「FINANCE x DIGITAL SHIFT 2019 Autumn」レビュー 金融機関がDXを実現するために知っておくべきデジタルシフトの新潮流

AI・IoTといったデジタルテクノロジーが進化し、それらを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業も増えている。デジタル化に適応して競争力を向上させるためには、顧客をはじめとする外部環境の変化に素早く対応し、ビジネスとITの両側面から変革を進めていくことが欠かせないのだ。では金融業界でDXを推進していくには、どうすればいいのだろうか。その最適解を探る人々のための「FINANCE x DIGITAL SHIFT 2019 Autumn」が、10月10日に日本橋三井ホールで開催された。ここでは同セミナーの概要を紹介する。

日本の金融業界に求められる3つのステップ

講演者として最初に登壇したのは、日本IBMで金融コンサルティング パートナーを務める林 智洋氏。同社が発表した「次世代金融サービスアーキテクチャー」「コグニティブ・エンタープライズ」を軸に、DXへの取り組み事例と今後求められるアクションが紹介された。「現在の収益基盤を固めつつ、新金融サービスや非金融サービスで新たな収益モデルを構築し、それによって収益を拡大していくことが重要です」と林氏は説き、そのために大きく3つのステップが必要になると説明する。

日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 金融コンサルティング パートナー 林 智洋氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 金融コンサルティング パートナー 林 智洋氏

第1ステップは「デジタル推進」。このステップには、フィジカルとデジタルのチャネル連携によるオムニチャネル化や、デジタルアシスタントの提供、デジタル技術を活用した営業店業務改革などが含まれる。第2ステップは「新金融サービス」、第3ステップは「非金融サービス」の実現だ。そのためにIBMが提供しているのが、オープンAPIで構成される次世代金融サービスアーキテクチャーである。

これによって、国内外の金融機関において異業種と連携したサービスを実現した例が数多く存在するという。その一方で、「DXによる人・文化・組織の変革も重要なテーマになります」と林氏。これに関してIBMはコグニティブ・エンタープライズを提唱。DX人材育成にも積極的に取り組んでおり、ビジネスパートナーやスタートアップとの共創を可能にする「IBM Garageエコシステム」も展開していると語る。

次に登壇したのは日本IBMで保険ビジネスコンサルティング アソシエイトパートナーを務める増田 優氏。ここでテーマになったのは、保険業界における「3つのパラダイムシフト」と、それを実現するための「6つの新たな能力」である。

日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 保険ビジネスコンサルティング アソシエイトパートナー 増田 優氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 保険ビジネスコンサルティング アソシエイトパートナー 増田 優氏

3つのパラダイムシフトとは、「受動的な保険金支払いからの改革」「リスクポイントに応じた適時・的確な保障/補償」「顧客一人ひとりに合わせた提案」だと説明。その背景には、人口減少/超少子高齢化社会、市場の成長鈍化、顧客ニーズの多様化があると語る。「こうした状況に対応するには『リスク軽減のプロ』『サービス型保険事業者』『豊富な経験を持つベストアドバイザー』に脱皮していかなければなりません」と増田氏は言う。

そこで必要になるのが「新たなデジタルインタラクションの実装」「APIによる外部とのセキュアな連携」「クラウドおよびマイクロサービスを活用したビジネス迅速性確立」「ブロックチェーンを活用したエコシステムの構築」「データ・AI機能の拡張と統合管理」「データレイク基盤を活用したタイムリーなデータ分析」といった能力だ。そしてこれら6つの能力を発揮する上で前提になるのが、データの利活用なのだと語る。

「新たなパラダイムシフトを実現していくには、外部とのAPI連携を実装しておく必要があります」と増田氏。IBMは2019年8月から保険業界向けの標準APIアセットの提供を開始しており、このような備えをすることで、日本の保険業界のデジタル化はデータを基軸として、さらに加速をしていくと述べる。


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JALが推進する「地に足の着いたイノベーション」

事例セッションでは日本航空(JAL)の斎藤 勝氏が登壇、同社が推進する「地に足の着いたイノベーション」が紹介された。直近の取り組みとして、xR(VR/AR/MR)やIoTを活用して購入前に旅行を試す「旅の試着」体験、グランドスタッフの在宅勤務を実現する「ご案内アバターロボット JET」、次世代通信規格5Gの特徴を生かしたタッチレス搭乗ゲートや整備作業の遠隔支援を紹介。このほかにも数多くの現場の課題を、テクノロジーの力で素早く解決しているという。

日本航空株式会社 デジタルイノベーション推進部 部長 斎藤 勝氏
日本航空株式会社 デジタルイノベーション推進部 部長 斎藤 勝氏

ここで重要な役割を果たしているのが、2018年4月にオープンした「JALイノベーションラボ」だ。「その場でプロトタイプを創って試せる」「社内外から人が集まる」という2つの価値を提供しており、ここを中核として「人財×テクノロジー」「現場主義×未来思考」で、地に足の着いたイノベーションを起こしているのだ。

「イノベーションを生み出すには1人の強い思いと巻き込み力が必要です」と斎藤氏。また将来と直近の2つのゴールを設定し、大きな絵を描いて、できることからすぐに始めることも重要だと語る。「ここで周囲を巻き込むためのポイントは素早く形にすること、そのためには失敗を許容し仮説検証を短いサイクルで行う必要があります。私たちは3カ月を1年に見立て、プロトタイピングからPoC、MVPによるスモールスタートまでを4倍速で実施しています。『ムダをムダなくやる』ことが重要だと考えています」。

その一方で、天才に頼らずにイノベーションを継続していくためのプラットフォーム創りとして、社内人財活用とIBM Garageを中心とした社外パートナーシップ構築に全力を注いでいるという。

続くパネルディスカッションでは、日本IBMの木村 幸太氏がモデレーターを務め、JALの斎藤氏がパネリストとして登壇した。

日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage 事業部 部長 木村 幸太氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage 事業部 部長 木村 幸太氏

ディスカッションに先立ち、木村氏がIBM Garageについて解説。IBM Garageはデジタル変革のための共創サービスであり、ビジネスパートナー、スタートアップ、社外テクノロジーもかけ合わせ、共創(Co-Creation)を実現するために、人や手法、場を提供するものだと説明する。またIBMは顧客の変革をエンド・ツー・エンドで支援するための「IBM Garageメソドロジー」も確立。初期段階のビジョニングやプロトタイピングのみならず、MVP構築やその定着化、スケーリングまで共に取り組んでいると語る。

その上で木村氏は、会場の参加者に質問を投げかけ、その場で回答結果を表示して斎藤氏と議論を進めていった。「DXの4要素のうち関心があるのはどれですか?」という質問には半数以上が「Value」と回答。以降、会場の関心度が高い順にインタラクティブに進め、「デジタル変革において注力している提供価値は?」という質問には6割以上が「顧客体験価値」と回答。デジタル変革に取り組むための組織にも触れた上で、最後は「デジタル変革に必要な組織文化とは何だと考えますか?」という質問に自由回答を求めたところ、「経営者のコミットメント」「異端を認める文化」「自律的かつオープンな組織風土」といった回答が寄せられた。

これらの回答を受け斎藤氏は「イノベーションに取り組む人は多くの共通課題を抱えています」と指摘。社内だけではなく、社外で同様の取り組みを行っている人とのつながりも大切にしてほしいと述べた。


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成功事例から抽出できるいくつかのパターン

最後の基調講演では、南山大学の青山 幹雄氏が登壇。デジタル競争の勝者になるためのヒントが語られていった。

南山大学 理工学部 ソフトウェア工学科 教授 青山 幹雄氏
南山大学 理工学部 ソフトウェア工学科 教授 青山 幹雄氏

まず冒頭で「2025年の崖」について簡単に解説。その本質は「DXによる競争優位」への立ち遅れだと指摘した上で、DXを起こせない企業は生き残れなくなると述べる。ではDXをどのように実現すべきなのか。青山氏は「DXは容易ではないが、いくつかの成功事例からサクセスパターンが見えつつあります」と語る。

ここで青山氏は、金融業界における複数のサクセスケースを紹介。「金融ビジネスの再定義」を行うことで年間5〜6億ドルの収益成長を見込む米Citigroupの事例、M&AによるレガシーIT基盤の乱立を刷新するため6つのステップでDXを推進する独INSUR社の事例、顧客ジャーニーを意識したDXに取り組むシンガポールのDigital Bankの事例を取り上げて解説した。

これらの事例から抽出されるサクセスパターンの1つが、経営者、業務部門、IT部門の三位一体のDX推進だという。デジタル技術ベンダーの支援のもと、経営者がリーダーシップを発揮し、業務部門とIT部門が緊密に連携しながらDXを推進するのだ。ここで重要になるのが「DX推進指標」。DX達成までのロードマップをレベル0〜5まで定義し、レベルアップに向けたロードマップを明確化した上で、DXがどこまで達成されたのかを定量的に把握するのである。これはDXの共通言語としても重要な役割を担うことになるという。

また、DXを推進するための統合エンジニアリングも重要だと指摘。顧客体験や業務といった経営戦略を起点に、ビジネスエコシステムを考慮しながらフレームワークを作り上げるべきだと述べて講演を締めくくった。

お問い合わせ

日本アイ・ビー・エム株式会社
URL:https://ibm.biz/BKG-contact


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