記者の目

5Gの
キラーアプリケーションは
何か?

日経BP総研
菊池 隆裕

 このところ、通信に一家言ある知人が集まると話題になるテーマが、「5G(第5世代移動通信システム)のキラーアプリケーション」である。

 振り返れば、2000年代の3G時代には世界に先駆けて日本で花開いたモバイルインターネットが急成長、携帯電話機が高性能なコンピュータへと進化した。そしてモバイル向けのコンテンツ産業が急拡大した。2010年代の4G時代には、グローバル市場でスマートフォンが一気に普及し、世界でモバイル全盛時代を迎えた。スマートフォンを使うユーザー体験の向上を優先した「スマホファースト」を推進したネット企業が台頭する一方、スマホ対応で後手に回った企業は勢いを失った。

 それでは2020年以降の5G時代には、かつてのネット対応の携帯電話、スマートフォンのような新しい端末が生まれるのだろうか? 5G時代を代表するような活用方法は何か? そして、社会にどのような変化が起こるのか?という議論が交わされるというわけだ。

人口減少対応待ったなしの日本

 この問いに対して、私は「5Gのキラーアプリケーションは“スピード”」と答えている。こう言うと「いやいや、スピードは5Gの特徴であって、アプリケーションではない」という反応がある。確かに5Gの大きな特徴の1つは、下りについて最大20Gビット/秒という高速性だが、ここで言うスピードは「判断の速さ」である。

 2020年代以降、日本においては少子高齢化が一層進み、とくに労働力人口が先細ることは間違いなく訪れる未来である。働き盛りで、なおかつ消費の中心である層が減ることにより、企業だけでなく、学校も自治体も淘汰が一気に進むことが懸念される。ほとんどの組織は生き残りを懸け、日々の経営判断、事業パートナーの選択、中長期の事業方針の決断――すべてにおいて速さが求められるというわけだ。5Gは、そうした判断を下支えする存在になるだろう。

 では、具体的な製品ジャンルで言えば何か。例えばビデオ会議が挙げられる。「え、今さら」という反応があるかもしれないが、対面の会議、対面の営業を重視する組織はまだまだ多い。それが、移動時間を省き、たくさんのキーパーソンと効率的に意思疎通、進捗の確認、本音の意見交換ができたらどうだろう。働く場所の自由度が増し、働き方が一変するだけでなく、人の流れも大きく変わる。ビデオ会議には大きな可能性がある。

 もちろん、現在でもビデオ会議を便利に使っている人はたくさんいる。そうした既存ユーザーに加えて、ネットワークの遅延時間が短い5Gが広がれば、「ビデオ会議は、タイムラグがありすぎて滑らかな対話ができないので、使い物にならない」とかつて判断した人たちが今一度見直し、そして「多少の使い勝手の悪さなどに不満を言っていられない」という人たちが使い始めることになるだろう。実際の市場を見れば「Zoom」「Appear.in」のように、専用アプリのダウンロードが不要でWebブラウザだけで利用可能な製品が数多く存在し、使い勝手が増している。5G通信の広がりによって、扱う画像が4Kや8Kへとさらに高精細になり、遅延時間が今より短くなれば、ストレスの少ないビデオ会議が場所を選ばずにどこでも行えるようになる。