IoTで挑む地方創生

産学官連携のスマート漁業で
地方が元気になる

 5G/IoT/AIなどによるテクノロジーの変革は、人口減少、高齢化、一次産業の衰退といった、様々な地域課題を解決する大きな可能性を秘めている。そうしたテーマに地場産業や企業、ベンチャーと連携して積極的に取り組んでいるのがKDDIだ。ここではその中から、漁業にフォーカスした2つの地方創生事例を紹介したい。

KDDI株式会社
ビジネスIoT推進本部
地方創生支援室 室長
阿部 博則氏

小浜市
産業部 農林水産課
食・地域創生戦略室 室長
畑中 直樹氏

国立大学法人 長崎大学
副学長(産学連携担当)
海洋未来イノベーション機構 教授
山本 郁夫氏

テクノロジーで加速する地方創生の未来

 スマートファクトリーや故障の予兆監視など、産業用途で注目されるIoT。ビッグデータから判断の自動化を支援するAI。こうしたテクノロジーが解決するのは、何もビジネスの課題ばかりではない。

 人口流出が続き、少子高齢化に悩まされている地方でも、IoTやAIをネットワークで連携することで、様々な課題を解決することが可能だ。既に日本では自治体主導の下、地域住民や企業が一体となって、先進テクノロジーを活用した取り組みを進めている。こうした地方創生に取り組む企業の中でも、とくに積極的なのがKDDIだ。

 KDDIは東日本大震災を契機に、復興支援室を発足。大きな被害を受けた岩手、宮城、福島の東北3県の被災した自治体に社員が職員として出向することで、街づくりを支援するとともに、様々な角度からICTを活用した地域の復興支援をしてきた。そして2017年には同支援室を「地方創生支援室」へと組織変更。復興現場で培った経験やノウハウを、地方創生に生かしていく取り組みを展開している。

 「我々自身が現地に足を運ぶのはもちろん、行政、自治体、住民、地元企業、学術・研究機関といった、多くのステークホルダーの方々から話を聞き、方向感を特定し、意思疎通を図ってきました」とKDDI 地方創生支援室 室長の阿部 博則氏は話す。

 こうした活動を通して阿部氏らが強く感じたのが、地方と東京の「IoTに対する情報量や認識の違い」だったという。農業・漁業といった一次産業の人口は右肩下がりで、都市部への人口流出が続いているのも要因の一つだ。一次産業の生産効率や収益の向上をICTで支援できれば、地元にとどまれる仕事も増加し、地域の特色を生かした活性化に貢献できるのではと考えたのだという。

 そこでKDDIは、地域で役立つ社会実装事業を立ち上げるため、KDDI Regional Initiatives Fundを創設。問題解決に意欲を持ったベンチャーや地元企業に投資を行うコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)で、サステナブルなビジネスモデルの構築に取り組んでいる。

 田畑の温度・湿度などをIoTで自動測定するスマート農業支援、離島などにおける地産品の販路を拡大するマーケティング支援、位置情報ビッグデータによる観光動態の見える化、除雪車の位置情報管理による作業効率の向上、5G/ドローンを活用した日本酒造りの実証事業など、そのバリエーションは幅広い。

IoTでノウハウを見える化
福井県小浜市の「鯖、復活」養殖効率化プロジェクト

 漁業においても、既にいくつかの成果が出始めている。その1つが小浜市の鯖養殖に関するプロジェクトだ。

 「かつて小浜市では鯖が大量に獲れ、京都まで鯖を運んだ“鯖街道”の起点として大いににぎわいました。しかし、かつて年間1万2000トンもあった漁獲量が年々落ち込み、今や0.7トンにまで激減。土産物や名産品の鯖加工品の多くが、原料をノルウェー産に頼っている状況です。そこで養殖事業によって地元産の鯖をなんとか復活させようと考えました」と福井県 小浜市の食・地域創生戦略室 室長の畑中 直樹氏は語る。

 それまで鯖の稚魚に与える餌の量は、漁業者が水を汲み上げて水温を測り、経験と勘で決めていた。市ではノウハウを蓄積すべく、漁業者が天候や餌の量を記録した用紙をFAXで受け取り、手作業でデータ入力していたが、反映までにタイムラグが発生する上、業務負担も大きい。また、市場への安定供給や地域間競争に勝つには、業務効率を向上させる新たな施策が必要だと考えていた。そこでKDDIの提案で2017年からスタートしたのが、IoTを使い水温データなどの自動測定と、給餌記録によって養殖事業の効率化を目指す取り組みだった。

 このシステムでは、漁港内の養殖いけすに1時間に1回計測可能な装置を設置し、水温や酸素濃度、塩分をKDDIのモバイル回線でサーバーに送信。漁業者はそのデータを基に給餌量などを決定し、鯖の様子などと併せてタブレット端末で記録。それらのデータを専門家が分析し、水温に合った餌の量や餌を止めるタイミングなどを決め、給餌計画として漁業者が持つタブレット端末上に表示する。このPDCAにより、経験と勘に頼っていたノウハウをデータとして蓄積・分析することが可能となる。

 「このプロジェクトには市とKDDIの他、クラウド漁業、小浜市漁業協同組合、福井県立大学なども参加して、それぞれ知恵を出し合いました。最初は使ったこともないタブレットPCを使うことさえ漁業者から抵抗もありましたが、今は操作にも慣れ、船を出す前から海中の状況が手に取るように分かるようになったと喜ばれています」(畑中氏)

 今後は飼育方法のマニュアル化や販路拡大にも力を入れて地元産の鯖を復活させ、新たな食文化の発信とブランド価値向上による地域活性化を目指していくという。