株式会社エクサウィザーズ
AIセキュリティ事業部/
2020年4月立教大学大学院
人工知能科学研究科 特任教授着任予定
松下 伸行氏
かつて高価なワークステーションを要した認識技術は飛躍的な進化を遂げ、今やスマートフォンのカメラでも簡単に顔認証などをできるようになった。マーケティングなどに役立つとしてAIカメラが注目されているが、「戦略性なくビジネスの現場に安易に実装すると、コストと効果が見合わず失敗する恐れがある」とエクサウィザーズの松下 伸行氏は指摘する。
「人の目で行われている作業をAIカメラに代替させたいというニーズは多様な業界にあるでしょう。しかし、例えばスーパーマーケットが従業員の行う欠品確認をAIカメラに任せるだけでは、導入・運用コストがかさむだけで、大きな成果は得られません。この場合、AIカメラは棚の状態を可視化するだけであり、補充オペレーションまで自動化しなければ『欠品防止』という根本的な問題解決にはならないからです」(松下氏)
一方、小売店が来店者を顔認証し、データベースから過去の購買履歴を瞬時にスタッフに知らせて販促に役立てるといった活用であれば、売り上げ増加分がコストを上回る可能性があるという。また、有能な従業員の振る舞いをAIカメラで観察し、解析によって得られた知見をほかの社員にフィードバックするといった取り組みにも期待が持てる。
「収集したビッグデータを解析するにはAIカメラとは別に、用途に応じたシステム開発も要するので、何のために導入し、得られるリターンでどれだけコストを回収できるのか、仮説を立てて事前に綿密な検証をすることが欠かせません」と松下氏。そこではトップの的確な経営判断が求められるのは当然だが、AIの実装に際してはコンサルティングまで行うサポート企業の支援を受けることを推奨。また、今後の本格的なAI時代到来を見据え、AIプランナーやAIプロデューサーとしての能力を発揮できる社員を抜擢して養成するのも有効だと提言した。
株式会社三菱ケミカルホールディングス
CDO 執行役員先端技術・事業開発室
チーフデジタルオフィサー
岩野 和生氏
三菱ケミカル、田辺三菱製薬、生命科学インスティテュート、大陽日酸などの素材・化学系事業会社を擁する三菱ケミカルホールディングス。同社は近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進による事業転換に注力している。
「社会のデジタル化は価値の所在をモノ→サービス→関係へと変化させ、ビジネスの基本構造をつくり替えることが求められるようになりました。もはやモノは単独ではなくサービスに組み込まれて大きなビジネス的な価値を生み出すからです」と、同社の岩野 和生氏は話す。
モノがサービスに組み込まれれば、従量課金やサブスクリプションといった従来とは異なるビジネスモデルが生まれる。そこで同社は、化学企業として蓄積してきた膨大なデータを源泉とし、サプライチェーンの中でエコシステムの中核的存在を担うプラットフォーマーとなることも目指しているという。
そのため傘下の事業会社は、生産や研究開発プロセスに先端技術を用い、安全・安定・高品質・高効率を追求するデジタルプラントの実現に向けたオペレーショナルエクセレンスの実現やデータマイニングなどを自らの手で実践。さらに、DXに向かう風土を醸成するための“武器”としてデジタルプレイブックや機械学習プロジェクトキャンバス(https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/news_release/pdf/190718.pdfからダウンロード可能)などを作成している。
組織が変革の主体者となるには、全社への認知・理解のフェーズを経てDXを企業風土として根づかせ、戦略的展開の段階に至ってからは具体的な方向性を経営指標に織り込む必要があるという。「レガシーな業態である化学会社のこうした取り組みは、多様な業界に参考としていただけるはずです」と語る岩野氏。蓄えられているデータを価値に換える手段と道筋さえ確立すれば、あらゆる業界や企業がビジネスオペレーションに本質的な変化を生み出せると断言した。