変化する時代「信頼」を軸に挑む新領域

KPMGジャパン CEO
あずさ監査法人 理事長
髙波 博之 氏
KPMGジャパン CEO
あずさ監査法人 理事長
髙波 博之 氏

KPMGのメンバーファームとして、企業や官公庁などに、監査および財務関連アドバイザリーサービスなどを提供するあずさ監査法人が設立50周年を迎えた。時を同じく、新たに理事長に就任した髙波博之氏に、次の50年を見据えた同法人の取り組みについて聞いた。

「50周年という節目、そして、令和という新しい時代の始まりに理事長という重責を任されたことは、大変光栄であると同時に身の引き締まる思いです」。KPMGジャパンのCEOであり、2019年7月1日付であずさ監査法人の新理事長に就任した髙波博之氏は、率直に感想を語る。

同法人は、全国主要都市に約6200名の人員を擁し、監査や各種証明業務をはじめ、株式上場支援、財務関連アドバイザリーサービスなどを提供するプロフェッショナルファームである。

東証1部上場企業の約4分の1に監査業務を提供しており、時代の変化とともに複雑化し続ける監査・保証のニーズに、プロフェッショナルならではの厳格な倫理観と組織的なアプローチによって応えてきた。

「50年の歴史を振り返ると、会計監査に期待される役割は時代とともに大きく変わってきました。わたしがこの世界に入った35年前は、財務諸表の適正性に対する意見表明が監査の主な仕事でしたが、情報システムの導入によって大量のデータが自動処理されるようになると、設計ミスによって財務諸表が現実の数字と大きくかけ離れてしまうリスクが顕在化し、内部統制への監査が求められるようになりました。また、かつては会計不正は監査の直接の目的ではありませんでしたが、不適切会計問題が相次いだことなどもあり、今では重要な不正の摘出が監査法人に求められる役割の一つになっています」と髙波理事長は語る。

デジタルテクノロジーの活用を重点的に推進

こうしたニーズの変化は、監査法人に求められる専門性のあり方にも影響を及ぼしている。

「例えば、改ざんが不可能とされるブロックチェーン技術を応用した帳簿作成が普及しつつありますが、そうしたテクノロジーが進歩すればするほど、『本当に改ざんはないのか』を確認し、保証する技術が必要となります。会計だけでなく、テクノロジーにも対応できる知識や専門性が求められているのです」

ブロックチェーンやAI、IoTといった新たなテクノロジーは、既存のビジネスや社会を根底から変えていく。

「AIの進化とともに、やがて公認会計士の仕事はなくなると騒がれたこともありますが、そうは思いません。どんなに時代が変わっても、信頼性の高い監査・保証によって資本市場を支えるというわたしたち監査法人の存在意義は揺るがないからです。ただし、その役割を担い続けるためには、わたしたちも変わっていかなければならない。そのため、当法人はテクノロジーの活用に積極的に取り組んでいきます」

具体的な取り組みの一つが、Digital Innovation部の新設だ。これは、社会のデジタルニーズに対応する監査を実現するため、AIを活用した監査、監査手続きの高度化・効率化などを推進する部署である。

同部は、デジタルへの対応力を強化するため、法人内のプロフェッショナル全員に対してデジタルリテラシーの研修を行うとともに、毎年1000名超を対象としてデータ分析やデータベース等に関する集中プログラムを実施し、現場における監査業務のデジタル化を推進していく。また、データサイエンティストやIT監査スキルを持つ人材など、多様な人材の採用をさらに推し進めていく方針である。

Digital Innovation部は、主に既存クライアント向けのサービスを高度化するための部署だが、同法人は先進的なテクノロジーを応用して、これまでにない監査の手法や、新たな分野に向けたサービスを創出することにも挑んでいる。その役割を担うのは、KPMGジャパンのデジタル変革やイノベーション創発の拠点として立ち上げられ、2019年7月、新たに株式会社として法人化したKPMG Ignition Tokyoだ。

デジタルやAI領域における技術経営の経験が豊富なCEOを筆頭に、各デジタル領域の専門家が国内外から集結。最新デジタル技術と、同法人が50年にわたり培ってきた監査・保証の専門的知見を融合させ、国内外のKPMGメンバーファームと連携しながら共通基盤とソリューションを創発していく。

監査法人が有する社会からの信頼を土台としたインキュベーション

そしてもう一つ、あずさ監査法人が今後注力していくのが、革新的な技術やアイデアを持つ起業家のインキュベーション(育成支援)である。

オープンイノベーションへの理解の深まりとともに、事業会社が有望な起業家を育成する取り組みが増えている。監査法人として「保証」できる力を、次世代を担う起業家に与え、社会に貢献していく。

髙波理事長はその狙いについて、「近年若い優秀な人材が既存の優良企業等への就職の道を選ばず起業に向かっているという現実があり、この流れは今後の企業社会の構造に大きな変革をもたらすことが考えられます。ベンチャー企業の技術の革新や発展のために、監査法人が有する社会からの信頼性を土台にし、経営面や管理面を支援することでベンチャー企業が信頼を得て、結果として素晴らしい技術が還元されていくという形で社会に貢献する。こういったインキュベーションにも注力していきたいと考えています」と説明する。

最後に、あずさ監査法人の強みとして「日本企業のグローバル化支援を通じて培われた経験と人材」を挙げる。KPMGネットワーク内での影響力が大きく、現地法人の監査を強力に統制できる。これは、日本企業にとって明確な利点と言える。「今後、グローバル対応力をさらに強化し、クライアントや社会から信頼され、選ばれる存在になることを目指しています。これからも不断の努力を続けてまいります」。