5Gで変わる
モビリティー

MaaSが生み出すビジネスチャンス

 次に部品を供給するサプライヤーです。彼らは数量ビジネスですから、数を追わないと売り上げと利益を確保できません。日本の自動車メーカーだけを頼っていては立ち行かないので、新しい販路が必要です。具体的には、中国の完成車メーカーがターゲットになります。

 自動車販売店としては、商品の流通量が減るということになりますから、サービス側にシフトする必要があります。とくに都市部では公共交通機関が充実しているので、クルマの保有者については所得が比較的高い人の比率が増えていくでしょう。シェアリングサービスの利用者が増えるに伴い、クルマを販売する場所からシェアリングサービスのハブ拠点への切り替えが求められます。

 公共交通機関については、このままの規模を維持できるかという視点で見ています。例えば、九州旅客鉄道(JR九州)初代社長の石井幸孝氏は、著書『人口減少と鉄道』(朝日新聞出版)の中で、現在黒字のJR3社も、人口減少を背景に採算割れの危機があることを述べています。これは一例で、公共交通の経営は非常に難しくなるのではないでしょうか。

 今後の公共交通機関の最適化を考えたときにMaaSは有効です。例えばバス会社は、輸送車を大型バスからミニバンに替えてオンデマンドにして効率化します。これからは小さい車両をよりたくさん走らせて、ITによって効率性を上げていくことになるでしょう。このシフトを提案しているのがイスラエルのヴィア(Via)です。

 人口増加局面では効率化のために車両を大型化してきましたが、人口が減少する今後は発想を変える必要があるということですね。

 あらゆる業界で見直しが始まります。公共バスのダウンサイジングの話をしましたが、タクシー業界では空走率を下げる試みが進むでしょう。こうした効率化の今後の取り組みとしてポイントになるのが、他業種との連携です。

 今後提供される移動サービスは、「二元化」を意識することになります。1つは、日常の手段としてのサービスです。生活に欠かせない病院や買い物への移動手段を、できるだけ安く提供することが求められます。高齢者を対象とした国土交通省の調査を見ると、「自宅から駅やバス停までの許容距離として5分未満」を挙げる人が2割を占めるという結果が出ています。ヴィアが提唱する「バーチャルバスストップ」のような自宅付近までのお迎えサービスを提供する代わりに、スーパーや病院からキャッシュバックを受け取るようなお金の流れが生まれるでしょう。

 もう1つは、富裕層向けのサービスです。例えば、距離限定ながら定額制の乗り放題サービスが考えられます。これも移動先、例えば客足が遠のいていると言われる百貨店などからキャッシュバックを受けられるかもしれません。いずれにしてもお金が回るサイクルを考えることが重要です。

 この他には、どのような事業にチャンスがありますか。

 19世紀半ばに米国で起こった現象になぞらえて、我々は「ゴールドラッシュ論」と呼んでいますが、「金脈を求める人向けの商品とサービス」にチャンスがあると考えています。

 米国のゴールドラッシュでは、作業着を作って儲けた人たちがリーバイスという企業を立ち上げました。スコップやバケツを売った人たちはサミュエル・ブラナン、お金を預かった人たちはウェルズ・ファーゴを設立しました。ここから学べるのは、変革が起こっているとき、裏方の方がお金になりやすいということです(図2)。

 それでは、シェアリングが広がる今後どのような事業にチャンスがあるでしょうか。1つは、カーシェアサービスの運転手向けに車両を提供する事業です。多くの場合、運転手自身がクルマを用意しますが、例えばレンタカー企業のハーツは、こうした運転手向けの車両レンタルサービスを始めました。

 このほか、MaaS向けの新しい保険が生まれていますし、カーシェア向けのメンテナンス業もチャンスが広がります。東南アジアでは、運転手3交代制で24時間同じクルマを走らせ続けるサービスがあります。稼働時間が増えれば故障も増えるでしょうから、メンテナンスサービスの市場も拡大するというシナリオです。

 例を挙げ出すとキリがありませんが、MaaSによってこのように多くのチャンスが生まれると考えています。

図2 MaaSにおける「ゴールドラッシュ」
出所:アビームコンサルティング
※1 アメリカ合衆国労働省労働統計局が発表している交通手段の⽀出の項目を基にアビーム作成

 MaaS関係者による、テクノロジーの進化への期待にはどのようなものがありますか。

 期待が大きいのは「MaaSプラットフォーム」です。これから大きな進化を遂げると考えています。

 MaaSの普及によって、ネットに接続されたクルマの比率は今後増えていきます。こうなると、クルマがどこにいるか、どこに向かっているか、燃料残量はどれくらいか、走行距離はどれくらいか、すべてが把握できる状況にあります。こうしたクルマの状況把握を可能にするのがMaaSプラットフォームです。これらが分かると、例えばライドシェアリングの「高度な」あっせんができるようになります。既存のシェアリングサービスのエンジンは、ユーザーと運転手の待ち時間を最短化するといった比較的単純なものです。今後広がるMaaSプラットフォームは、都市の交通量を最適化できるエンジンとして、都市全体の交通コントロールが可能になり、スマートシティの心臓部と呼べる存在になるでしょう。

 面白いのは、同じシステムが世界各地で使えることです。この市場を狙って、世界中で多くの企業がMaaSプラットフォームを開発しています。有名なのは、ポルシェが買収したドイツ企業PTV(Planung Transport Verkehr)です。他にもイスラエルにはMaaSプラットフォームを提供するスタートアップ企業がたくさんあります。

 5Gなど、コネクティビティーの進化についてはどう見ているか教えてください。

 5Gに対する期待としては、冒頭でもお話ししたように自動運転に対するものが最も大きいです。航続距離を伸ばすためにEVのバッテリー消費を抑えたいという要求は強く、車載コンピューターに電力を奪われることはできるだけ避けたい。そうなると「演算処理はクルマの外で実行」という要求が出てきます。自動運転車は安全確保のために大量のデータの演算処理が求められますが、省電力のためにクルマの外で処理して受け取る。その実現に5Gは魅力的というわけです。

 5Gに対するもう1つの期待は、データのプライバシーやセキュリティーに関するものです。クルマが個人の所有物でないとすると、個人的な情報をクルマ側に残したくないという要求が強くなります。残すとすれば通信経由でクラウド側に移すことになるでしょう。現在は個人の移動を特定するのにGPS情報が使われていますが、個人情報でもあり、今後はクローズアップされることが予想できます。

 移動に関するユーザー情報は今後のビジネスチャンスになり得るでしょうか。

 移動に関するユーザー情報については、何かできるのではないかという期待感はありますが、マネタイズの面で厳しいと見ています。ビッグデータとしては蓄積されていますが、個人のデータに対する見返りがあるビジネスになっていないということです。せいぜい運転データを基に保険料に反映するくらいでしょうか。

 将来的にコネクティビティーを発展させるならば、個人のデータをユーザー自身が管理し、サービス事業者に対して、同意の上で有償販売する仕組みが必要です。こうした見返りがない限り、ユーザーデータは個人を特定できないために意味を持ちません。

写真:淺田 創