業務アプリは開発よりも使い続けることに意義がある。ダッシュボードは運用過程で「こういうデータや機能がほしい」といったユーザーからの要望が出てくる。「アジャイル的開発でユーザーの声をすぐに機能に反映し、改善を重ねることで、継続的な利用につながっていると思います。例えば、お客さまのご意見の管理台帳も、利用者の声を取り入れながら機能を改善していけます。また、Dr.Sumのデータ更新に応じて、MotionBoardが自動判定でメール通知を行うことで、最新情報の活用を可能にします」
大城氏は「MotionBoardによるダッシュボードは、IT部門が提供したという感覚ではなく、現場が自分たちの業務のためにつくったものという意識が根付いている」と話す。
国吉氏は導入効果について、次のように振り返る。「集計・分析業務では年間何百時間もの削減効果があり、その時間を価値創造業務にふりわけています。また、自分が知りたい情報を担当者へ聞かなくてもMotionBoardで確認できるようになり、効率化とともにビジネスのスピードも向上しています。さらにExcelから脱却したことで、属人化の解消や入力ミスの防止も実現できました」
Dr.Sumによるデータ基盤の整備と、MotionBoardによる現場への定着を経て、JTAには日々のデータが蓄積され続けている。国吉氏は、次のフェーズとして見据えるのが、この蓄積したデータをAIでどう活用するかだと語る。「当社では生成AIを日常的に活用しており、簡易なアプリの作成など、現場の要望に素早く応える取り組みも進めています。また、今後生成AI機能を搭載したMotionBoardへのアップデートを予定しており、自然言語によるダッシュボード開発など、開発効率の向上にも期待しています。その先には、AIによるデータの予測・予兆分析にも取り組む予定です。少人数でも現場の要望に応え続けられるよう、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)による業務の抜本的見直しに取り組んでいきたいと思います」と展望を語る。(国吉氏)
可視化から始まったJTAのデータ活用は、現場の声を取り入れながら業務改善へと進化を続けてきた。今後も現場が主体となってデータを活用する仕組みを磨き続けることで、さらなる業務変革につなげていく考えだ。
JTAは、Dr.Sumによるデータ基盤を土台に、MotionBoardを活用した現場業務の改善を推進。グループ企業への横展開や、蓄積データのAI活用も見据えている

