少子高齢化に伴う深刻な人手不足と、固有の商習慣やレガシーシステムによる属人化が日本企業の変革を阻んでいる。この壁を破るのが、自律型エージェント基盤を提供するWonderfulだ。同社の「AIオペレーティングシステム(AI OS)」は既存システムを横断し、人間のように文脈を理解して複雑な実務を自律遂行する。システム刷新に多大な投資を強いることなく、即座に現場の戦力として機能することで、業務負荷の軽減と生産性の飛躍的向上を実現。限られた人材をコア業務へシフトさせ、企業の持続的成長を支える。その独自アプローチと日本市場での展望を、日本法人代表の細井智氏に聞いた。

日本企業の成長を阻む、
人手不足とIT環境の複雑化

Wonderful AI 株式会社

日本法人 代表執行役社長

細井 智 氏

中央大学卒業後、日立ソフトウェアエンジニアリングを経て、日本マイクロソフトでエンタープライズ事業、公共事業、パートナー事業、デジタルトランスフォーメーション事業を担当。執行役員常務、CTOなどを歴任。2022年にパイオニアへ入社し、常務執行役員モビリティサービスカンパニーCEO兼グループCISOに就任。2026年からWonderful AI 株式会社日本法人代表執行役社長。

 Wonderfulは、2025年1月に設立されたエンタープライズ向けAIオペレーティングシステム(AI OS)を提供する企業だ。設立からわずか1年余りでシリーズBに到達。またこの9月には5億500万ドル(約850億円)を調達し、シリーズBから半年でシリーズCに到達するなど、多くの投資家が同社の事業に期待を寄せていることが窺える。

 同社が注力するのは、既存の生成AI群を企業の実務に生かす「応用AI = Applied AI」の領域だ。

 「当社が担うのは、生成AIを企業の現場の業務プロセスに組み込むアプリケーション領域です。一つのモデルに依存せず、目的に応じて適切なものを選び、顧客企業の複数あるシステムと連携させることで、AIが実務を担える環境を整えます」と細井氏は説明する。

 同社はすでに30を超える国・地域で事業を展開する。その戦略の軸となるのが、AIエージェントを各市場の言語だけでなく、文化や法制度、企業固有のルールにも適応させる「ローカルファースト」の考え方だ。例えば日本語では、敬語や年代・性別に応じた言葉遣いに対応し、方言で話しかけられても内容を理解して標準語で応答できるという。

 こうしたローカルへの適応は、言葉遣いだけでなく、企業の業務やシステムにも及ぶ。細井氏は、SaaSの標準仕様に日本企業の業務を合わせようとすると、商習慣とのずれを埋めるため企業のプロセスを抜本的に変えるか、カスタマイズが必要になり、結果としてシステム導入に時間がかかると指摘する。企業をAIに合わせるのではなく、AIを企業に合わせる。それが同社の基本姿勢だ。

 そんな同社が日本の大企業の構造的な課題として挙げるのが、少子高齢化に伴う働き手不足とIT環境の複雑さだ。

 「人手不足は、特に人事や総務、財務などのバックオフィスで深刻です。若手の採用が難しく、既存社員の負担も増しています。IT面では、古い基幹システムと新しいクラウドサービスが混在し、環境が複雑になっています。全面刷新には3~5年かかるため、AIを導入して効率化を図ることになかなか踏み切れない企業も少なくありません。AIエージェントは人を減らすためではなく、不足する働き手を補い、既存のシステムも生かしながら活用すべきです」と細井氏は強調する。

システムの壁を越え、
業務を動かす「水平統合型」AI

 この二つの課題に同時に応えるため、同社が打ち出すのが複数のシステムやデータをまたいで業務を遂行する「水平統合型」のAIエージェントである。

 一般的な業務向けAIは、特定のシステムやサービスの中で処理が完結する「垂直統合型」が多い。しかし、実際の現場では複数のシステムをまたいで業務が進む。

 「担当者は顧客管理や会計、基幹システム(レガシーシステム)、表計算などを使い分け、そこで得たデータから情報を連携し次の判断につなげています。こうした業務を代替・支援するには、AIエージェントも複数のシステムへアクセスできなければなりません」(細井氏)

 水平統合型では複数のシステムを横断するだけでなく、異なる役割を持つエージェント同士を連携させ、一連の業務プロセスを完遂する。APIを持たない古いシステムにも、AIエージェントが人と同じように画面を操作してアクセスできるため、新たな接続機能の開発やシステム全体の刷新を前提とせずにAI活用を始められる。

 この仕組みを基盤として、同社は企業の利用シナリオとして三つの領域にAIエージェントを展開する。

 コールセンターやヘルプデスクの一次対応を音声やチャット、メールで担う「顧客対応エージェント」では、問い合わせに答えるだけでなく、顧客管理や会計など既存システムと連携し、必要な手続きまで進められる。現在、グローバルで最も導入事例が多い領域だ。

 「社内業務エージェント」では、従業員の仕事を領域ごとのタスクに分け、それぞれを専門のエージェントに担わせる。各エージェントが扱う情報や作業の範囲を限定することで、誤った回答やセキュリティーリスクを抑えながら連携して業務全体を進め、判断や承認が必要な場面には、人を介在させる「ヒューマン・イン・ザ・ループ」を組み込む。

 「バックオフィスエージェント」が担うのは、システム間の処理の自動化だ。その活用例として、細井氏が挙げるのが連結決算である。国内外の拠点から財務データを集める際、RPAで大部分を自動化しても、データの欠損や通貨単位の誤りがあれば人による確認が必要になる。決算期には、担当者が深夜まで作業を続けるケースもあるという。

 「バックオフィスデータの自動連携では、データが欠けると処理が止まったり、通貨単位が誤っていてもそのまま計算してしまうことがあります。AIエージェントは自律的に動くため、異常を検知し、処理できる部分を進めたうえで、人の判断が必要な箇所だけを提示します。例外が生じても業務全体を止めないことが、従来の自動化との大きな違いです」

 こうしたAIエージェントを業務に組み込むには、運用の自由度と安全性が欠かせない。同社はオープンプロトコルを採用し、AIエージェントに蓄積したナレッジやスキルを外部へ移せるようにすることで、特定の事業者から乗り換えにくくなる「ベンダーロックイン」を避ける。また、展開する先は、主要クラウドに加え、顧客専用クラウドやオンプレミス環境でも稼働できるため、こちらもベンダーロックインを避けることができる。

 セキュリティー面では、主要クラウドやSaaSベンダーが対応する第三者認証やデータ保護はもちろんのこと、AI固有のセキュリティーである、外部からの不正な指示によってAIを操るインジェクション攻撃への対策を講じる。また、実行できる操作やアクセス権限を「ガードレール」として定め、許可された範囲を逸脱しないよう制御する仕組みも取り入れている。

 これらのエージェントを組み合わせて、実際の企業の業務プロセスを遂行していくが、複数AIエージェントを展開すると、エージェントの管理やプロセスの監査も必要になってくる。これらを全体的に開発し管理しコントロールしていくために、WonderfulはAIエージェントOSを展開している。

 導入の速さも、同社の強みの一つだ。顧客とともに業務課題や現場の作業を整理し、要件定義からAIエージェントの開発、本番稼働までを一体となって進める。こうした伴走型の支援と、蓄積した知見や開発資産を生かすことで、一連の工程をおおむね1カ月前後で完了でき、金融を中心に、通信、製造、エネルギー、ECなど幅広い業界で導入実績を重ねている。

日本企業とともに
「素晴らしい世界」をつくる

 日本法人を率いる細井氏は、20年以上にわたり外資系IT企業でエンジニアや製品マネジメント、企業のデジタル変革などに携わった。その後、日本企業に貢献したいと国内の大手企業に転じ、退職にあたって次の進路を考えていた時、知人からWonderfulを紹介されたという。

 「当初は再び日本企業に入り、一社を支えるつもりでした。しかし、創業者から『AIエージェントが人の業務を支援し、実際の業務プロセスに深く関わる以上、その国の文化や商習慣への適応が欠かせない。だからこそ、日本を深く理解する人の力を借りたい』と言われ、その考えに強く共感しました。Wonderfulであれば、より多くの日本企業に貢献できる。そう考え、参画を決めたのです」と細井氏は振り返る。

 社名の「Wonderful」には、Wonderful World、素晴らしい世界をつくりたいという思いが込められている。それはそのまま、細井氏自身の思いでもある。

 「日本企業が抱える課題を解決するだけでなく、その先の変革まで伴走していきたい。私はそれこそが『Wonderful World』の実現につながると考えています」(細井氏)

 人手不足を補い、そこで生まれた余力を次の成長へ。Wonderfulは、AIエージェントの技術と顧客に寄り添う伴走力で企業の挑戦を支え、「素晴らしい世界」の実現に向けて走り出す。

https://www.wonderful.ai/

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