IT化の進展により、航空機が進化を続けている。近年機体や運航に関する詳細なデータ収集と分析が可能になり、機体の予測整備が可能になってきた。それに伴い、整備業務も変化を続けている。一方で、整備に取り組む姿勢や、経験から培ったさまざまなノウハウなど、変わらないものもある。変化に対応して日々自己研鑽を続けながら、変わらない心を含めていかに後進に継承していくか。日々格闘する整備士の米重裕樹氏と津郷裕之氏に渡辺真理さんが話を聞いた。

約3000人の整備士が日々機体整備に取り組む

株式会社JALエンジニアリング
羽田航空機整備センター
機体点検整備部
第1機体運航整備室第2課
米重 裕樹

渡辺:前回は、吉田部長に整備部門全体としての目標や仕事に取り組む姿勢、それを実現するための施策などを伺いました。今回はお二人に、もう少し現場の具体的なお話を聞かせていただければと思っています。まず、整備部門の業務の概要から教えていただけますか。

米重:整備は、大きく運航整備と呼ばれる日々の整備と、車検のような定期的な機体点検整備に分けられます。運航整備の中には航空機が空港に到着して次に飛び立つまでの間に行う飛行間点検や、夜に空港に戻ってきた機体を翌朝飛び立つまでに行う夜間の整備、さらに1日だけ昼間に運航を止めて行う整備などがあります。

一方の機体点検整備は、一定期間経過した航空機を、1、2週間かけて隅々まで分解・点検し、必要な処置を行います。また、機体システム、電装客室、機体構造、塗装といった各整備領域ごとに高度に専門化されたチームで整備を行います。

株式会社JALエンジニアリング
羽田航空機整備センター
機体点検整備部
第1機体運航整備室第5課
米重 裕樹

渡辺:その中で米重課長のご担当はどのようなところなのでしょうか。

米重:私は、これら全部の整備領域に関わる部署になります。課の中にエンジンや客室などの整備を行ういろいろな係があって、それぞれの専門家が所属しています。

渡辺:技術的な専門性も高いうえに幅広く、オールマイティーということですね。津郷課長も、ご専門を教えていただけますか。

津郷:私は、機体点検整備の部署で、機体構造整備を担当しています。自動車整備で例えると板金作業をイメージしてみてください。飛行中に航空機が被雷したり、離着陸時に鳥の衝突などにより損傷を受けた構造部位を修理したり、補強したりしています。

渡辺:外から見えない劣化は、どうやって発見するのですか。

津郷:非破壊検査を行います。一番わかりやすいのは、レントゲンですね。周囲の部品を取り外してレントゲンを撮り、構造内部に潜在する損傷の有無を確認します。

構造部材がカーボン製の場合は、損傷部分から水が入っているかどうかも確認することができます。ドライヤーのようなもので加熱し、温度上昇の様子を専用器材で確認することで、水の混入があるかどうか、すなわち損傷があるかどうかを確認します。

非破壊検査の資格を取得するためには一定時間の検査経験(最低200時間の検査経験が必要)と資格試験に合格することが求められます。また、非破壊検査には多くの種類の検査方法とそれぞれの検査員資格があり、それら資格取得のためにそれぞれ求められる時間の検査経験と試験を受けなければなりません。

渡辺:最低200時間ですか!しかも、非常に多くの試験を受けなければならないのですね。

津郷:はい。中には、普段使わない技術や、ほとんど起こらない事でも知っておかなければならないという事象もあります。

渡辺:確かに万に一つの不具合にも常に対応できるようにしておく態勢は、乗客としてはとても安心です。

女性の登用が進む整備士の世界

株式会社JALエンジニアリング
羽田航空機整備センター
機体点検整備部
構造塗装技術室構造技術課
津郷 裕之

渡辺:津郷さんは、どうして航空整備士を目指されたのでしょう。

津郷:自宅が大阪伊丹空港の近くで、小学生のころから航空機の写真を撮っていました。中学時代に航空科の高校があると知って山梨県の高校に入学し、その後航空専門学校の整備科で学び、JALに入社しました。

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羽田航空機整備センター
機体点検整備部
構造技術室
津郷 裕之

渡辺:子どものころからの憧れがご職業として結実したのですね。実際に整備士としてスタートを切られた時はどうでしたか。

津郷:嬉しかった反面、不安もありました。航空機は、間近で見るとものすごく大きいんです。そもそも、こんな大きなものが何で飛ぶのかと疑問があって、入社後しばらくは、自分が手を出していいのか不安がありました。

渡辺:大きな航空機がどうして飛べるんだろうという疑問、わかります。乗客として、整備士の方もそんな恐れをいだきながら仕事に取り組まれている姿勢は共感できて、安心です。米重課長に伺いたいのですが、これまで嬉しかったのはどんな時でしょう。

米重:北京の支店に赴任していた時、航空機に不具合が発生し、日本に飛び立てるかどうかわからない状況の中で、他部門や日本とも連絡をとりながら対処し、無事にお客さまを乗せた飛行機を送り出した時は、知り合いの海外駐在員や乗務員からも直接感謝されて、嬉しかったですね。

渡辺:実際には、直そうにも直せないような大変なトラブルもあるんですね。

米重:もちろんあります。不具合の解消のため部品交換が必要な場合は、支店でも一定の予備部品を持っていますが、ない場合は他の航空会社から借りたり、それもない場合は日本の基地から緊急で輸送する必要があります。

渡辺:それは、時間内に全部コーディネートして納品するだけでなく、環境が整わないギリギリの状況では普段取らない方法も考えるなど機転を利かせることも同時に必要ということですか。

米重:そうですね。さらに言うと、整備士は修理手順を規定したメンテナンス・マニュアルに載っていないことはできず、勝手に機転を利かせた対応を行うことができません。イレギュラーな対応を行う場合には、専門部署が航空機メーカーに問い合わせ、許可を得たうえで修理対応を行います。やはり、チームワークが非常に重要です。

渡辺:咄嗟の時にも最大の連携力を発揮できるようなチームワークが求められるのですね。

米重:はい。実際に航空機に手を振っているのは1人か2人かもしれませんが、その後ろには多くの部署の多くの人がいるんです。我々の職場は主に格納庫内での機体点検整備なので、運航整備とは違い、どちらかというと縁の下の力持ちという立場ですが、その後ろにも非常に多くの支えてくれている人たちがいます。

渡辺:それぞれがきっちり職務を果たし、それがすべてつながって安全・安心を実現しているという意味で、皆さんは表舞台からは見えないヒーローですよね。現在は、女性整備士の方もいらっしゃるのですか。

津郷:はい。今羽田には、約60名います。

米重:私の職場は、30名の課員に対して3名が女性です。しかも毎年増えています。今年は、新入社員全体の2割近くが女性で、優秀な社員が多くいます。

渡辺:女性にも門戸は開かれていて、これから目指す方々も歓迎されるのですね。

米重:はい。ある女性新入社員は、高校生の時に整備士になりたいと思ったものの、不安もあって普通の大学に入ったそうです。その後、やはり整備士になりたいと思い直し、大学卒業後航空専門学校に入り直して整備士になりました。

渡辺:素晴らしいですね。念願の仕事に巡り合えて実際にその職に就けるのは本当に幸せなことですし、乗客にとっても情熱を持って取り組む方々にフライトを支えていただけるのは、とても心強いです。

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