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コロナ禍で、私たちは改めて「健康」の大切さを考えさせられました。わたしたちの健康は、「地球の健康」とも深く関わっています。人の健康も、地球の健康もつながっている。そんな「プラネタリーヘルス」という考え方を最新ヘルスケア事情に詳しい医師・桐村里紗先生に伺いました。

人の健康も地球の健康もつながっている

──あまり聞き慣れない「プラネタリーヘルス」ですが、これはどういう意味なのでしょうか。

日本ではあまりメジャーではありませんが、2015年に世界的に権威のある科学誌「ランセット」によって世界に広がり、国際会議「ワールドヘルスサミット」でも発表された言葉です。その概念は、人類と地球を一体と考え、人類の健康は、地球の健康とは切り離せないというもの。これからわたしたちが健康で生きていくために、とても重要な考え方です。

わたしたちひとりひとりの健康は、公衆衛生、国際保健、あらゆる動物や生態系の健康、そして自然を含めた地球全体の健康の一部です。

ひとことで「プラネタリーヘルス」を説明すると、人も地球のシステムの一部であり、人の健康は地球の健康、つまり環境問題を含むさまざまな問題と深くつながっているということになります。わたしたちは自分や家族の健康は個人の問題と考えがちですが、自分が健康であるためには、地球の健康を考えなくはならないということです。

人も地球のシステムの一部

──地球の健康が、私たちの健康につながっている──。わかっているようで、なかなか意識できていないかもしれません。

当たり前ですが、人も地球という大きな循環システムの中に組み込まれています。気候変動などのさまざまな環境問題は、わたしたちの健康に大きな影響を与えています。たとえば気候の変化で収穫できる作物の種類や量が変化したり、農薬や添加物など安心・安全にまつわる問題、現代病といわれるアレルギーなども、その一例です。

これまでのように「自分だけの健康を考えればいい」という時代は終わり、これからは「自分の健康のためにも地球の健康を考える」時代です。それはつまり、「自分だけの幸せ」から「地球全体の幸せ」を考えるということです。

「土」と「腸」は、同じ働きをしている

──桐村先生は腸についても詳しいですが、著書によると人の体の腸は地球の土の果たす役割に似ているそうですね。

その通りです。土は、人を含むあらゆる生き物の生態系を支える「土台」。土の中のさまざまな土壌生物や微生物(土壌菌など)が、落ち葉や動物の死骸を分解。それが植物の根から吸収されます。土の栄養をたっぷり吸収した植物は動物の食べ物となり、その動物をまた肉食動物が食べる。これが食物連鎖の仕組みです。

森の仕組みと同じことが私たち人間の消化器でも行われています。つまり、私たちの腸の中にも土があるのです。体内に取り込まれた食物を消化活動とさまざまな腸内細菌が分解し、土ができます。それを腸にあるヒダを作る上皮細胞が、植物の根のように栄養素として吸収します。

わたしたちひとりひとりの健康は、公衆衛生、国際保健、あらゆる動物や生態系の健康、そして自然を含めた地球全体の健康の一部です。

植物が元気でいるためには土と根が大事なのと一緒で、人の健康は腸内環境に大きく左右されます。健康な土にはさまざまな土壌菌が含まれるように、腸もバラエティ豊かな腸内細菌がバランスよく存在することが大切なのです。これがよくいわれている「腸内フローラ」です。

また、土壌菌は農作物の皮だけでなく、果肉や芯にも含まれています。それを食べる私たちの体の中にも土壌菌が吸収され、健康維持に一役買っています。

大規模農業の発展と食の偏り

——腸内環境と健康の大切さは理解している人も多いと思いますが、それが地球の環境と具体的にどのように関係するのでしょう。

私たちの食を支えている土は、近代農業の発展によって大きくバランスを損なわれてしまいました。大規模農業による大量生産は栽培する品種の偏り、農薬や化学肥料の消費で土の中の微生物の働きを弱めています。それが周囲の動植物にも影響し、さらには、さまざまな環境問題に発展。地球の健康そのものが、危機的状況となっています。

一方、私たちの腸内環境について考えてみると、バランスの取れた腸内環境とは、多様な腸内細菌がそれぞれの個性を発揮し協力しあって存在できている状態です。ビフィズス菌や乳酸菌は善玉菌ですが、それだけがあればよいということではないのです。

しかし、大規模農業の実現で世界的に食の欧米化が急速に進んでいるのが現実です。世界には、歴史文化にもとづいたさまざまな伝統食がありますが、食が欧米化することで、バラエティが失われています。小麦や牛乳、肉中心の偏った食生活は、腸内細菌のバラエティも低下させるうえに、もともとその土地の風土に合った腸内環境を大きく変えてしまい、それがさまざまな健康問題を引き起こしています。

身近な日々の暮らしで
「プラネタリーヘルス」を実践

——農業のあり方を考えて地球の土の健康を守ることは、わたしたちの食の安全や腸内環境のバランスにもつながるんですね。では、プラネタリーヘルスのために、わたしたちはどんなことをしたらいいのでしょう。

まずは、土にやさしい食べ物を選ぶということです。農薬や化学肥料を使わない作物を選ぶことは、土にも自分の体にも直接的なプラスとなります。

食の背景を考えることも、とても大切ですね。

たとえば、栄養価が高い健康食品のアボカドは、目先の自分の健康にはいいかもしれませんが、地球環境の視点では大きな問題を抱えています。生産地であるブラジルやその他の途上国では、大量の水を消費してアボカドを大規模に生産。土地の水を奪うだけでなく、農薬や化学肥料を使って集中的にひとつの作物を栽培することで、土がやせていきます。また、世界中にアボカドを輸送することでCO2排出の問題も生じています。

そう考えると、スーパーで食材を選ぶときは、少しでも地球環境によいものを選ぶ目を持ちたいですよね。たとえば地産地消は、輸送コストを低減したり大規模農業に加担しないことなどから地球環境にもやさしい、日常ですぐできるアクションのひとつです。

食事をパンとコーヒーから、ごはんと納豆、お味噌汁という和食に変えるのもオススメです。具だくさんの味噌汁ひとつあれば、栄養満点の発酵食品を食べられます。特に子どもたちには、小さい頃から和食中心で、腸と地球の健康を意識した食生活を送ってもらいたいですね。

自然に触れて地球とつながる幸せ

——桐村先生は今、鳥取県の米子市で無農薬・無施肥・不耕起栽培の「協生農法」にもチャレンジされているんですよね。

バラエティ豊かな100種類以上の植物を協生農法で栽培。自然豊かな鳥取での暮らしで心身ともに健康になったという桐村先生。

米子市をホームタウンとするJリーグチーム「ガイナーレ鳥取」の敷地の一角に、100平方メートルの畑をつくって、無農薬で肥料も使わずに、さらに耕すこともなく、多様な種類の作物を栽培しています。食べられる作物だけでなく、食べられない植物、雑草なども合わせて、100種類以上が共生している環境をつくっています。そのため東京と鳥取の2拠点暮らしをしているのですが、これがとても快適なんです。鳥取の生活では、自然に合わせて人間本来のリズムを取り戻せたと実感しています。

東京のコンクリートに囲まれた暮らしは、どうしても閉塞感があります。いかに自分が知らず知らずのうちにストレスをため込んでいたのかよくわかりました。今は心も体も開放して暮らせる鳥取に完全移住することを考えているほどです。

特に都会では、多くの人が土に触れるチャンスがほとんどありません。しかし、陸上に暮らす動物で土に直接触れないのは人間だけです。生き物としての五感を取り戻すためにも、ぜひ靴と靴下を脱いで土に直接触れてみてほしいですね。それだけで、心がゆったりしてくるはずです。

近くの公園でもいいですし、最近人気のキャンプも裸足で土と触れ合う絶好のチャンスです。土とじかに触れることで、地球と自分の体がつながっていることをぜひ体感してみてください。

桐村里紗先生
内科医・認定産業医。tenrai代表取締役

最新の分子栄養療法や腸内フローラなどを基にした予防医療、生活習慣病から終末期医療、女性外来まで幅広い診療経験をもとに、人と地球全体の健康を実現する「プラネタリーヘルスケア」や女性特有の悩みを解決する「フェムケア」など世界の最新ヘルストレンド情報をさまざまなメディアで発信。『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)など著書多数。
tenrai https://tenrai.co/

取材・文/久遠秋生 イラスト/コダシマ アコ

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