5Gで変わる
モビリティー

5G+EVで加速する
「クラウドシフト」

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轟木 光

電動化や自動運転化などの技術革新により、大きな変革期を迎えている自動車業界。そこに5Gはどのような影響を及ぼすのか。自動車業界に詳しいアビームコンサルティングの轟木光氏に、将来展望を聞いた。

MaaSによる変革進む自動車業界

 自動車業界における、5G(第5世代移動通信システム)への期待はどのようなものでしょうか。

 5Gは自動運転との関わりが強く、将来的に自動運転する電動自動車(EV)が普及する時代には欠かせない技術だと見ています。なぜなら、EVの航続時間を伸ばすために、車両側の消費電力をできるだけ抑える必要があるからです。車両で生じたデータについてはクラウドに送出し、GPU(画像処理装置)を必要とするような複雑な処理はクラウド側に任せてしまいたいのです。

 5Gと自動運転については追ってまたうかがいたいと思いますが、まずは自動車業界の現状についてお聞かせください。自動運転やEVといった新しい技術が入ってきた自動車業界は、現在どのような変化が起こっていますか。

 現在、自動車業界においては「接続性(Connected)」「自動運転(Autonomous)」「シェアリング(Shared)」「電動化(Electric)」の頭文字を取った「CASE」が話題になっています。このCASEを言い始めたのはドイツのダイムラーです。CASEを構成するこの4要素が、相互にどう関連し合うのかを分析するに当たり、彼らの戦略を紐解く必要があると考えました。

 前提となるのは、台数で勝負するマスブランドである日本企業とは異なり、彼らは付加価値を追求するラグジュアリーブランドであることです。彼らは、販売台数を増やすとブランドの希少価値性がなくなり、商品の販売単価が安くなるという事業構造があります。彼らとしては、この状況下で成長を目指して「もがいて」いるのです。

轟木 光(とどろき・ひかり)

1999年日産自動車に入社。車両およびパワートレイン領域の商品および技術開発、経営企画にて環境課題を解決するための商品技術戦略を担当。3年間ドイツに駐在し、欧州の自動車産業のエキスパート2000人以上と交流、人脈を構築。2017年にアビームコンサルティング入社後は、日本の自動車産業を中心に戦略策定、調査などのコンサルティング活動に従事。現在でも、欧州・中東、東南アジアおよび中国へ自ら出張し、最新の情報・動向を収集。多数の外部講演、企業内セミナー活動も実施。

 例えば、過去には小型自動車のマスブランド「Smart」を投入しました。最近ではシェアリング関連企業に投資を重ねています。明確なのは、競合他社とマスブランド市場で戦うことです。ラグジュアリーブランドにおける価値を保ったまま、マスブランド市場を攻めることで企業としての成長性があると気がついたわけです。そこで4文字の造語が浮かび上がったということです。

 ラグジュアリーブランドは守る事業とし、マスブランドについては攻める事業とした。マスブランドを攻めるためのキーワードとして、CASEを位置づけたのですね。

 はい。現在ダイムラーは5個のビジネスユニットを再編し、持ち株会社の下に、高級車事業を推進する「メルセデスベンツ」、商用車の「ダイムラートラック」、そしてフィナンシャルとシェアリングを合体した「ダイムラーモビリティー」の3社を置くことにしました。これも、今後の成長のための再編ということになります。

 技術変化の一方で、顧客の嗜好も変化しています。シェアリングサービスを使う若者にヒアリングしたところ、そもそも「クルマを買えない」という答えが返ってきました。クルマを買えない若者にとっては、移動手段としてシェアリングサービスが有効なのです。スマートフォンで予約から決済まで完結できることも魅力的です。

 身の回りのモノが充足した現代では、4P(Product、Price、Place、Promotion)を重視する売り手視点の発想から、4C(Customer Value、Customer Cost、Convenience、Communication)を重視する買い手視点の発想が必要です。4Cの社会は、顧客が価値を共創し、顧客が価値を消費しながら継続的に価値を最大化する社会です。ジェネレーションZ(Z世代)と呼ばれる1990年代後半から2010年くらいに生まれた世代は、「サブスク(サブスクリプション)」といわれる定額サービスになじみがあり、シェアリングサービスの利用にも積極的です。

 今後、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)の浸透によって生まれる産業変化についてはどのようにお考えでしょうか。

 まず自動車産業について言えば、MaaSの広がりはリスクとなります。シェアリングサービスが広がることで、影響を受けるのはラグジュアリーブランドよりもマスブランドです(図1)。マスブランドの購入者は、保有することへのこだわりが比較的強くありません。となると、より高い商品を売るラグジュアリーブランド戦略が必要となります。「良いものを安く」から「より良いものをより高く」という転換です。一部の企業はこのブランド転換を始めていますが、今後はこの流れが加速するでしょう。

図1 マスブランドの販売台数は2018年比で30%減少
出所:アビームコンサルティング
※1 アビーム予測。⽇本・欧州・米国・中国の4地域
※2 アビーム予測。⽇本・欧州・米国・中国の4地域のカーシェアリング、ライドシェアリング、⾃転⾞シェアリング