
ストレスや疲労を抱える現代女性は、
呼吸が浅く、速くなりやすい
「浅呼吸(あさこきゅう)」になりがちです。
改善のカギはバスタイム。
お風呂に入るとリラックスできるだけでなく、
呼吸も深くなるといいます。
文京学院大学の柿崎藤泰さんに、
呼吸の浅さのメカニズムや、
呼吸を深くする
バスタイムの活用法などを聞きました。

柿崎藤泰さん理学療法士、医学博士
文京学院大学保健医療技術学部教授。
昭和大学医学部第二生理学教室 博士課程修了(医学博士)。
昭和大学藤が丘リハビリテーション病院、
昭和大学附属豊洲病院などを経て現職。
胸郭の運動分析、呼吸運動療法などが専門。
精神的なストレスや身体的な疲労感を、日々感じていませんか? 花王が全国の20~50代の女性500名を対象に行った「呼吸に関する意識調査」では、58.8%の人が「精神的なストレスを感じている」、54.8%の人が「身体的な疲労感がある」と回答。そのうち約4割の人が精神的ストレスと身体的疲労感を「強く感じる」と回答しています(下グラフ参照)。ストレスと疲労は、忙しい現代女性にとって切っても切れない悩みの種の一つといえるでしょう。

もう一つ注目したいのが、現代女性の多くに「浅呼吸」の傾向がある点です。浅呼吸とは、日常の中で呼吸が浅くなったり、速くなったりする状態をいいます。花王の同調査によれば、日常生活の中で「浅呼吸」に気づくことがある人は58.8%と過半数を超えています(下グラフ参照)。
普段はあまり「呼吸」に意識を向けていなくても、「そういえば仕事に追われているときなど、無意識に息を止めている瞬間があるかも」と思い当たる人は多いのでは? 実はこの「呼吸の浅さ」が、心身のリラックスを妨げる一因になっている可能性があります。

呼吸が浅くなりやすい原因の一つに、「スクリーンタイム」があります。スクリーンタイムとは文字通り、スマートフォンやパソコン、タブレット、テレビなどの「スクリーン(画面)」を見ている合計時間のこと。前述の調査の設問の一つ「1年前と比較してスクリーンタイムが増加したと思うか」については、浅呼吸を自覚している人のスクリーンタイム増加の割合は64.3%。全体と比較して6.9ポイント高くなっています。また、精神的ストレスと身体的疲労も、浅呼吸自覚者の割合は全体と比較すると高いことも注目したい点です(下グラフ参照)。




スクリーンタイムが増えると、なぜ呼吸が浅くなりやすいのでしょうか。
「スクリーンに集中すると、頭が前に出て、背中が丸まる姿勢になりがちです。この姿勢が続くと胸椎(背中の中央にある背骨)にねじれが生じ、そこにつながる肋骨の配列が乱れます」と説明するのは、文京学院大学保健医療技術学部教授で理学療法士の柿崎藤泰さん。
「肋骨は呼吸に合わせて開閉する“カゴ”のような役割を果たしています。配列が乱れるとカゴがうまく開かず、空気を取り込みにくくなります」
さらに肋骨のゆがみは、呼吸の役割の7割以上を担う横隔膜にも影響します。「横隔膜の働きが著しく低下し、結果として呼吸が浅くなります」
浅呼吸は、首や肩の筋肉を無理に使って空気を吸おうとする「努力呼吸」を招きます。
「するとさらに姿勢が崩れ、交感神経の活動が高まります。こうして心身がリラックスできない“負のスパイラル”に陥ってしまうのです」
精神的ストレスや身体的疲労感の軽減のためにも、浅呼吸の予防や改善は大切な課題です。とはいえ、もはや生活インフラの一つとなっているスマートフォンの閲覧時間を減らすなど、スクリーンタイムを短くするのは難しい現状があります。
ではその分、意識的に深呼吸しよう。そう思っていても、仕事に集中したり、息抜きのスマホゲームなどに没頭したりすると、つい呼吸が浅くなったり、息を止めたりしてしまいがち。そこで活用したいのがバスタイムです。
「水(お湯)による浮力を利用できる入浴には、体を支える大きな筋肉の緊張をやわらげる効果があります。また、お湯の温かさによっても、筋肉のこわばりがほぐれます。体の力が抜けることで体の深部にあるインナーマッスルの一つである横隔膜が動きやすくなり、自然と呼吸が深くなります」と柿崎さん。
実際、お風呂に入ると心身ともにリラックスできることを実感している人は多いのではないでしょうか。
前述の調査によれば、リラックスする方法のトップ3は「おいしいものを食べる」「十分な睡眠をとる」「テレビ・映画・動画などを観る」。続く4位が「お風呂にゆっくり入る」でした。さらに、「お風呂にゆっくり入る」人は、「深呼吸などの呼吸を意識している」回答が53.8%と全体と比較して11ポイント高く、浅呼吸の割合が低い結果が出ています(下グラフ参照)。

バスタイムにより深く呼吸するためには、湯気とともに浴室の空間に広がる「香り」も重要な要素だと柿崎さんは話します。
「好みの香りを嗅ぎながら呼吸をすると、大脳に刺激が伝わり、自律神経のバランスが整います。その結果、呼吸が深まりやすくなります」
水の浮力やお湯の温かさで筋肉の緊張をやわらげる。心地よい香りで自律神経のバランスを整える。この2つの効果によって、毎日のバスタイムが、自分自身をそっといたわり、ゆっくり深く息を吸い込むやわらぎタイムに。
忙しくてつい呼吸が浅くなりがちな日々だからこそ、“ご自愛時間”を生活にぜひ組み込んでみてはいかがでしょう。