日経ビジネス
Business Fashion Style 2019 Autumn & Winter

働き方でも個が主役になる時代 服装は重要なコミュニケーションツールになる

働き方でも個が主役になる時代 服装は重要なコミュニケーションツールになる

28社16万人のクライアントを抱え、海外プロジェクトも含めると年間の移動距離は実に地球4周以上。それを「週休3日」で実践しているクロスリバーの越川慎司氏。業務執行役員だったマイクロソフト時代には500件以上の謝罪をこなし、新著の「超時短術」(日経BP刊)では多くの企業が陥る“働かせ改革”に対する特効薬とも言えるノウハウを紹介している。そんな“働き方のプロ”越川氏に、ビジネススキルとしてのファッションについて訊いた。(聞き手:ファッションディレクター森岡弘氏)

Profile

越川 慎司Koshikawa Shinji

株式会社クロスリバー代表取締役社長、アグリゲーター、株式会社キャスター執行役員。
国内外の通信会社に勤務し、ITベンチャーの企業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。業務執行役員としてPowerPointやOffice365などのOffice事業部を統括。2017年に働き方改革の支援会社である株式会社クロスリバーを設立。最新著書に「超時短術」(日経BP)

越川 慎司

森岡:越川さんのお仕事は企業の働き方改革の支援と伺いました。

越川:クライアント企業にどうやって働き方を変えるか、行動を変えていくかをコンサルティングしています。自社の改革にも着手して、社員全員リモートワークを徹底し、週30時間労働、週休3日制を実践しています。色々な考えが集う多様性を大切にしたかったので、会社のメンバーは10代から60代まで幅広く、パリ、シアトル、ニューヨーク、バンコクなどの現地採用も含め現在は38名が在籍しています。

森岡:働き方に対する価値観は時代と共に変わっていくと思いますが、お客様のニーズに応えるうえでブラッシュアップというのは常に意識されていますか。

越川:「変化への適応力」をつけることが働き方改革の本質です。そのためまずは自分たちで実験を行い、結果が出たものだけを提供しています。例えば、「業務の無駄をなくす」というクライアントの課題を解決する時は、まず社員全員でリモートワークを行ってみる、会議のための会議はやめる、ITで情報共有する。このように自らが実践することでどの行動が多くの組織に適用でき、改革に資するのかがわかってきます。しなやかに変化に合わせて行動を変える力を高めていくのが私たちの支援の柱です。

森岡:いわゆる仕事着とされるスーツにシャツにネクタイという装いも、働き方によって変わっていくとお考えですか。

越川:今は消費の価値観がモノからコトへと移っています。そうなると商品でもサービスでも、大企業だから選ばれるというものではありません。その企業やブランドが提供している価値や示すビジョンに共感するかしないかが選択を左右する時代です。いかにお客様から共感を得るかということにおいてはファッションも同じだと思っています。265名の経営陣の方にインタビューをしたところ、60%以上の方が意志決定の決め手として投資対効果などの『論理』ではなく『感情』を挙げ、「目の前で話している『人』に共感できるかどうかで決める」という声が半数以上ありました。

森岡:僕はファッションのあり方として「自分ブランディング」という言葉をよく使うのですが、越川さんはその点についてどのようにお考えですか。

越川:これからリモートワークなどが主流になってもビジネスシーンでお客様との対面コミュニケーションは絶対に無くなることはありませんし、むしろ重要度は増していくはずです。だからこそ「個」のブランディングにもつながる服装選びというのはとても重要です。

森岡:僕が職業柄よく感じるのは、ネイビーのジャケットと白いシャツというベーシックな装いであっても着こなし方で印象も変わってくる。服装というのはやはり人となりを現すものだと。

越川:かつては「言われたことだけをやるビジネスマンが優秀」という時代がありました。それが今では多くのビジネスマンが「自分たちで考えてやれ」と会社から言われています。そうなると個が考えて、個が行動して、個が主役となります。お客様と顔を合わせる時も、服装で個性を演出するのがこれからの潮流になると思います。

ジャケットスタイルが多いが、重要なプレゼンや講演ではスーツに。明るめの紺で印象を強くする。

ジャケットスタイルが多いが、重要なプレゼンや講演ではスーツに。明るめの紺で印象を強くする。

森岡:服を着るということはビジネススキルの1つですよね。

越川:そうですね、スキルでありコミュニケーションツールでもあります。新規のお客様と会う時、最初の15分はお客様との共通点を探すことが営業スキルのひとつといわれています。服が好き、服にお金をかけているという経営者の方も多いので、服装の趣味が同じで、その話題で盛りあがれば距離も縮まります。

森岡:越川さんはクライアントにファッションアドバイスなどもされているのでしょうか。

越川:直接的なアドバイスというのはありませんが、働き方改革の一環として「服装を変える」ことに取り組んでいる企業が増えてきています。スーツだけではなくカジュアルもスニーカーもOKとなった時、逆に何を着ていいのかわからないという相談を受けることはあります。

森岡:これだけ働き方改革と叫ばれているので仕事着もドラスティックに変わっていくかもしれませんが、越川さん自身が仕事で着る服に関して意識していることはありますか。例えばシーン別の使い分けとか。

越川:やはりお客様に親近感を抱いていただきたいのか、ある程度の権威を与えたいのかといった相手との距離感がひとつの基準になります。コミュニケーションを重視する場面ではジャケットとポロシャツなど比較的カジュアルですし、講演会など発言に説得力を持たせたい時はスーツできちんとネクタイを締めるようにしています。それから出張や自転車の移動では、しわになりにくくて、きちんと見えるジャージースーツは重宝しますね。

森岡:コーディネートが相手に与える印象は大きいといわれますからね。

越川:印象ということでいえばクライアントの社風で服装を選ぶこともあります。ジャケットも着ないようなお客様なら、ビジネスであっても自分もそれに合わせます。腕時計のような小さなものでもその日に会う相手によって変えています。自分の服装は基本ベーシックですが、どこかに変化を持たせたいという思いはあって、腕時計もその1つです。

森岡:大企業の役職者の方は腕時計も服装とズレが少ない。腕時計を使い分けている越川さんの意識の高さはさすがですね。ビジネスシーンで最も重要なプレゼンテーションの時の服装はどのようにされていますか。

越川:なにか新しいコトを示すようなプレゼンではデニムパンツぐらい堅苦しくない着こなしが適していると思います。逆に論理で説明するような場合は信頼感を抱かせることが大切になってくるので、かしこまったスーツスタイルが自然です。

森岡:お詫び訪問の時はいかがでしょうか?

越川:自分を主張する場ではないので、とにかく相手に不快感を与えないこと。とはいえ黒ではお葬式のようになってしまうので、ダークグレーなどのスーツに落ち着いた単色のネクタイを着用し、訪問前にメンバー全員の服装チェックをします。フォーマルでもカジュアルでも、まずはその場にふさわしく、その上で自分を表現できる装いを選ぶことがビジネススタイルにおいて一番だと思いますね。

インタビュー時のジャケットは一見無地のようでカモフラ柄というひねりの効いたセレクト
事務所から近い企業を訪問の際は自転車移動。バックパックはソーラーパネル付き

A. インタビュー時のジャケットは一見無地のようでカモフラ柄というひねりの効いたセレクト
B. 事務所から近い企業を訪問の際は自転車移動。バックパックはソーラーパネル付き
C. バッグの中身も「ムダなく必要なものだけ」が越川氏の流儀
D. 著作では「働き方」から「お詫び」まで、すぐに役立つ実践的なノウハウを紹介している

写真/松浦 圭(STUDIO UNI) デザイン/STUDIO UNI