「未来をつくる」持続可能な企業を応援する
渋澤 健コモンズ投信会長が語るサステナビリティー

写真:菊池一郎

2019年9月、ニューヨークの国連本部で開かれた「気候行動サミット」で登壇したスウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥンベリ氏の演説が話題になった。社会の環境に対する関心の高まりは、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが企業価値を高めるといった動きにもつながっている。ESGという言葉が生まれる前から、この観点で投資活動を始めたコモンズ投信の渋澤健会長に、「サステナビリティーを感じる企業」の条件を聞いた。

最近、「ESG投資」に注目が集まっています。ESGとは、環境(エンバイロメント)のE、社会(ソーシャル)のS、ガバナンスのGを指します。売上高や利益といった財務情報だけでなく、地球温暖化など環境への配慮、社員の働き方など社会への責任、法令順守や情報開示など経営の取り組みといった非財務情報を投資判断の視点に加える考え方です。

日本におけるESGの転機は2015年と言えるでしょう。厚生労働省所管の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」に署名をし、2017年には1兆円という大規模なESG投資を開始しました。同じく2015年には、国連がSDGs(持続可能な開発目標)を採択しました。SDGsとは、2030年まで「誰一人取り残さない」という壮大な人類の共通の目標であり、人間の生活にとって最低限かつ基本的に必要とされるベーシック・ヒューマン・ニーズに加え、「エネルギー効率の大幅改善」「高いレベルの経済生産性を達成」「持続可能な消費と生産のパターンを確保」など環境の保護や資源の供給といった17の課題解決を担う主体として民間企業を位置付けています。

つまり、SDGsに取り組む企業は持続可能な成長を期待できるため、ESG投資の有力な対象であるというわけです。

失って初めて分かるサステナビリティーの大切さ

私は、2008年にコモンズ投信を立ち上げ、30年という「世代を超える」時間軸で持続的な成長の可能性が高い企業に長期投資する「コモンズ30ファンド」などを運用しています。もともとは、外資系企業で債券、為替、株式などの売買を担当しており、「目先の収益をどう最大化するか」を常に考える世界で過ごしていました。

渋澤 健(しぶさわ・けん)
コモンズ投信会長兼ESG最高責任者。1961年、神奈川県生まれ。「日本近代経済の父」と言われる渋沢栄一の玄孫に当たる。83年に米テキサス大学化学工学部を卒業、国際関係の財団法人を経て、87年にUCLA(米カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にてMBA(経営学修士)を取得。米系投資銀行や米大手ヘッジファンドを経て、2001年に独立。08年に独立系ファンドであるコモンズ投信を創業し、会長に就任。経済同友会幹事、外務省SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会座長なども務める。

写真:菊池一郎

それが一転し、サステナビリティー(持続可能性)を長期対象として考えるようになったきっかけは、2000~2001年に起きた2つの出来事でした。子どもの誕生と9.11(米同時テロ)です。

自分が抱っこしている小さな赤ん坊が成人になったときに、何かに「チャレンジしたい」と言ってくるかもしれない。それに備えて“応援資金”を作ろうと、積み立て投資を始めました。毎月一定の金額で株式を購入するのですが、ここで新たな気づきがありました。一般に、投資は買った株式の株価が下がると気分のいいものではありません。しかし、積み立て投資では、もし一時的に株価が半減したとしても、定額の金額に対して倍の株数を購入できます。その長い年月の継続が将来の資産形成につながります。「次世代のために積み立てていく投資は、気持ちがいい」と思ったのです。

また、9.11のとき、私はアメリカ西海岸への出張中で、1週間ほど足止めされてしまいました。その間、きれいな青空に飛行機を1機も見ることがありませんでした。その光景に不気味さを覚えた瞬間、「当たり前のようにあるモノが突然、失われることがある」と強く感じました。サステナビリティーの大切さを思い知らされました。

「見えない価値」が企業の競争力を生む

では、企業の何を見てサステナビリティーを見極めるか。私は、企業には「見える価値」と「見えない価値」があると考えています。見える価値は、売上高や利益など数値で示せる財務的な価値です。しかし、これは、企業が見せる姿でいうと、氷山の一角にすぎません。海面下には、もっと大きな塊が隠れています。これこそが非財務的な見えない価値であり、ここの取り組みが20年先、30年先につながると思っています。言い方を変えれば、見える価値は現時点での財務的な企業価値を表しているにすぎません。サステナビリティーの観点からは、非財務的な見えない価値を評価する作業が必要になってきます。

企業の売り上げや利益を作っているのは、「競争力」です。社員一人ひとりの働きだったり、組織のシステムや制度だったり、部分的にその成果は数値化できても、その競争力の本質の数値化は容易ではありません。この競争力を発揮できる理由を考えると、そこには「経営力」があります。経営力の源泉は何だろうと企業を調べると、そこには「対話力」があることに気づきました。経営者と従業員、従業員同士のインナーコミュニケーションです。

企業の経営者や従業員のクチからは、絶対に出してはならない言葉が3つあります。「前例がない」「個人的にはいいと思うけど、組織には通らない」「誰が責任を取るんだ」です。課題に対して一人ひとりが当事者意識を持って解決しようと取り組むことが企業の持続的な価値創造に極めて重要です。

こうした対話力は、企業文化から生まれてきます。そして、企業文化は数値化が最も難しい見えない価値です。このように、見える価値から見えない価値へと掘り下げれば掘り下げるほど、数値で表せなくなるのですが、そこに企業の最大な企業資産があると言えます。

企業文化を支えているのは、やはり、その企業で働いている「人」にほかなりません。多くの企業が、「人材こそが最大な財産」という意味を込めて、「人財」という言い方をします。

ところが、財務諸表では、人という資産は貸借対照表に表れることなく、人件費として処理されています。そして、企業の最大な財産を削れば利益を増えて、企業価値が高まる。これは、変ですよね。

見える価値だけを評価する限界は、ここにあります。企業の持続的価値を作っているのは、働いている人がどのような思いで、毎日会社に行って仕事をしているかなのです。投資家にとって、企業の最も「見えない価値」かもしれません。

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