パイロットは楽しい

渡辺:先ほど撮影でコックピットに座るという、とても貴重な体験をさせていただきました。その時、操縦席の周囲にある計器の1つも皆目わからない、こんな世界があるんだと驚きました。そのすべてを把握し、各空港、滑走路の状況を見ながら安全に運航するというのは、改めて大変な能力だと感じました。そもそも、パイロットになろうと思われたきっかけは何だったのでしょう。

荻:私は、大阪府の出身で伊丹空港が近かったこともあり、小学校1年の作文に「空を飛んでみたい」と書いていました。ずっと忘れていたのですが、パイロットを志望していた兄が視力が悪くてパイロットになれなかったので、自分の夢を私に託して、パイロットになる方法を自分で調べて教えてくれました。

渡辺:見事パイロットになられて、お兄様と一緒にフライトなさっているような感覚ですね。実際に就いた仕事としては、いかがでしたか。

荻:私は地上の仕事が多く、月に2回くらいしか飛べないのですが、どんなに天気が悪く揺れても、飛ぶ度に楽しいと感じます。毎回環境が違うなかで、情報を収集してずっと問題解決をしながら着陸まで導き、思い通りになった時の満足感はものすごく高いですね。

渡辺:訓練企画の充実感とは、まったく別の充実感があるのですね。

荻:私は誰よりも揺らさないと思って飛ばしているのですが、もちろんうまくいかないこともあります。ある意味自己満足なのですが、最高のサービスを提供するために手は抜かず取り組んでいます。一方で企画の仕事は、訓練の品質が上がることで、パイロット全体のレベルアップにつながり、安全性が高まっているということになります。しかも、現在JALは国内の他の航空会社へのノウハウ支援も行っているので、日本の空の安全性も高めているともいえます。それぞれ違う充実感があります。

渡辺:片桐キャプテンは、どういう経緯でパイロットになられたのですか。

片桐:実は、私の高校の頃のあだ名は「機長」でした。そこからパイロットについて調べているうちに、どんどんパイロットになりたくなって、引きずり込まれるようにここまできました。

渡辺:でも実際のところ、パイロットになる試験というのは相当難しいのですよね。

片桐:私は劣等生だったので、難しかったですね。試験の成績も悪かったし、教官にいっぱい怒られてしゅんとする繰り返しでした。

渡辺:そのご経験が、訓練改革に生きて実っているのですね。ノンエビデンスの指摘に苦労されたからこそ、エビデンスに基づいた訓練の推進力になったわけですから。パイロットとしての業務は実感として、いかがですか。

片桐:荻さんも言っていましたが、どんどん楽しくなってきました。こんな楽しい仕事はないです。

マニュアル改変や自律型人財育成など新たな改革にも着手

渡辺:現在は、フライト以外ではどのような仕事を担当されているのですか。

荻:私は運航訓練審査企画部に所属し、定期訓練を企画しています。定期訓練は毎年変わるので、現在は次年度に向けて訓練内容を組み立てたうえで、シミュレーター訓練のシナリオや教官向けの訓練ガイドの作成を統括しています。また訓練とは直接関係ないのですが、新たにマニュアル再編プロジェクトに取り組んでいます。

渡辺:それは、どのようなものなのでしょうか。

荻:航空機のマニュアルは、膨大かつ複雑で見たい規程や資料を探すのが難しくなっていました。情報量も非常に多く、それぞれの規程や情報の間の整合性や整理がしっかりとされていないこともあり、非常にわかりにくかったのです。

渡辺:必要な情報を探し当てるまでに時間がかかるということですか。

荻:はい。そこで、ユーザー視点で整理し直し、すべての情報を国の認可が必要な最重要マニュアルである「基幹規程」を中心に体系としてつながりを持つよう変更しました。訓練改革の中では私もデータベース(DB)の勉強をして開発をした経験があるので、そのノウハウを生かし、DBを使って複雑化したマニュアル体系を整理してみようと思い立ちました。訓練改革を始めたときもそうでしたが、マニュアル改変も組織から指示されることなく草の根運動的に始まったのですが、今や運航本部の一大プロジェクトとなっています。

渡辺:パイロットの皆さんの反応はいかがですか。

荻:マニュアルの使い勝手は、パイロット共通の課題だったので、みんなが待ちに待っていた施策ともいえます。また、今回マニュアルの不具合や改善点を、ユーザーが直接提案できるしくみも組み込んだので、より使いやすいマニュアルへ進化できると考えています。

渡辺:改善できるしくみが組み込まれているのはすばらしいですね。片桐キャプテンは、どのような仕事を担当されているのですか。

片桐:私は乗員サポート部で、パイロットのサポート業務、特に育成に関する業務を行っています。前回お話ししたCBTの導入によって訓練内容も、訓練での評価基準や方法が大きく変わりました。しかし、教官への依存性が強かった人、新しい訓練の目的や理念を理解していない人などは、新しい訓練に簡単には対応できません。その人たちに自律性を促す取り組みが必要になり、今それを始めています。私も組織から指示されてこの取り組みを始めたわけではないのですが、同じ問題意識を持つ仲間が集まり、草の根運動から賛同者を増やしていき、今年からはパイロットのサポートが運航本部の正式な取り組み施策となりました。

荻:3回目で出ていたJAL OODA(ウーダ)の取り組みにもつながります。「自ら考え自律的に行動する」ということです。

片桐:どこの世界でもそうだと思うのですが、人間は無意識でいるとコントロール型になってしまいます。誰かが君臨して、その人が正しいとなってしまう。部下は「やらされ感」を持つようになります。そうすると「何のため」を忘れ、自発性、自律性がどんどん失われていきます。そして「何のため」が「直属の上司に認められるため」になり、すなわち自分のためにしか働かなくなるのです。

JALは倒産した時、まさにそういう会社でした。「それは違うでしょう、我々はお客さまのため、社会をよくするために存在しているということを、もう一度思い直そうよ。そうじゃないと再生できませんよ」と言われたのが稲盛名誉会長です。そのために、コントロール型は本来不要であり、むしろ長期的には成果が上がらないし、人は育たない、みんなが幸せになれない、それではお客さまも幸せにできない、と社内の価値観を見直し、自律型の人財育成を進めています。

渡辺:依存型だった方が自律型に移行するのは難しそうに感じますが、可能でしょうか。

片桐:色々と取り組んでいる中で、できそうだということは見えてきています。ただ、相手を一方的に変えようと意気込んでも人は簡単には変わりませんし、変われません。だから、敢えて変えようとはしません。自律型の人たちが輝いていて尊敬される存在になれば、相手は自分もそうなりたいと思い、自発的に変わってくるものだと思っています。そして多くの人たちが「自律型の方が楽しい、ハッピーだ」と気づいてくれるはずです。これは、私一人が持論に基づいてやっているわけではなく、何十年もこの分野で研究されてきた先生方と一緒にやっています。

渡辺:自律的に行動している片桐さんや荻さんが仕事を楽しまれている姿は、まさに良い例になりますね。そのノウハウ自体が、どの業界にも通用するひとつのメソッドとなりそうですね。DBも8代目とうかがっていますが、取り組みを進めるなかで問題が出てきたら、それに合わせてバージョンアップして、進化を続けているということですね。

片桐:訓練のしくみもそうですし、受ける人にも「自分でアグレッシブに育っていった方が絶対に楽しいよ」と勇気づけながらやっていく時代になっています。

渡辺:それこそが仕事の醍醐味ですよね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

渡辺 真理

1967年6月27日生まれ。神奈川県横浜市出身。横浜雙葉小中高、ICU国際基督教大学卒業。1990年TBSにアナウンサーとして入社。『モーニングEye』『筑紫哲也 NEWS23』などの番組を務めた後、1998年にフリーのアナウンサーとなり、テレビ朝日『ニュースステーション』、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』などに出演。現在は、読売テレビ『そこまで言って委員会NP』、雑誌『eclat』連載など、テレビ、ラジオを中心に活動中。

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