航空会社において、航空機の安全の根幹を担う機体の整備。JALグループでその整備業務を担うのは、JALエンジニアリングである。日々世界中で約200機を運航するJALグループの整備業務は、どのようなビジョンや理念に基づき、いかに行われているのだろうか。渡辺真理さんがJALの羽田航空機整備センターにうかがって、JALエンジニアリング 取締役 企画財務部長の吉田保夫氏に話を聞いた。

お客さまに安心と満足を提供したい

日本航空株式会社
整備本部 企画財務部長
株式会社JALエンジニアリング
取締役 企画財務部長
吉田 保夫

渡辺:母がJALの客室乗務員だったこともあって、小さい頃からJALのファンでした。

吉田:そうですか。ありがとうございます。

渡辺:航空機に乗って嬉しく感じるのは、飛び立つときに整備士の方が手を振ってくださる姿で、ついいつも振り返しています。整備という仕事には大変なご苦労があるだろうと想像しますが、乗客にとっては見えない部分だけにわからないことが多いのも事実です。まず航空会社の整備部門として、大切になさっている考え方から教えていただけますか。

吉田:JALの整備部門は、JALが100%出資するグループ会社であるJALエンジニアリングが担っています。そのJALエンジニアリングの企業理念をご紹介します。3つあり、まず1つめが「お客さまに『安心』と『満足』をお届けします」です。

我々は、航空機の整備を行っていますが、その先にはお客さまがいらっしゃるということを全社員がきちんと理解して仕事をしていこうということです。「安全」ではなく「安心」としているのは、「安全」が技術者目線の数値のようなものだとすると、「安心」はお客さまが感じられるものです。我々がこの航空機は安全ですと申し上げても、お客さまが不安に思われるようではこの企業理念は実現できません。

日本航空株式会社
整備本部 企画財務部長
株式会社JALエンジニアリング
取締役 企画財務部長
吉田 保夫

渡辺:確かに、報道でも「伝える」と「伝わる」は一文字違いであっても大きな隔たりがあって、しかも視聴者の方々に伝わったという保証はありません。だからこそ伝え続ける必要性もやり甲斐も生じるわけですが。「安全」に関しても、万全を期して数値を上げても「安心」を獲得するのは本当に難しいということですね。

吉田:そうだと思います。

2つめは、「誠実さと思いやりのある誇り高い技術者であり続けます」です。整備士として、しっかりとした人間性を培って航空機の整備をしていこうということです。誠実さも思いやりもお客さまに対して持っていなければならないことです。一人ひとりが人間としても成長していくことで、結果として質の高い整備ができるということです。

3つめは、「航空技術の発展と社会への貢献を果たします」で、エンジニアリングの会社として技術力を社会のために役立てていきたいという思いで掲げています。JALグループは、過去に重大事故や経営破綻など、世の中にご迷惑をおかけする事象を起こしています。再生させて頂いた今、世の中に対して恩返しをしていくタイミングだと思っています。

渡辺:技術だけを高めるのでなく、その根幹となる人としての成長と社会のために役立つ意識を敢えて言葉にして掲げていらっしゃるのですね。業種は異なっても同じサービス業として、共感いたします。整備部門としてどんなことに取り組んでいますか。

吉田:今申し上げた3つの企業理念を実現するための取り組みを、2017年にスタートした4年間の中期経営計画で設定しました。これも3つあります。

まず1つめが、「人と働き方の変革」です。航空機の性能が向上し、以前より大きく変わっています。そこで、それに合わせて人の考え方や働き方を変えていこうとしています。

2つめは、「新しい整備の創造」です。航空機が変わる中、旧来通りの整備のやり方では、我々が目指す安全レベルや品質は実現できません。人も変わるし、整備のやり方も変えていこうということです。

3つめが、「日本の空への貢献」です。

技術と人間性を兼ね備えた整備士を育成

渡辺:その中期経営計画を実現するために、具体的にどのような施策を行われているのでしょうか。

吉田:JAL独自の制度として整備マイスター制度というものがあります。

航空機の整備士は、毎年一定の技量や知識を得てステップアップしていきます。国家資格である「一等航空整備士や航空工場整備士」資格とは別に社内資格があり、下から「初級整備士」、「2級整備士」、「1級整備士」があり、10年程度で一番上に到達します。一方、整備士として働く期間は、20歳で入社して60歳まで働くとして、40年間です。残りの30年間、いかに高いモチベーションを維持して、技術を高めてもらうかが課題でした。

そこで、1級の上に整備マイスター制度を創設し、モチベーションを高めてもらおうと考えました。これも3つのレベルがあり、「エキスパート」、「マイスター」、「トップマイスター」です。トップマイスターになるのはなかなか大変で、今JALエンジニアリング4000人超の社員の中で、現時点のトップマイスターは1人です。

渡辺:お1人ですか!?

吉田:はい。これはもう、ご本人の技術力、知識、経験に加えて、人間性も含め誰もが「立派だ」と認める人に与えられます。

渡辺:相当な難易度なのでしょうね。

吉田:現場の整備士は、それぞれの専門分野があるので、その分野で誰にも負けないトップレベルの技術力を備えていることはもちろんですが、特に大事なのは人材育成ができることだと思っています。今のトップマイスターは、自分のことより後輩のことを考えるような親分肌の方で、こういう人を評価しないといけないと思っています。

トップマイスターの肩章。

トップマイスターの肩章。

渡辺:そういう方の技術はもちろん、人としての大きさを継承していくことこそ、至難ですが、大切なことですよね。

吉田:そうですね。どこの企業も、ベテランの暗黙知の伝承に悩まれていると思いますが、我々もまったく一緒です。

渡辺:乗客の立場としても、ベテランの方々からの無形資産はぜひ受け継いでいただきたいと願います。

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