5Gで変わる
ヒトとコンピューター
の関係

最大のインパクトは超低遅延
通信事業者による
MEC開放に注目

ギリア代表取締役社長
清水 亮

 通信サービスが3G(第3世代移動通信システム)、4G(第4世代移動通信システム)と世代を重ねるごとに、その上で提供されるサービスは進化してきた。コンテンツ開発者としてこれまで数度の進化を体験し、現在はAI(人工知能)の開発を手掛ける清水亮氏に、コンテンツプロバイダーに対する5G(第5世代移動通信システム)のインパクト、ヒトとコンピューターの関係の未来などについて聞いた。

コンテンツと通信は
両輪として共に進化

 清水さんはプログラマーとして、2G(第2世代移動通信システム)から3G、3Gから4Gへの進化を経験されてきました。それぞれどのような変化があったのか、振り返っていただけますか?

 私が最初にモバイル向けにコンテンツを開発していたのは、通信速度が9600ビット/秒だった2Gの時代です。画面には文字と白黒2値画像だけしか出せず、そしてパケットが128バイトあたり0.3円と、とても高い時代でした。制約が大きくて多くの人が「できることがない」と思っていましたが、私としては逆に「制約があるから面白い。何を作ってやろうか」と燃えていました。

 当時大事だったのは、実は通信速度ではなく、プッシュ通知が使えたことです。メールをリアルタイムに送ることができる常時接続が導入されたことが注目され、通信速度はそこまで重要視されていませんでした。

 3G時代にはソーシャルゲームが流行るわけですが、当初は3Gの通信サービス自体がうまく立ち上がりませんでした。通信サービスだけだと十分ではなく、キラーコンテンツがないとその先に進まないと気がついたわけです。その後、パケット通信が定額制になり、コストを気にせずに通信サービスを利用できるようになったことで、皆ソーシャルゲームに熱中するようになりました。

清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、2017年にソニーCSL、WiL LLC.と共にギリアを設立、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。主な著書に『教養としてのプログラミング講座』(中央公論新社)『よくわかる人工知能』(KADOKAWA)『プログラミングバカ一代』(晶文社)など。

 同じく3Gの時代に、端末としてはiPhoneが広がりましたが、実は初代iPhoneは2.5Gのときに登場しました。2.5Gではフルブラウザーを動かすのが難しくて、ユーザーが使用するのに堪えられないものでした。iPhoneが3G時代に広まったのは、コンテンツをストレスなく扱える通信環境が3G時代に整備された、という背景があったからでしょう。

 続く4Gの時代では、「TikTok」「YouTube」といった動画サービスを移動しながら見るようになり、音楽視聴が定額制になりました。

 まとめると、コンテンツの進化と通信環境の進化はずっと連動し続けるということです。

遅延時間の短縮はダイナミックな進化

 これから来る5Gによる変化は、どのようなものでしょうか?

 一番インパクトが大きいのは遅延時間の短縮だと思っています。世代を追って通信容量が大きくなるのは当たり前の進化ですが、遅延時間を小さくするのはダイナミックな進化です。4Gに比べて5Gは周波数幅が圧倒的に広いですから、動画のダウンロードよりもリアルタイムで見る価値が高くなると思います。そうなると、遅延時間が重要になるはずです。

 遅延時間については、4Gは片道10ミリ秒ですが、5Gは1ミリ秒になると言われています。本当に遅延時間を片道1ミリ秒にできるなら、人間がコマ送りされる画像を動画として認識できる遅延時間(16ミリ秒=60フレーム/秒)よりもずっと小さくなるため、動画がリアルタイムに動くように感じられ、ゲームのようなリアルタイム・インタラクティブコンテンツの体験は格段に向上するでしょう。

 コンピューティング環境を考えると「エッジヘビー」ではなく、「エッジライト」にできる。つまり、理想的には端末側の処理をゼロにして、全部、クラウドやMEC(モバイル・エッジ・コンピューティング)のエッジサーバーで処理するような仕組みができるようになります。

 このような仕組みがある中で面白いポイントとしては、通信事業者がコンテンツプロバイダーに対して、MECをどのように開放するかによって事業者間に差がつくことではないでしょうか。過去に日本の通信エコシステムが独自の発展を遂げたことで、モバイルインターネットという新しい分野が成り立ちました。そういったことがもう一度起こるのではないかと思っています。

 当時、モバイルコンテンツ市場の勃興は、世界の先駆けでもありました。その再現もあり得るということですね。

 公開情報を見る限り、通信事業者がどのようにサービスを展開するかまでは決めていないようです。ということは、MECの設計は通信事業者ごとに個性が出てきます。設計の自由度が大きい状況は、通信事業者が望んでいることではないでしょうか。