5Gで変わる
マーケティング

いつでもどこでも
消費者とつながる世界へ

日経クロストレンド 発行人
杉本 昭彦

デジタルからリアルに広がる
“デジタルマーケティング”

 いわゆる“デジタルマーケティング”の対象が、急速に変化しています。少し前までは、デジタルマーケティングが対象とするのは、ネット広告の配信、メールを活用したCRM(顧客関係管理)など、インターネット上の施策がほとんどでした。ところが、最新のトレンドは、「デジタル」の世界だけで行っていたデジタルマーケティングの施策を、「リアル」の世界も組み合わせてマーケティング全体に広げて、より効果的に成果を上げようという動きが進んでいます。

 デジタルマーケティングの対象がデジタルからリアルへと広がることは、リアルの世界のデータを収集するインフラの変化も促します。そのインフラとしては、超高速、超低遅延、多数同時接続といった機能・性能を提供する5G(第5世代移動通信システム)が欠かせないものになるのではないでしょうか。多くの場所に、多様なユーザー接点を設ける時代を考えたとき、現行の4Gよりもデータが格段に収集しやすくなると見ています。

 現在の延長線上のデジタルマーケティングの施策を考えただけでも、5Gの高速・大容量性能を生かして、デジタルサイネージや屋外広告に配信するコンテンツのリッチ化が想像できます。さらに目の前を通る人に沿ったメッセージを選択的に表示することもできるようになるでしょう。実際、屋外のデジタル広告運用の新会社・ライブボードは、5G時代に向けた屋外広告のプラットフォーム構築を進めています。5G回線を使った高画質、低遅延の広告動画の配信はもとより、通信事業者が持つ統計情報を活用したターゲティング広告の配信、スマートフォン連動型広告の提供などを計画しています。

 ドミノ・ピザ ジャパンが2019年7月に発表した「PROJECT 3TEN(プロジェクト・スリーテン)」のような取り組みでも、5Gのインフラが生かされるでしょう。PROJECT 3TENは、来店なら3分、デリバリーでも10分以内に、ピザを提供できるようにする施策です。オーダープロセスの透明化、ドライバーの位置情報の把握など、様々なセンサーデータを基に効率化する必要があるからです。

新しいクリエーティブ創造の
チャンス

 こうした中で、5Gの登場で変化に直面するのは、マーケティングコミュニケーションの分野ではないでしょうか。マーケティングコミュニケーションの構成要素は、どのようなクリエーティブを、どのターゲットに対して、どんなチャネルを使って届けるかです。センサーが街ナカに増えれば、ターゲットの行動を把握しやすくなります。

 5Gの登場によって恩恵を受ける代表が、クリエーティブです。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの総称であるxR(Extended Reality)が提供する新しい表現の手法は、今後のマーケティングでは重要性が高まるでしょう。デバイスは安くなるでしょうし、有線の接続がなくてもどこでも新しい体験が可能になるわけです。VRで欧州プロリーグのサッカー選手と一緒に練習できるようなクリエーティブは、5G時代ならではのものになるでしょう。超高速、超低遅延という5Gの特徴を生かして、今まで配信できなかった、よりリッチなクリエーティブも実現が可能になります。

5Gによって期待が高まるxR活用のクリエーティブのイメージ
写真:Adobe Stock

 少し時代を振り返ると、二十数年前までは新聞、テレビ、ラジオ、雑誌といったいわゆる“4マス広告”が主流でした。そこにインターネットが登場して、広告の手法もクリエーティブも大きく変化してきました。これから5Gの世界に入ると、さらにクリエーティブの幅が広がって新しい変化が生まれるでしょう。そうした中で、クリエイターにとっても、従来型のクリエーティブを堅持するか、新しいクリエーティブに積極的に飛びつくか、反応は分かれるのかもしれません。新しいクリエーティブに積極的に取り組むクリエイターは、5G時代の到来にワクワクしていると思います。

企業はどこでも消費者と
つながりたがっている

 マーケティングの側面から見ても、5G時代に向けた多様な要素技術が確立してきていることを肌で感じています。例えば、AGCが開発した窓ガラスに透明ディスプレイを組み込む技術などはその好例です。将来的に新幹線の窓ガラスがディスプレイになり、新しい広告メディアとしてターゲティング広告を映し出す日が来るかもしれません。また、鏡などもディスプレーになる技術が開発されていますから、さらにユーザーとの接点が増えることになるでしょう。インフラ側の技術と新しいクリエーティブ、個別のユーザーを識別する技術などが組み合わさることで、マーケティングの手法が変わっていく可能性があると思います。

AGCが開発した窓ガラスに透明ディスプレイを組み込む技術
写真:AGC

 企業は、消費者と場所を問わずにつながることができるインフラを求めています。それもスマートフォンやパソコンといったデバイス単位の識別ではなく、個人のIDを軸としたデータの蓄積に力を入れています。新しい顧客を一から開拓するより、既存の顧客と関係を深めて収益を高めることに力点が置かれるようになりました。いつでもどこでも消費者がネットワークにつながる5Gのインフラは、今後のマーケティングの施策を考えるときにも効果的なものになるでしょう。