JALの客室乗務員(CA)の制服は、通常は紺色だ。しかし、クルーの中に白いジャケットを着た人を見かけたことのある方も多いだろう。その人こそチーフCA。そのフライトでのCAのリーダーにあたる。訓練と実践を重ね、経験を積んだ優秀なCAのみがなれるチーフCAは、若手CAの憧れの存在。今回は、そのチーフCAのお二人に渡辺真理さんが話を聞いた。

乗務をしながら安全やサービスの企画を実施

日本航空株式会社
客室本部 客室安全推進部
チーフキャビンアテンダント
佐藤 奈美

渡辺:前回、藤田副部長に客室乗務部全体の考え方や取り組みをうかがいました。今回は、チーフキャビンアテンダント(CA)のお二人に、より具体的なお話をうかがって参ります。それぞれのお立場と業務内容から教えていただけますか。

佐藤:半年に1度乗務しながら、間接部門で安全に関する業務を行っています。たとえば、マニュアルの作成や改訂、機内で起こる不安全事象(ケガや火傷など)の分析や対策の検討、御巣鷹山の慰霊登山の計画や実施などを担当しています。

日本航空株式会社
客室本部 客室安全推進部
チーフキャビンアテンダント
佐藤 奈美

渡辺:当然のことではありますが、JALの皆さんはいついかなる時も、御巣鷹山の事故のことを心に刻まれているのですね。

佐藤:そうですね。やはり私を含め事故を知らない世代がほとんどです。もちろん初期訓練でも学びますが、「三現主義〔現地・現物・現人(げんにん)〕」に基づき、自分の目で実際の現場を見て、ご遺族など事故を経験された方々の話を聞き、より自分のこととして考えてもらうようにしています。

渡辺:ご遺族の方がだんだんお年を召して登山が困難になられたとしても、JALの皆さんが必ず引き継いでいくという意志を感じます。本田チーフも業務内容など教えていただけますか。

本田:私も、半年に1度乗務しながら地上勤務をしています。私はサービスの企画や改革、お客さまの受けとめ方の分析、分析結果に基づく新しいサービスツールの導入検討などを行っています。また、他部門で企画される新しいサービスについて、それを現場で本当に実践できるかどうか、どのように工夫すればお客さまにさらに喜んでいただけるものになるかを実機検証も含めて検討を行います。

渡辺:お二人ともいろいろな業務をなさりながら、並行して乗務されているのですね。

佐藤:資格維持のため半年に1度は乗務します。その他、企画やマニュアルを検証するため乗務することもあります。

憧れから始まり努力を重ね、念願のCAへ

渡辺:お二人はいつごろからCAになりたいと思われたのでしょう。

佐藤:父が旅好きで、子どもの頃から航空機が身近で、サービスをしてくれるお姉さんに憧れていました。小学生くらいです。

渡辺:CAの方にサービスしていただくのは嬉しいですよね。とはいえ、なりたいからなれるという仕事ではないのも現実です。どうやって夢を実現されたのですか。

佐藤:英語が必要だと思ったので、学校だけでなく英会話教室に行きました。また、体力勝負という側面もあるように感じられたので、ジムに行ったり走ったりして体力づくりもしました。

渡辺:実際、CAの試験は相当大変なのでしょうね。

佐藤:初めて面接に臨んだ時は高校や大学受験の時より緊張しましたし 周りの方が自分よりとても素晴らしく見えて多少落ち込んだりもしました。しかし、面接のステップを経ていく中で気持ちを切り替え「採用試験を楽しもう」という姿勢で臨むようにしました。

渡辺:本田チーフはいかがですか。

日本航空株式会社
客室本部 客室品質企画部
企画・運営グループ
チーフキャビンアテンダント
本田 佳奈子

日本航空株式会社
客室本部 客室品質企画部
企画・運営グループ
チーフキャビンアテンダント
本田 佳奈子

本田:私も祖父が昔航空機に乗った時のことを楽しかったと言っていて、なんとなく憧れていました。高校が英語科と普通科に分かれていたので、少し頑張って英語科にトライし、そこから始まった感じです。

渡辺:実際の試験では、どうでしたか。

本田:正直に言うと、はじめの方は強い自己アピールをする方が多くて、私はそれができなかったので辛かったですね。それが、だんだん進むにつれて、面接の雰囲気が心地よくなっていきました。

佐藤:CAの仕事は、お客さまが主役なので、やはり面接官も「私が私が」という人よりも、少し引いて考えられる人の方を選ばれたのかもしれません。

本田:私が受けた年は就職氷河期で、2年間新卒採用がなく、久しぶりに採用が復活した年でしたから、余計強いアピールにつながったのかもしれません。

渡辺:バブル世代と呼ばれる90年入社の私の頃は超売り手市場と言われ、内定をいくつも手にする学生たちもいたので、その後に続く就職氷河期を体験した後輩諸氏に対して、どこかで申し訳なく感じる気持ちもあります。本田さんも本当に苦労されたと思います。ただ、この時期に入社なさった皆さんの方が仕事に対する考え方や姿勢が真剣なだけに、お客さまの立場から見ても丁寧で誠実なサービスを期待できる一面はあるようにも感じます。その厳しい試験に受かった時は、どんなお気持ちでしたか。

本田:ちょうど実家に帰っていて、家族で夕飯を食べていた時に電話がかかってきました。嬉しくて泣き崩れてしまい、家族みんなで号泣しました。

緊張感は持ちつつリラックスできる雰囲気を心がける

渡辺:そして、いよいよ初めて制服に袖を通した時は、いかがでしたか。

佐藤:訓練生の頃、CAの制服は、脱出誘導などを行う救難訓練に受からないと着られません。「安全ありきの職業なので、サービスはその次」と言われていたので、袖を通した時は、なおさら嬉しかったです。

渡辺:そういう矜持を胸に制服をまとっていらっしゃるんですね。それから、実際の業務は、憧れていた頃と比べるとどんな違いがありましたか。

佐藤:私は、入社するまでCAはサービス要員とだけしか考えていませんでした。でも実際は、具合の悪い方がいれば看護師、赤ちゃんを見ていてと言われれば保母さん、室内清掃をするクリーニングスタッフ、給仕係、万一の場合はお客さまを安全に避難させる保安要員、通訳など、いろいろな役目があります。それが楽しいですね。

本田:私は逆に、なんてプレッシャーが多い仕事なんだろうと思ってしまいます。お客さまにはもちろん初めてお会いしますし、乗務員同士も初めて顔を合わせてフライトすることも多いんです。

渡辺:そのフライトで初めての顔合わせというケースもあるのですね。

本田:はい。一応決まったチームはあるんですが、毎回そのチームで飛ぶわけではありません。今日のチーフのサービスポリシーはどうなのか、お客さまはどういう方々なのかわからない状態で、日々プレッシャーを感じていました。慣れるまでは結構辛かったです。

渡辺:いつごろまでプレッシャーを感じていらっしゃいましたか。

本田:そういう意味では、今でもフライト前は緊張して眠れないこともあります。ただ、若い世代はもっとそうだと思うので、チーフになってからは、みんながリラックスできる雰囲気を大切にしています。

渡辺:乗客の側からしても、そうやって緊張感を持って乗務されているのは、とてもありがたいことです。自省をこめて私も実感するのですが、ルーティンになって慣れが出てくると、気づかないうちに業務がおざなりになることも。CAの皆さんはプロフェッショナルですが、同時に緊張感を持って毎回のフライトに臨まれるのは安全安心を守る意味で、とても重要ですよね。

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