「KDDI DIGITAL GATE」共創事例:株式会社QUICK 「スキルの可視化」に潜む大きな可能性 KDDIとともに新規事業を開拓する

保有資格などをオンラインで表示する「デジタルバッジ」。海外では広く利用されているものの、日本ではまだ認知度が高くない。そこに注目し、利用拡大に向けた新規事業を検討しているのが金融情報サービス会社のQUICKだ。プロジェクトの推進に当たってはKDDIが開設した5G/IoT時代のビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を活用。その経緯や現在までの成果を、両社のキーパーソンに訊いた。

人材が持つスキルを、誰が見ても分かりやすくしたい

株式会社QUICK イノベーション本部 R&Dセンター 部長 渡辺 徳生氏

個々人が保有するスキルや資格の情報をオンライン上に掲示することで、第三者に分かりやすく伝える「デジタルバッジ」。既に海外では多くのIT企業が発行しており、利用者も多数存在する。また近年は大学などの教育機関が発行するケースも増えており、自分のデジタルバッジをSNSなどで公開することも一般的になりつつある。一方、日本ではまだ認知度は高くない。個人のスキルセットに関する情報は、多くの場合、企業や学校などの所属組織内に閉じてしまっている。

そこに着目したのがQUICKだ。少子高齢化が進む中、同社は、日本でもこのデジタルバッジの活用を広げることで人材交流を活性化し、人材マッチング市場の更なるスマート化や、副業制度・クラウドソーシングを活用した新規ビジネス、企業内の人材スキル管理への応用など、さまざまな新規ビジネスを創造できないかと考えた。

「当社は、日本経済新聞社グループの一員として1971年に創業して以来、日本の証券・金融市場を支える情報インフラとしての役割を担ってきました。公正・中立な立場から、付加価値の高いグローバルなマーケット情報を迅速にお客さまに提供することをミッションとして、時代に先駆けたさまざまなサービスを展開してきました」と同社の渡辺 徳生氏は話す。

主に金融領域に強みを持つ同社が、一見して無関係に見えるデジタルバッジに着目した理由は何なのか。これは、既存事業の本質を突き詰めていくと見えてくるという。

同社が創業した1970年代当時、一般の投資家が株価に関する情報をリアルタイムに入手することは困難だった。証券会社の店頭や新聞・テレビ・ラジオといったメディアを介して入手する必要があり、刻々と情報が変化する株式市場には、取引を担う市場関係者や個人投資家の間で「情報の非対称性」が存在していた。

「創業以来、当社の事業の本質は、この情報の非対称性を最新のテクノロジーによって解消することにあります。もちろん、既存領域のサービスは今後も継続していきますが、これからの時代、既存の事業領域だけに閉じこもっていることは、大きな経営リスクを抱えることになるでしょう。本質からぶれることなく、新しいビジネスをどう開拓していくか。そう考えたとき、人のスキルセットという領域において、情報の非対称性を解消することで新たなビジネスを創造できないかと考えました。そして、その手段となり得るのがデジタルバッジだったのです」と渡辺氏は言う。

ただ、事業の本質こそ同じとはいえ、実際のサービスの構築や提供に際して必要になる考え方やテクノロジーは、これまで同社が扱ってきたものとは大きく異なる。そこでQUICKは、オープンイノベーションの考え方のもと、異なる強みを持った企業との「共創」で進めることが不可欠だと考えた。そこで採用したのが、「KDDI DIGITAL GATE」(以下、GATE)である。


まずはビジョンを掘り下げ、仮説を立てて検証していく

KDDI株式会社 経営戦略本部 KDDI DIGITAL GATE センター長 山根 隆行氏

GATEは、KDDIが東京・虎ノ門に2018年9月に開設したビジネス開発拠点だ。5GやIoT、データアナリティクスといったKDDIグループのアセットを最大限に活かし、顧客企業とともに新たなビジネスを共創する場として立ち上げた。

「KDDIは、日本の通信インフラを担う大企業でありながら、他社との協業や新規事業開発も積極的に進めるイノベーティブな企業という顔も持っています。GATEには、技術とオープンイノベーションに関する知見の両方に明るいチームが存在しており、これなら当社の新たな取り組みも、最短経路で成果につなげることができるだろうと判断したのです」と渡辺氏は採用理由を語る。

本プロジェクトにおいて、最初に行われたのが「デザインスプリント」と呼ばれる手法を活用した5回にわたるワークショップだった。

「デザインスプリントとは、デザイン思考の考え方を具体的なアクションに落とし込んだ手法です。数日間という短い期間でプロトタイプ作成と検証のサイクルを回します。グローバルで用いられるオリジナルの手法はスタートアップなどの小規模企業向けですが、当社はそれをカスタマイズして体系化し、よりさまざまな規模の企業に提供できるようにしています」と話すのは、GATEのセンター長、山根 隆行氏だ。

具体的に、スタートアップは事業のミッションがシンプル・明確であるため、デザインスプリントではプロトタイプの作成に重きを置く。しかし、既存事業を持つ企業の場合には、ほかの事業ポートフォリオを考慮しながら新しい軸を立てる必要があるため、そこを重視した進め方にしているという。

「まず、プロジェクトのビジョンを徹底的に掘り下げます。GATEのファシリテーターが繰り返し問いかけ、その回答を基に議論を繰り返しながら考えを深めていくのです。その中で新規事業についての仮説を立てたら、プロトタイプの作成に着手します。このプロトタイプを第三者に利用していただき、検証を行います」と山根氏は説明する。

このとき立てた仮説が、デジタルバッジの発行主体を一元化/共通化することが、活用促進の糸口になるというものだった。この仮説にもとづき、さまざまなデジタルバッジの登録・表示を行うウェブサイトのプロトタイプを作成し、使ってもらった上でヒアリングを実施した。

「ただ、一度目の結果は散々なものでした」と渡辺氏は苦笑する。ほとんどの人が「訳が分からない」といい、用意したサイトを使ってくれなかったという。改善策を検討する中でたどり着いたのは、そもそもデジタルバッジの概念を知らない人が相手だとしたら、「ウェブサイトを」「使っていただく」という手法が適切ではなかった可能性がある、ということだった。そこで2回目のスプリントでは、デジタルバッジを説明する紙のパンフレットを作成。そうしたところ、今度はスムーズに活用シーンを理解していただけるようになり、仮説が正しかったことが確認できたという。

「最適解を探るには、思い込みや固定観念を捨てる必要があるのだと身をもって感じました。このことに当社だけで気付くことは難しかったでしょう。GATEの場と、熟練のスタッフが介在してくれたからこそ、最短経路で目指すものに近づくことができたのだと思います」と渡辺氏は語る。


経験豊富なスタッフに加え、多彩な技術インフラも完備

山根氏によれば、アイデアを形にしていく際に意識すべきことは大きく2点あるという。

第1は「正しく失敗すること」だ。「闇雲に取り組むのではなく、ビジョンを掘り下げてから仮説を立てれば、たとえ失敗してもそこから気付きを得ることができます。正しく失敗することで原因がすぐ判明するため改善も容易になり、目標達成までの期間が短縮できます」(山根氏)。

第2は「常に目的を意識すること」である。ここが抜けると、正しい答えにたどり着けない。今回のケースでいえば、目的は「デジタルバッジのことを知ってもらい、活用してもらう」ことであり、それを実現するためにはウェブサイトよりも紙の方が適していたというわけだ。

「また、一連の道筋をガイドするGATEのファシリテーターのスキルレベルの高さには驚きました」と渡辺氏は付け加える。ビジョンを掘り下げていく際の問いかけや、答えの引き出し方が秀逸で、参加する側もアイデアが次々生まれてきたという。

こうしたスキルは、KDDI自身が過去5年にわたり模索・実行してきた、新規事業開発の取り組みによって培われた。その過程でデジタルスプリントやアジャイルの経験を豊富に積んだスタッフが、的確なアドバイスで考えをまとめていく。同時に、対話を通じて必要なマインドセットを参加者の中に醸成することにも長けている。

「また、GATEは生まれたアイデアを形にするためのアセットも用意しています。アジャイル開発に精通したエンジニアや、IoT、データ分析といった領域ごとのパートナー企業が集まる場所であり、通信や開発基盤などのインフラも一通り揃えています。人的リソースと、技術インフラの両方をセットで備えているため、自社に十分なリソースがないというお客さまも、何らかの成果物をつくるところまでこぎつけることが可能です」と山根氏は述べる。

プロジェクトは現在も進行中だ。QUICKは金融領域におけるさまざまなデータと分析に使えるツールを提供していることもあり、「まずは金融分野におけるデータサイエンティスト育成を狙ったデジタルバッジを2019年度中には発行したい」と渡辺氏は述べる。デジタルバッジという、新たなビジネス領域への挑戦を、KDDIと共に加速するQUICK。GATEのポテンシャルを最大限に活用しながら、その具現化に向けて力強く歩みを進めていく。


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