空の旅で乗客がもっとも身近に接するのが客室乗務員(CA)だろう。その仕事ぶりは広く知られているが、その裏側で行われている訓練や働き方は、うかがい知れないものがある。前2回の整備部門に続き、3、4回ではJALの客室部門を紹介。渡辺真理さんが羽田空港敷地内のJALの訓練施設にうかがい、JAL 客室本部 客室業務部 副部長 藤田正子氏に話を聞いた。

「JALフィロソフィ」をベースに感知力を磨き最高のサービスを

日本航空株式会社
客室本部 客室業務部 副部長
藤田 正子

渡辺:まず、JALの客室部門の姿勢と心構えから教えてください。

藤田:客室本部の姿勢はJALグループ中期経営計画とリンクしていますので、まずはJALグループの取り組みをお話しします。私たちは「安全・安心の再構築」を取り組みの最初に掲げています。全社一丸となって信頼回復に努めてまいりますし、社会に貢献し、企業価値を高めていくという目標があります。客室本部では何ができるかと考えると、私たちは現場にいて、誰よりも身近にお客さまに接することができます。そこではやはり心と姿勢が一番大事で、真摯にひたむきに前を向いてお客さまに寄り添っていけば、「信頼を回復したい」という私たちの気持ちは伝わるのではないかと考えています。

日本航空株式会社
客室本部 客室業務部 副部長
藤田 正子

渡辺:JALは、旅行サイト「トリップアドバイザー」による日本のベストエアラインに2年連続で選ばれています。私も乗客としてJALのCAの方々のサービスはとても丁寧で細やかといつも感じているのですが、機内の心地よい空間づくりのため、見えない心配りをされていることを今回、初めて知りました。先ほど、撮影で客室乗務員(CA)の方に食事のサーブを実演していただいた際、横からではなくお客さまに正対して提供することを心がけるとうかがって驚きました。

また、先日は通路が2つある機体で1列目の中央の席だったのですが、少し遅れていらした方が急いで私の前を通って駆け込まれたところ、CAの方が謝ってくださって。その席の前に広がる空間を守る姿勢に気づいて感心しました。私たち乗客がなんとなく心地良いと感じる舞台裏には、CAの方がすべきこと、すべきでないことを共有し、実践されているルールがあるのですね。それはどのようなものなのでしょう。

藤田:私たちのベースには、「JALフィロソフィ」という共通の指針があります。これは、2010年の経営破綻から1年後の2011年1月に発表されました。JALフィロソフィができたことで、仕事に対する考え方の軸ができ、何をするにも「人として何が正しいかを考えているか」、「尊い命をお預かりするという概念で安全を守ることを考えているか」と立ち戻って思考するようになりました。結果としてサービス自体も変わったと思います。

そして、その上に守るべき「基本品質」があり、そこで一番大切にしているのは、お客さまに快適に過ごしていただくために、お客さまの大切な空間や時間に寄り添うことを身に付けているかです。そのためには、経験や空気を読む力、お客さまがどんな気持ちでお座りになっているかを想像する力に基づく「感知力」が必要です。ベースはJALフィロソフィにある「心」、次に訓練で身に付ける「基本品質」、そして、その上にあるものが「感知する力」。これらを大切にしています。

自ら考え自律的に行動する「JAL OODA」

渡辺:サービス業に従事する1人として実感しますが、「感知力」はサービスを提供する側として必須ながら、難易度はとても高いですよね。乗客の方々はそれぞれ別の性質で、体調や気分、今何を求めているかも違う中で、サーブしながら観察し、感知し続けるのは至難です。

藤田:だからこそ、やりがいがあって面白い仕事です。毎日、お客さまも、行き先も、季節も違う、その中でいろいろなことに気づく感性を大事にしたいと思っています。

渡辺:みなさんがそこを大切にしようというコンセンサスを持って臨まれているのですね。

藤田:はい。それはCAだけでなく、JALフィロソフィはJALに集う仲間全員が根本的な考え方として持っています。たとえば、地上で何かトラブルがあったら、CAはそれを受け継いで、「お客さまは待たされてストレスを感じていらっしゃるだろうな」と察して応対します。

渡辺:なるほど。CAの方がお客さまに接する時間は一番長いですが、地上職や整備の方など、見えない方々のそれまでに至る思いを引き継いでサービスを完結するという意味ですね。

藤田:「最高のバトンタッチ」を心がけており、皆が同じ思いでそれぞれの仕事に全力で取り組むことで、達成感とか仲間への思いが生まれます。自分だけではないところが、この仕事の醍醐味です。そして、最終的にお客さまが目的地に着いて、「今日はなんか心地よかった」と感じていただき、「誰かにJALを勧めてみようかな」と思っていただけたら、それがゴールかもしれません。

それには、何気なく仕事をしない。何のため、これをするとどうなるということを考えて仕事をすることが重要です。私たちは今、自律型の行動をする「JAL OODA(ウーダ)」という考え方を広めようとしています。まさに今おっしゃったように、なぜお客さまがそうされたのかを考えて行動しなければならない。そしてそれは、誰かに言われてではなく、自分で考える、ここが大切です。

渡辺:フライトの最後に「今日も数ある航空会社の中から日本航空をお選びいただき、ありがとうございます」とアナウンスされますが、毎回チーフCAの方の気持ちがこもっているように感じます。私たちアナウンサーも心がけますが、マイクに体温を乗せているかは耳に届いた時にわかるもの。「なぜ選ばれたのか、そして次も選んでくださるように」には、訳があるということですね。

藤田:そうです。

渡辺:客室部門に目標や指標があれば、教えていただけますか。

藤田:これも全社の経営目標と同じで、安全、顧客満足、財務の3つです。ヒューマンエラーによるケガや火傷といった事象が発生しないように、基本に忠実に業務を遂行します。お客さまにまたご利用いただけるように「世界トップレベルのお客さま満足」を実現します。私たち一人ひとりの採算意識を高め、「売り上げを最大に、経費を最小に」を目指します。

渡辺:考えてみると、CAの職務はホテルやレストランに通じるサービスをしつつ、機内販売の販売員でもあり、根底には絶対的に安全・安心を守る。まさに全方位のお仕事ですね。

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