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イノベーションを生む
新たなスタートアップ投資とは

デジタル変革が加速する中、破壊的テクノロジーによるイノベーションが企業の存亡を懸けた課題となりつつある。そうした中で、イノベーションを実現する新たな投資手法としてCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が注目されている。成功に導く鍵は何か、KPMG FASの2人に話を聞いた。

KPMG FAS グローバルストラテジーグループ 執行役員 パートナー 岡本 准 氏
KPMG FAS ディールアドバイザリー 執行役員 パートナー 岩崎 拓弥 氏
KPMG FAS
グローバルストラテジーグループ
執行役員 パートナー
岡本 准
KPMG FAS
ディールアドバイザリー
執行役員 パートナー
岩崎 拓弥
KPMGイグニション東京 Flowerにて

CVC活用で克服するイノベーションのジレンマ

近年、デジタル化の進展と技術コストの劇的な低下を背景に、破壊的テクノロジーを駆使するスタートアップ企業が台頭している。リーマン・ショックを経た2014年を境に、ユニコーン企業(企業評価額10億ドル超の未上場スタートアップ)も急増しており、シリコンバレーや上海、シンガポールなどとともに、バンガロール(インド)、テルアビブ(イスラエル)などが新たな勃興地として脚光を浴びている。

「近年の傾向として、単に収益目的でビジネスを展開するのではなく、社会課題の解決を目指して起業するスタートアップが増えています。シェアリングエコノミーによる資源の共有や、未解決の医療ニーズに向けた研究開発など、様々な分野で新技術を駆使して社会課題の解決に取り組む事例が増えています」と岡本准氏。

付加価値の源泉が変化してきたこともスタートアップ台頭の一因だと岩崎拓弥氏は指摘する。「モノ売りからコト売りへといわれる近年、消費者のニーズにあわせてビジネスにおける付加価値の源泉が変わってきています。テクノロジーの発展によりスタートアップでもスピーディかつ低コストな応答ができるようになり、ピンポイントで革新的な価値の提供が可能になりました。このような事情も、ユニコーン企業の増加を下支えしていると考えられます」。

こうした中で、自社のイノベーションを加速させる手段として、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)に注目する企業が増えている。CVCとは、大企業が本業とのシナジー効果を得るため、スタートアップ企業に出資して成長を支援する戦略的な投資手法のこと。従来、大企業は、自社の既存ビジネスを破壊しかねないという懸念から、新興ビジネスへの参入が遅れがちであった。かつてアップルの台頭によって日本の携帯電話業界や音楽のダウンロードビジネスが後塵を拝したが、こうした “イノベーションのジレンマ”も、「CVCという仕組みを使えば克服できる可能性がある」と岡本氏は言う。

本業と競合する技術を有するスタートアップ企業に投資することはR&D部門とのコンフリクトもあり、容易ではない。しかし、CVCを活用すれば、本体とは独立した投資であるため、こうした競合の可能性のあるスタートアップへの投資も可能となる。CVCではこうした事例は珍しいことではない。しかしながら、CVCにはスタートアップ投資ならではの難しさがあり、従来とは全く異なる視点で臨まなければならない。

イノベーションのための投資手法は、事業類型(既存/新規)と時間軸から整理できる。R&Dが自社の既存事業を中長期的に成長させていくのに対して、CVCやM&Aはイノベーションの可能性を自社外にまで広げる。

ではCVCとM&Aの違いとは何か。それはM&Aが価値の顕在化した既存事業をターゲットに短期間で投資を回収していくのに対して、CVCは価値が顕在化していないスタートアップを“青田刈り”し、長期スパンで投資を行う点にある。いわば有望なスタートアップのポテンシャルに投資することで、自社にとっては破壊的ともいえる事業領域への参入を図るわけだが、スタートアップ投資の成功率は1割程度しかないといわれている。このため、地域や事業領域、成長ステージが異なる投資先を組み合わせ、いかに有効なポートフォリオを組めるかが最大のポイントとなる。

「仮に出資金額を100億円とした場合、その100億円を1社に投資するのがM&Aだとすれば、100社に対して1億円ずつ投資し、トータルでのリターンを狙うのがCVC。『CVCとはポートフォリオ投資である』ことを理解し、『CVCにおけるリスクとは投資先の倒産ではなく、大化けするスタートアップを見逃すこと』だと、マインドセットを転換することが重要です」(岡本氏)

自社にある眠れる知財の「ベンチャー化」も焦点に

こうした世界市場の動きを睨み、近年、日本企業の間でもCVCファンドを設立する動きが相次いでいる。そこでKPMGではCVCの導入支援に注力しており、豊富な実績とグローバルネットワークを背景に、戦略策定から設立まで一貫したサポートを行っている。

「CVC設立にあたっては、①投資戦略の策定、②投資ガバナンス基盤の設計、③ソーシングエコシステムの構築を検討する必要があります。KPMGでは、①では投資領域やポートフォリオ、投資スキームの設計、②では、スタートアップ投資の可否を判断する投資判断基準や投資ルールの策定を支援しています。さらに、キャピタリストへの権限付与や人事・報酬制度の検討、技術の目利きをする人材の確保など、CVCを推進するための基盤整備のサポートも可能です。さらに③では、投資対象を確実に選定・交渉するためのパートナー選びなど、投資エコシステムの構築をサポートします」(岡本氏)

さらに同社は、「イントレプレナー」や「カーブアウトJV」といわれる新たな投資領域へのサービス提供を広げつつある。これは、大企業が事業部門の一部をベンチャー企業として独立させ、外部から出資者を募って事業を成長させていく手法。日本企業の内部には、自社では使われなくなったノンコア技術の特許が大量に眠っている。いわば“宝の持ち腐れ”の状態にある日本企業の知的財産をグローバル市場に開放すれば、オープンイノベーションを加速させ、新ビジネス創出の起爆剤とすることも不可能ではない。今後はこの領域の支援にも力を注いでいきたいと2人は熱い思いを語る。

「今、スタートアップの世界では、業界の枠を超えてネットワーク化が進んでいます。イノベーションは異質なものの組み合わせから生まれますが、そこで一番重要なのは、やはり人です。KPMGが、熱い気持ちを持つ人たちをつなぐ触媒となり、日本企業がイノベーションを実現するお手伝いをしていきたいと思っています」(岩崎氏)

イノベーション投資手法におけるCVCの位置づけ 既存:M&A R&D。新規:イントレプレナー カーブアウトJV CVC