5Gで変わる
医療&ヘルスケア

5Gが支える
「ソーシャルホスピタル」
の世界

「Beyond Health」編集長
小谷 卓也

相性がいい遠隔医療と5G

 医療・ヘルスケア分野と5G(第5世代移動通信システム)は、相性がとても良いと感じています。とくに遠隔医療の話題になると、5Gのような高速大容量通信への期待が必ず出てきます。

遠隔医療と5Gは相性が良い
写真:Adobe Stock

 その背景にあるのは、医療で使う画像が高精細化していることでしょう。最近は画像診断装置の性能が高まり、画像の高精細化が一気に進みました。医療施設内などの“ローカル”な利用では、高精細な画像を使って診断などを行うことが急速に一般化してきています。医療画像の高精細化は、今後の新しい利用法の2つの方向性を示します。1つはAI(人工知能)を使った診断の方向性です。もう1つが、容量が大きい高精細な医療画像を、場所を問わずいつでもどこでも使えるようにすることです。

 場所を問わずに医療画像を利用できるようにする仕組みへの期待は、とても高いものがあります。なぜかと言うと、医療分野では医師不足や医師の偏在が大きな課題となっているからです。医療が全国にまんべんなく広がる「均てん化」が実現できていない現実があり、過疎地域と大都市の間の医療環境の格差がどんどん拡大してしまう危機感があります。

 そうした中で、医療を均てん化するための方策として、遠隔医療をより活用していかないといけないという医療側のニーズ、後押しがあるのです。特定の分野に強い病院であったり、大病院であったり、そうしたところにあらゆる地域から大容量通信で高画質な医療画像を届けることで、いつでもどこでも質の高い医療を受けられるような環境を整える――。その意味で、5Gは大きな価値があると考えています。

2種類ある遠隔医療、
分野による向き不向きも

 一口に遠隔医療と言っても、大きく2つの種類があることを理解してもらえると、状況の把握がしやすいと思います。

 1つが「ドクター・ツー・ドクター」(D to D)と呼ばれるもので、医師と医師がCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの放射線画像をやり取りし、遠隔画像診断などを行います。D to Dは比較的古くから実用化されています。5Gで場所を問わずに高精細な画像をモバイル通信でデータ共有できるようになれば、患部の見落としを防ぐといった効果が認められます。D to Dの分野の「遠隔診療」は、5G時代のアプリケーションとして現実的でしょう。

 一方で、もう1つの「ドクター・ツー・ペイシェント」(D to P)と呼ばれる分野があります。患者と医師の間の診察行為です。これをオンライン化した「オンライン診療」には、様々な課題があります。

 まず、法制度の問題がありました。もともとオンライン診療は、法的には医師が不在のような「離島、へき地の場合」に限定された形で例外的に認められていました。それが2015年に厚生労働省が「離島、へき地はあくまで例示」であると事務連絡で通知したことで、オンライン診療が一気に盛り上がってきました。実は、離島やへき地に限らず都市部でも医療難民は大勢います。多くのビジネスパーソンは、業務時間中にはなかなか病院に行くことができず、適切な医療を受けられないということが現実に起こっているわけです。厚生労働省の通知により、オンライン診療の適用範囲がある程度広がり、こうした都市部の医療難民を含めてあちこちで使えるのではないかと考えが変わってきたのです。

 その上で、2018年にオンライン診療が初めて保険診療化され、診療報酬がつくようになりました。点数の対象となる範囲はまだ限定的ですが、オンライン診療がきちんとした医療行為として認められた画期的なことでした。ますますオンライン診療が広がっていく期待が膨らんでいるのです。

 そうした中で「とは言え」という懐疑的な声も上がっています。D to Pのオンライン診療に対しては、肯定派と否定派がいるわけです。否定派の中には、対面医療の良さを担保できないのではという疑念を持つ医療従事者が少なくありません。「直接対面せず、患者を見たり触ったり声を聞いたりといった行為を抜きにして、正しい診断ができるのか」。そうした声が大きいことも事実ですし、こうした課題が解消されないとオンライン診療が広がっていかないという懸念があります。

 医学界では、医療のオリンピックと言われる「日本医学会総会」が4年に1回開催されています。2019年は日本医学会総会の開催年に当たり、名古屋で総会が開かれました。今回は「遠隔医療」のセッションが設けられ、その中の議論の一つとして「5G」がトピックに上がりました。D to Pのオンライン診療に懐疑的な医療従事者に対して、5Gが突破口になるかもしれないという議論です。日本医学会総会で京都府立医科大学眼科学教室、デジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏は、「5GとVR(仮想現実)などの技術を使えば、患者の肌の質感なども感じられる診察環境が得られるだろう」と指摘しています(参考記事:オンライン診療の課題解決、「5G」の活用が糸口に)。

「医療のオリンピック」でも5Gが話題に
出所:Beyond Health、写真:森田 直希

 5Gによる高速大容量で遅延が少ない通信によって、高精細な画像によるリアルな視覚情報だけでなく、触覚を伝送するハプティクス通信などの技術を組み合わせることも現実のものになるでしょう。そうすることで、あたかも患者と対面しているかのような環境を遠隔地でも得られるようになり、オンライン診療の懐疑論解消のきっかけになるのではないかというのです。D to Dだけでなく、D to Pも含めた遠隔医療を実現するために、5Gが果たす役割は今後より一層大きくなるのではないでしょうか。