地域振興“新時代” ビジターをリピーターに変える情報発信術

日本政府観光局(JNTO)によると、2018年11月までの訪日外客数は2856万100人。5年連続で過去最高を更新しているものの、来年2020年に4000万人という政府目標の達成には一層のテコ入れが必要だ。各地のDMO(※)や自治体、観光協会なども様々な情報を発信しているが、「地域の魅力を届けたい層へ、グローバルに」伝えることは困難を極める。そうしたなか、地域振興のためのコンテンツマーケティングソリューション「Local Marketing Studio」の提供を開始した、株式会社 博報堂アイ・スタジオとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社、株式会社マガジンハウスの3社に地域の課題はどこにあり、どう解決すべきなのか。マーケティングやコンテンツ制作のプロが、意見を交わす。

※DMO:Destination Management Organization=地域の観光資源に精通し、地元と協同して観光名所を創り出す法人

※DMO:Destination Management Organization=地域の観光資源に精通し、地元と協同して観光名所を創り出す法人

豊富なノウハウとナレッジで地域振興を支援

豊富なノウハウとナレッジで地域振興を支援

──魅力的なコンテンツを持ち、様々な情報発信をしているにも関わらず、インバウンド誘致に苦戦している自治体は数多くあります。地域の魅力を伝えることの難しさは、どこにあるのでしょうか。

株式会社マガジンハウス
クロスメディア事業局 コロカル事業部
部長/編集長
及川 卓也 氏

及川 私はマガジンハウスで、「colocal(コロカル)」という“地域”をテーマにしたWebメディアを2012年から運営しています。「ローカルは楽しい、カッコイイ、進化している」という視点から地域の魅力を発信するなかで、地域の人たちとの交流も深まり、プロモーションのお手伝いをする機会も増えてきました。そこで実感したのは、中からの目線だけでは魅力を見つけるのが難しいということ。我々外部の人間から見たらとても素敵なものを持っているのに、気づいていない、あるいは可視化・言語化できていないという例がたくさんあります。もちろん、地域に暮らす人にしかわからない良さもあるでしょう。だから、ウチソトで一緒に見つけて発信していくというのが、理想的なカタチだと考えています。

砂田 地域の魅力をグローバルに届けることの難しさは、我々自身の経験からも身に沁みています。かつて、国内のある地域に香港と台湾の観光客を呼び込むために、両国それぞれのトップYouTuberを招いたことがあるのですが、二人が取り上げるものが全く違っていました。感性に響くポイントは、その国その人ごとに全く異なるわけです。グローバルなどという一つのターゲットはなく、そこには75億の個人がいるだけ、なんですね。ならば、それぞれの国や人に対してなるべく伝わりやすい言葉や手法を選択する必要がある。その一方で、伝えるべきコンテンツ自体が面白くなければ、いくら的確にローカライズしたところで響いてはくれません。大切なのは、ネタの良さとその伝え方。地域の持つ本質的な魅力は、プロが咀嚼してコンテンツ化することで、真に“響くネタ”になる。その意味で、マガジンハウスさんと組むことには非常に価値を感じています。

及川 作ったコンテンツをどう届けるべきか、どこに届けば効果的なのか、というのは我々や地域の人たちもつねに抱えている課題です。その解決の糸口として、デジタルソリューションを駆使したコンテンツマーケティングを得意とする企業と組んで「Local Marketing Studio」を立ち上げることにしました。

地域振興を支援する「Local Marketing Studio」とは?

地域の魅力を発信したい自治体や観光協会、企業、DMO向けのコンテンツマーケティング支援を目的としたソリューション。博報堂アイ・スタジオ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム、博報堂DYメディアパートナーズのコンテンツマーケティング支援チーム「#SHAKER」がソリューション提供の母体となり、マガジンハウスのローカルネットワークメディア「colocal」がコンテンツディレクションを担当。各地域の魅力をコンテンツ化し、最適なチャネルによる情報流通を仕組化することで、集客に悩む各地の行政や企業の課題解決を目指す。

十字 伝えることの難しさは、地域の魅力だけに限った話ではありません。多くの企業も、コンテンツマーケティングの活用には苦心されています。さらに、地域の場合は、限られた人員やスキルのなかでそれを目指していく厳しさがある。「Local Marketing Studio」は、そこを我々の持つノウハウやナレッジで補完し、地域振興を支援していくソリューションです。マーケティングのプロとコンテンツ制作のプロが一緒に組むことで、地域のお役に立つコンテンツマーケティングを展開できると考えています。

掛け算の発想でより魅力的な地域コンテンツへ

掛け算の発想でより魅力的な地域コンテンツへ

──コンテンツマーケティング成功の秘訣について、重要なポイントをお聞かせいただけますか。

及川 どの地域でも観光協会のWebサイトなどで細かな情報は発信していますが、その情報をトータルに俯瞰したときの魅力の発信、言い換えれば地域のブランディングがなされていないケースはよく見ますね。すでにそこへ行こうと決めた人がキーワード検索で辿り着くことはできても、どこに行こうか迷っている「旅前」の人たちに対しての発信がおろそかになっている気がします。

十字 コンテンツマーケティングはたし算ではなく、掛け算が重要です。例えば観光Webサイトに情報を載せるというのは、あくまでも入口であり手段ですが、それがゴールになってしまっているケースが多く、観光協会や自治体、DMOなど各所が立ち上げていて乱立しているのをよく見かけます。大切なことは単純にコンテンツ量を増やすことではなく、興味を持ってもらえるコンテンツを増やし広げていくことで態度変容を促していくこと。それぞれの団体が持つコンテンツを整理し、二次利用し合うことや各サイトの情報を活用したキュレーションサイトを立ち上げるなど、地域全体がチームとして相互のコンテンツを有効活用できるような仕組みを考えれば、より良いコンテンツづくりやマーケティング活用につながるのではないでしょうか。SEOだけに注力しサイトに来てくれたら伝わるのではなく、サイト外にも広げる発想やどう態度変容を促すかの視点を掛け合わせることで、本来届けたい「旅前」の人たちにとって価値ある情報を届けていくことが可能になるでしょう。

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
ブランドマーケティング本部 副本部長
砂田 和宏 氏

砂田 観光客がその地域を訪れる目的は一つではありません。温泉を楽しむついでに名物料理や工芸も楽しみたいし、その地域の文化や暮らしそのものに興味を持つ人もいます。そうした近隣の魅力や見どころを足し算ではなく、掛け算で訴求していく。地域の魅力を組み合わせるだけでなく、そこに暮らす人の目線や季節ごとのトピックス、テーマ性のある記事や動画などのコンテンツを掛け合わせることで、いろいろな展開ができるでしょう。

及川 デジタルマーケティングによって、一つのメディアの中で嗜好にあったコースをつくっていくことができれば、今までフラットに並んでいた記事が違う配列でユーザーに届いていく。そうすると、運営する側、例えば自治体にとっても運営費やコンテンツ制作費などのコストを抑えながら質を上げていくことも可能になるでしょう。

砂田 それが継続にもつながります。地域振興のコンテンツマーケティングで重要なのは、永続性です。その時、その季節、そのエリア、そのペルソナ、そしてリアクションしてくれるエンゲージメントの高い人たちなどを分析して、その中に新たな兆しを見つけて切り口を変えたり、リターゲティングしたりすることで、コンテンツを長く回していける。それをマーケティングの人間だけで考えるのではなく、コンテンツメイキングできる人がプロデュースするというのが、「Local Marketing Studio」の強みです。

10万人のファンが10回来てくれるまちづくり

10万人のファンが10回来てくれるまちづくり

──「Local Marketing Studio」で今後実現していきたいことは何ですか。

株式会社博報堂アイ・スタジオ
統合デジタルマーケティング本部
プロデューサー
ストラテジックプラナー
十字 賢 氏

十字 目指しているのは、自走できるコンテンツマーケティング。例えば、コンテンツを制作する場合も、我々チーム内だけで完結するのではなく、地域のタウン誌や印刷会社さん、映像会社さんなど地元のクリエイティブチームと連携していくことも考えています。それがコンテンツの永続性や、ひいては地域雇用を促すことにも関連していきます。

及川 「Local Marketing Studio」は、地域のウェブサイトで活用していただくということを主眼にしたサービスです。「colocal」はクリエイティブスタジオとして、自治体や航空会社のオウンドメディア制作を行なっていますが、そうした場所で活用いただこうと考えています。地域ブランドが長期に事業化、収益化していくためにも、ウチソトの連携は非常に重要ですね。僕らがやろうとしているのは、バズマーケティングで一気に人を呼び込もうというプロモーションではありません。100万人が1回訪れるのではなく、10万人が10回来てくれるようなまちづくりを目標にしています。そうしたロングテールでファンを増やしていくようなコンテンツ制作を、地域の人たちと肩を並べて一緒にやっていくのが理想ですね。

砂田 一緒に作ったコンテンツを、将来的には“3次利用”してさらに世界へ広げていくことも考えています。どういうことかというと、仮に「colocal」が地域オウンドメディアで制作したものを、地域の空港で2次利用する。するとその空港から行ける旅のストーリーやガイド情報などが見えてくるわけです。そして、それをローカライズして各国の旅行会社などに横展開するのが“3次利用”。旅行会社やそのWebサイトは多くの人にとって旅の入口であり、情報の窓口となります。例えば、タイの旅行会社のツアー紹介ページにタイ語に訳された我々のコンテンツがずらっと並んでいたら、それはもう1本のガイドブックとなり、より魅力的なツアーを訴求できるはずです。これもいわば、掛け算の発想ですね。

及川 海外で“3次利用”するだけでなく、地域に戻していくという方向もあります。地元のメディアやDMOのWebサイトといった様々な接点やフィールドにコンテンツを展開することで、また新たな乗数がかかってくる。こうした自由な制作連携や地域間連携は、従来の縦割り行政ではなかなかできなかったこと。民間だからこそできるクロスオーバーの可能性をどんどん試していきたいですね。

十字 コンテンツマーケティングに正解や王道はありません。今はみんなで連携して答えをつくっていく時代。地域との連携もそうですが、「Local Marketing Studio」自体も我々3社がそれぞれの強みをクロスさせ、足りないところを補い合いつつ解を導いていくことに価値を置いています。そもそも地域振興のためのコンテンツマーケティングというのは、一つの自治体や企業で継続していくには領域が広すぎます。そこを多角的な視点から見直し、互いに助け合いながら、地域のブランドを育てていこうというのが、「Local Marketing Studio」の役割です。地域の魅力を発信したい自治体や企業の方と一緒にその解を生み出し日本全体を盛り上げていきたいと考えています。