背景 奈良市が挑む行政DX
背景 日本の「OSアップデート」に貢献する

少子高齢化に対応すべく、2055年までに現行職員数の1/4の約500人で自治体業務を回せるようにする――。その実現に向けて、奈良市が本格的な行政DXに乗り出した。まず着手したのは電話対応業務のデジタル化である。クラウドPBXやコンタクトセンターなど、Zoomのソリューションを導入することで職員の負荷を軽減。今後はAIエージェントも活用し、一層の業務効率化と市民の利便性向上を図っていくという。

現在の1/4の職員で運営できる
自治体を目指す

少子高齢化に伴う働き手不足が日本の課題となっている。仮に出生率が今すぐ人口維持水準の約2.07に回復しても、人口減がストップするまで半世紀かかる。特に地方都市で若年世代の流出が進んでおり、多くの自治体が生産年齢人口の減少、財政基盤の弱体化に悩まされている。

仲川 げん氏

奈良市長

仲川 げん

「2025年に約19万3000人だった奈良市の生産年齢人口は、2055年には4割減の約11万8000人、新成人の数は半分以下になることが予測されています。同時に、近い将来には75歳以上の高齢者が全体の3割に達すると見込まれており、その状態で地域をどう維持していくかが重要課題になっています」と奈良市長の仲川 げん氏は語る。

この状況を踏まえ、奈良市はかねて行政運営の効率化を進めてきた。1995年に約3700人だった市職員は、現在は約2100人(消防職員を除く)。今後も採用調整などを続け、2055年までに消防職以外の職員数を現在の1/4以下の500人まで減らす計画だ。

「強引にリストラしようということではなく、採用できない時代を見越して『500人で回せる自治体』に変革するのが主眼です。時流に先んじた体制をつくることで、窮状を打破する狙いです」と仲川氏は説明する。

注目したのは、
非効率さの象徴だった「電話」

「500人で回せる市役所」を実現するためには、業務の生産性を向上させる必要がある。奈良市がまず注目したのが、市民や事業者などから日々かかってくる膨大な数の電話の対応を効率化することだった。

奈良市庁の入電件数は1日約5000件、年間総数は約131万件に上る。この対応にかかる職員の負担を軽減するため、2007年にはコールセンターを開設して運営を民間企業に委託した。だが、コールセンターへの架電は年間約14万件にとどまり、大半は担当課に直接かかってきていた。また、コールセンターの回答だけで対応が完了する電話も約4万件に過ぎず、残り約10万件は各部署へ転送されていたという。

「担当者が離席していればメモで用件を伝えなければなりませんし、そもそもリモートワーク中の職員は電話に対応できません。また、担当者につながらないたらい回しが頻発して市民の皆様にご迷惑をかけるなど、電話対応にまつわる課題はまさに『非効率さの象徴』でした」(仲川氏)

加えて、電話1件当たりの対応コストは人件費換算で785円。年間総額は約10億円に上り、電話対応の効率化はコスト削減の観点でも重要テーマとなっていた。

そこで奈良市は、老朽化していたPBX(構内交換機)をクラウド化し、場所に依存した電話対応からの脱却、外線と内線の接続、着信振り分けなどを実現することを検討。併せて、AIによる一次対応が可能なコールセンターに更新して、多くの市民がセルフサービス型で問い合わせへの回答を得られる仕組みの実現を目指した。

「自治体業務の大半は目視、対面、書面による対応が法令で義務付けられているため、これまで電子化が遅れてきました。しかし、デジタル技術やAIを活用した多様なサービスが世の中に普及する中、行政サービスだけアナログのままというわけにはいきません。私たちは、電話対応のデジタル化を『人手不足に起因する様々な課題』の解決に向けた第一歩だと位置付けています。この考え方のもと、行政DXに本気で取り組むことにしたのです」と仲川氏は強調する。

クラウドPBXとAIによって
電話対応を変革

この方向性のもと、共に取り組む事業者から提案を受けたのが、Zoomのソリューションを軸とした複合的なプランだ。具体的には、既存の庁内PBXを「Zoom Phone」へ、従来のコールセンターをAIファーストのクラウド型コンタクトセンター「Zoom Contact Center」へ刷新するものである。

変革は、行政としては異例といえる速度で進められた。2025年11月末にクラウドPBXの入札、翌月にコールセンターの入札が行われ、2026年3月半ばに本庁舎と新コールセンターでZoom Phoneが全面稼働。わずか2カ月半という短期間で稼働できた背景にあったのが、トップの強いイニシアチブだ。

「新旧PBXを並行稼働して、番号ポータビリティによって移行を完了できたという技術的な側面もありますが、DXに向けた意気込みが弱ければここまでのスピード感は得られなかったでしょう。強い思いで変革を推進しました」と仲川氏は述べる。

2026年春には本庁と一部出張所の固定電話約1000台をZoom Phoneに入れ替え、庁舎外でも電話に対応できるようにした。また新しいコールセンターでは、AIによる通話内容の文字起こしや要約機能を用いて伝言メモを作成。オペレーターの負担軽減や職員間の情報共有促進を図っている。

さらに近い将来には、高度な会話型AIを活用したカスタマーサポートおよび自動受付ソリューションである「Zoom Virtual Agent」の運用を開始する予定だ。

「Zoom Virtual Agentでは、音声ボットが問い合わせ内容を理解して、FAQに基づいて自動で回答してくれます。24時間365日の電話対応を実現し、市民の利便性を高めるとともに、職員の対応件数をさらに削減したいと考えています」(仲川氏)

なお、Zoom Virtual Agentは継続的に稼働する中で電話対応のナレッジを蓄積していくため、問い合わせ対応の精度も上がっていく。使えば使うほど、住民にとって便利な仕組みを実現することができるだろう(図)。

図 奈良市が目指す電話対応の仕組み(イメージ)

図 奈良市が目指す電話対応の仕組み(イメージ)

複数のZoomソリューションを組み合わせることで、職員の負担を抑えつつ住民にとって使いやすい問い合わせ対応の仕組みを目指す。なお、コールセンターシステムの入れ替えによる年間約5000万円のコスト削減も見逃せない効果だ

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自治体業務の変革は
「OSのアップデート」

このように、電話対応業務の変革は奈良市に大きな価値をもたらしつつある。ここから推測すれば、「2055年までに職員数を1/4に減らす」という奈良市の構想も、十分現実的なものだといえそうだ。

「現在、奈良市は人件費に年間約300億円を投じています。職員数が1/4になれば、職員の給与を2倍に引き上げても年間約150億円で済みます。奈良市の人口34万人は日本の総人口の約1/400ですから、全国で私たちと同様の取り組みが進めば、単純計算で年間約6兆円の国費が浮く計算になります。これを戦略的な分野に投資すれば、日本経済の成長力も維持・回復できるのではないでしょうか」と仲川氏は話す。

一般的に「行政サービスのデジタル化は簡単ではない」といわれる。だが、奈良市の取り組みを見る限り、それは必ずしも真実ではないようだ。例えば奈良市は、電話対応のデジタル化とほぼ同時期に、紙と判子で行ってきた1025件もの行政手続きのデジタル化を完了させた。さらに今後は、市民の声をリアルタイムに政策に反映する「広聴AI」の活用も積極的に検討していく考えだ。

「自治体における業務の変革は、PCにおける『OSのアップデート』に例えられると私は思います。今までの延長線で考えるのではなく、思考を新しく切り替える。奈良市のような地方都市ができたのですから、ほかの自治体ができないはずがありません」と仲川氏は強調する。

1970年代の石油危機に、日本は世界最高水準の省エネ技術を生み出した。つまり、ピンチをチャンスに変える力こそが日本の強みといえるだろう。人手不足という新たな危機を乗り越えた先に、再び世界で躍進する日本の姿が見えてくるはずだ。

「Zoom Experience Day 2026」開催

Zoom Experience Day 2026

Zoomの最新テクノロジーを国内向けに発表する年次イベント「Zoom Experience Day」。2026年4月の開催では「~Beyond Meetings ビデオ会議の先へ~」をテーマとして、官民のキーパーソンがAI時代のコミュニケーションの進化について語った。

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