前任者不在の新領域で磨かれたリーダーシップ
奥田幸江さん・AKKODiSコンサルティング取締役(以下、奥田さん):大西さんは2024年にNTTで初の女性常務取締役に就任されました。現在のミッションや具体的なご担当領域についてお聞かせください。
大西佐知子さん・NTT常務取締役(以下、大西さん):私のミッションは、新たな価値を創造し、NTTグループの持続的な事業を生み出すことです。そのために「事業貢献が高い革新的な研究開発」「他社とのアライアンス(共創)による新たな事業創出」「顧客視点のマーケティング」という3つの機能を強化し、事業創出を推進しています。奥田さんはAKKODiSコンサルティング(以下、AKKODiS)の取締役として、どのような役割を担っていらっしゃるのですか?
AKKODiSコンサルティング 取締役
People Success本部 本部長
奥田幸江さん
奥田さん:大きく2つの役割があります。1つは、日本におけるAKKODiSの取締役兼People Success本部長としての人事責任者。もう1つは、APAC地域(シンガポール・中国)のHR責任者としてグローバル人財戦略を推進することです。
大西さん:奥田さんはコンサルティングファーム出身で人事領域のキャリアが長いそうですね。なぜAKKODiSを選ばれたのでしょうか。
奥田さん:AKKODiSの持つポテンシャルに惹かれたからです。一般的なコンサルティングは第三者的な立場にとどまりがちですが、AKKODiSのテックコンサルタント※はお客様の現場に深く入り込み、実務を担いながらお客様と共に変革や改善を支援できる強みがあります。また、グループのグローバルアセットを活用すれば、世界へのビジネス展開を目指す日本企業をより強力に支援できると考え、ジョインを決意しました。
- ※AKKODiSでのエンジニアの呼称。
ところで、大西さんは「フレッツ」などの新サービス立ち上げに従事され、キャリアの7割が前任者のいない新規領域だったそうですね。ご自身で希望された道だったのですか?
NTT 常務取締役 常務執行役員
研究開発マーケティング本部長
大西佐知子さん
大西さん:いえ、自ら希望したというわけではなく。当時の人事配置の慣行では、中核部署には確立されたキャリアパスがあり、女性は比較的「新しい領域や新規事業」を任されることが多い傾向にありました。既存のポストを奪い合う必要がないからです。当時はなぜ私が新しい組織への異動が多いのかという観点をあまり不思議に思っていませんでしたが、後にある外資企業の人事女性役員から「あなたのキャリアもまさにそれね」と指摘され、なるほどそういう見方もあるのかなと思いました。結果的に前任者がいない新規領域での経験を積めたことが今のキャリアの礎となり、とても感謝しています。
「本質、目的を考えて形にする」現場のダイナミズム
奥田さん:特に印象に残っているプロジェクトは何でしょうか。
大西さん:やはりインターネット向け定額制接続サービス「フレッツ」の立ち上げです。初めての管理職、初めてのインターネットサービスプロバイダとの協業モデル等、まさに初めて尽くし。そのうえ立ち上げ当初は、NTTとしては協業と思っていたプロバイダからは、一見すると利害が対立するとみられ、各社から猛烈な反対を受けました。プロバイダの幹部クラスから怒りのメールが、当時担当課長だった私へ直接届くほどの逆風でした。
奥田さん:どのように状況を打破したのですか?
大西さん:フレッツの立ち上げの根幹を揺るがす重要なことでしたので、階層を飛ばして副社長に直接メールし、プロバイダやお客様の声を即座に経営層と共有する仕組みを作りました。これが突破口となり、組織が劇的に動き出したのです。プロバイダ各社とも市場を共に創るパートナーとして信頼を築き、新規サービスの立ち上げ時にありがちな膨大な苦情や組織の混乱を乗り越えながら、全員がフラットに動くダイナミズムを実感しました。この「規定路線を踏襲せず、目的、本質を考えて形にする」経験が、今の私の糧になっています。
奥田さん:私も似た経験があります。ある大企業で、2年間停滞していた評価制度の改正を短期間で実現したときのことです。数値ではなく育成計画に基づくフィードバック文化を定着させるため、9段階だったレーティングを3段階へ大胆に簡素化しました。
評価は報酬に直結するため、現場からは猛反発を受けました。そこで私は各地の支店や工場を直接回り、現場マネージャーとのワークショップを重ねる「巻き込み型」のアプローチを取りました。制度の狙いを自分の言葉で語り、現場の方々にも自分の言葉で咀嚼してもらう。この対話なしには、納得感のある運用は実現できなかったと感じています。この経験が、今も現場との対話を何より大切にする私のスタンスの原点になっています。

内なる自信を育み、バイアスを打ち破る組織づくり
大西さん:「自分の言葉で語る」という、人間の感性を大切にされたのですね。そうした経験が、今のAKKODiSでの取り組みにも活きているのでしょうか。
奥田さん:キャリアにおいても会社が用意した枠組みではなく、本人が自分の言葉で語ることが重要だと実感しました。AKKODiSでは、社員一人ひとりの「ライフビジョン・キャリアビジョン」を言語化し実際の業務内容や働き方を結びつける「ビジョンマッチング」がキャリアパスの中核にあります。
お客様先での仕事であっても、「お客様のミッションに、自分はどう貢献しているのか」を実感できることが、納得感のある働き方につながると考えています。
また、組織としては女性管理職の比率向上にも注力しています。2025年に実施した社内調査では、管理職および女性メンバーの多くが「時短勤務だから昇格は難しい」といったバイアスに悩んでいることが浮き彫りになりました。こうした思い込みを打破し、時間制約にかかわらず成果を出す優秀な層を、経営層と共に引き上げていくフェーズにあります。
大西さん:NTTでも女性登用を進めていますが、女性優遇と誤解されることもあり、その受け止め方に悩み、管理職になることを躊躇してしまう女性も少なくありません。これが、「女性は管理職になりたがらない」というバイアスになっていたりする。実際には、「管理職になりたくない」のではなく、ライフステージとの兼ね合いや、自己評価を低く見積もっている等の理由があり、不安の要素を一つひとつ紐解いていくと、「やってみます」と迷いを払拭できる方も多い。
私自身、正直なところ管理職に任命された際には、私にできるのだろうかと不安に思っていましたが、役割が人を育てる、やってみてわかること、できること、拡がることがあり、新たに見える景色がありました。経験は人を育てる、「まずはやってみよう」と背中を押すことの重要性を実感しています。
同時に、無意識のバイアスに気づくことも大切だと考え、NTT西日本が「karafuru AI」※というツールを開発しました。例えば「女性は管理職になりたがらない」等の隠れたバイアスや思考のクセに気づき、行動変容を促すツールで、既に30社7000人以上にご利用いただいています。組織を超えてバイアスに気づき、多様な人材が気持ちよく働ける環境づくりを社内外へ広げているところです。
- ※ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)に向けたアンコンシャス・バイアスチェック&トレーニングツールkarafuru AI(カラフルAI)https://www.nttbizsol.jp/service/karafuru-ai/
奥田さん:すばらしいツールですね。実は私も大西さんと同じく、管理職はできないと思っていました。漠然とした不安から挑戦をためらう若手社員も多いですが、私の経験上、やってみなさいと背中を押してくれる上司の存在は大きいです。そして、やってみて初めて分かる面白さがあります。不安を一つひとつ丁寧に紐解きながら、「まずは挑戦してみよう」と背中を押す働きかけを組織全体で広げていきたいです。
AI時代にこそ価値を持つ「実体験」の重み
大西さん:情報があふれる時代で、人は無意識に必要な情報を選択しています。逆にいえば、必要だと思う情報以外はすべて見えていないのと同じ。でも、AI時代は情報が構造的に整理されるので、全体を俯瞰できている、わかっていると思ってしまいがちです。でも、それは「知識として知っている」だけに過ぎません。実際に当事者として経験し体得する情報は、全く次元が違うんです。
例えば、私も子どもを持つ前は、友人から「ベビーカーを押しているとき、階段があって困る」という話を聞いて、「大変なんだろうな」と理解していたつもりでいましたが、どこに階段があるかは覚えているわけではない。ところが、いざ自分が子育てをして当事者になると、街中にこんなにも段差が多いのかと、理解から実感へと変わりました。自分がベビーカーを押して通勤するようになったら、どこに階段があるかが頭の中に完全に地図ができていくんですね。象徴的だったのが、社内に保育園ができたときのことです。せっかく社員のために作った保育園なのに、入り口に5段の階段があったんです。設計にかかわった人も、知識として段差がないほうがよいことは理解していたと思うのですが、その知識が設計に反映されていない。実際にベビーカーを押した経験があったら、5段の階段は作らなかったのではないかなと思っています。
奥田さん:おっしゃる通りで、実際に経験することと情報として知ることには大きな差があります。AIを活用しても、最後の判断やイノベーションの源泉になるのは、データに表れない部分を感じ取り、一見異なる要素をつないで新しい価値を創造するアンテナを持った人だと思います。
大西さん:本当にそうですね。どんなにさまざまな情報をもとに綿密に作成したマニュアルがあっても、現場で実際に経験した人の気づきにはかなわない。それを実感したのが、大阪・関西万博のNTTパビリオンでの例です。国内のNTTグループ社員15万人から運営スタッフを募集し、約2300人が参加。一人5日間、全44期に分けて運営しました。当初は事務局作成のマニュアルで開始しましたが、実際の接客を通じて改善案が次々と生まれ、各期で引き継がれた結果、44期目には当初と全く異なるマニュアルに進化しました。参加した社員たちが、「もっとお客様に楽しんでいただきたい」など、実際にお客様と接している中で湧き上がった自らの内発的動機からアジャイルで改善を重ねた成果です。
奥田さん:今の時代、キャリアもアジャイルでいいんですよね。一昔前のように年齢に応じた決まった道を歩む時代ではありません。一度決めたら終わりではなく、興味があることに飛び込み、面白ければ深掘りする。そんな柔軟なキャリアのつくり方でいいのだと思います。
大西さん:「キャリア」の語源は、馬車が通った「轍(わだち)」だそうです。つまり職歴だけでなく、人生のあらゆる経験が、振り返ったときに自分だけの道になる。ワークもライフも恐れずにチャレンジすることが、自らの引き出しを増やし、キャリアを拡げ、人生を豊かにしてくれます。
奥田さん:30代、40代は、キャリアもプライベートも、チャンスや選択肢が次々と訪れる時期です。だからこそ大いに悩んでいい。むしろ悩みに悩み抜いてから「自分で選ぶ」ことが大切だと思います。
やらずに後悔するより、恐れずにさまざまなことに挑戦し、まずは一歩踏み出してほしい。壁にぶつかっても、「どうすればできるか」「誰に助けてもらうか」を考えれば必ず道は開けます。自ら選んで進んだ経験は、必ず自分の力となり、決してあなたを裏切りません。

