ビジネスの実現力を
加速させる、
5G時代のScrum

イノベーションの最終兵器となる開発手法とは

Scrum Inc. Japan株式会社
取締役

平鍋 健児氏

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、新規ビジネスを素早くスタートできるアジャイル開発へのニーズが高まっている。その中でも、チームとしての仕事の進め方を重視する手法が「スクラム」だ。日本におけるスクラム・エバンジェリストの第一人者Scrum Inc. Japan取締役の平鍋 健児氏が、スクラムの技術的背景と手法を解説しながら、5G時代のビジネス実現力を加速させる開発と現場活性化のあり方を示した。

ソフトウエア開発は
ウォーターフォールからアジャイルへ

 アジャイルなソフトウエア開発手法として、世界で最も広く使われているのが「スクラム」だ。スクラムは、エンドユーザーからのフィードバックに基づき、企画と開発を短い期間で繰り返し、新しい機能を次々とリリースしていくイノベーション手法である。既に欧米では一般的な開発手法として普及しているが、近年は日本でもDXをスピーディーに実現する手段として注目が集まっている。

 なぜスクラム開発が注目されるのか。それは、これまでシステム開発の主流であったウォーターフォール型開発の問題が顕在化してきたからだ。

 「1つは、市場調査から企画、開発までのサイクルが長すぎること。1つのシステムを半年から3年もかけて開発していたのでは、完成するころには市場ニーズにマッチしなくなるのは当然です。このためシステム機能の45%が全く使われない状況になっているという調査結果もあります。2つ目は、企画側と開発側に契約の壁があること。契約を交わすと、クライアントは最初からたくさんの仕様を盛り込もうとし、開発側のエンジニアは、途中でいくら良いアイデアが出ても変更することに臆病になる。企画と開発が分離し、さらに開発の下請けがあるような構造ではイノベーションは起こりません」(平鍋氏)

 こうした課題を解決するのが、スクラムに代表されるアジャイル開発だ(図1)。

 「アジャイルでは、企画の中に開発があり、その外側に市場があると考えます。システム開発が成功しても、ビジネスが成功しなければ全く意味がありません。そこで最小限の機能を備えた製品を1週間単位で素早く企画・開発し、想定ユーザーに使ってもらい、良い点・悪い点のフィードバックを反映させ、その時点での最も市場にミートしやすい製品に近づけていくのです」(平鍋氏)

図1 ウォーターフォールとアジャイルの比較

ウォーターフォールの開発プロセスは、長期にわたりコストがかかる。企画と開発が離れているため柔軟性がないのも問題となる。一方アジャイルは、企画と開発が一体となったワンチームが柔軟性を持ちながら開発を進める

スクラムで生産性と従業員の
幸福度を高めた事例も

 ネットビジネスやスタートアップでは既にスクラム開発が当たり前の世界となっているが、近年は一般企業でもスクラム開発を積極的に取り入れ始めている。

 その一例が、トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)だ。同社はトヨタグループが自動運転のソフトウエア開発のために立ち上げた新会社。同社では「お客様に信頼され、愛される商品やサービスを適切なタイミングで出していきたい」という想いから、スクラムに注目したという。

 現在、従業員約360人のほぼ全員がスクラムの研修を受け、既にその9割が40ほどのチームに分かれてアジャイル開発に携わっている。導入後は情報共有が効率化し、各人が今どのような仕事を抱えているのかを見える化できるようになった。また、ボトルネックをチームで解消し合えることで、従業員の幸福度向上にも結びついているという。

開発期間を大幅に短縮し、
初期導入コストも1/3に低減

 KDDIも、スクラム開発を取り入れ、成果を上げている企業だ。同社では2016年4月の電力小売り自由化の際に、「auでんき」として電力事業へ参入。その差別化を図るためのアプリ開発・リリースに与えられた期間は通常の半分の4カ月だったという。

 しかし、AWS(Amazon Web Services)とスクラムを導入することで、開発期間の半減に成功した。「優先順位の明確化、必要最小限の開発、判断のスピードというスクラムの要素を取り入れることで、開発期間の短縮に加え、初期導入コストも1/3に低減できました。自分たちが考えたことや、作ったものが素早く具現化され良いサイクルで回っていく。そのサイクルを体験すると、もう過去の手法には戻れなくなります」と、アプリ開発チームのリーダー 須田 一也氏は話す。