ケーススタディー 今治造船株式会社
写真:今治造船の風景と代表取締役社長の檜垣幸人氏

世界トップの造船所を目指して今後数十年を支える業務基盤を確立

船舶の建造量で国内トップ、世界でも8%近いシェアを握る今治造船。積極的なM&Aや建造能力の拡充によって日本を代表する造船グループとなった。激しさを増す中国、韓国企業との受注獲得競争に勝ち抜き、「世界トップクラスの造船所」となることを目指す同社は、今後数十年の成長を支えるために、業務・システム刷新プログラムに取り組んだ。

標準化でグループ総合力を強化 世界トップクラスへの足掛かりに

写真:檜垣 幸人 氏
今治造船株式会社
代表取締役社長
檜垣 幸人

間もなく創業120周年を迎える今治造船。古くから海上輸送の要であった瀬戸内海の来島海峡に面する愛媛県今治市で1901年に創業し、地元の船主向けに漁業用や輸送用の木造船を建造する事業から、同社の歴史は始まった。

1956年には、第1号となる鋼船を建造。貿易によって経済復興を目指す日本のため、ばら積み運搬船やコンテナ運搬船、タンカーなど、様々な船種を手掛けた。これまでに建造した船舶は約2600隻。その多くが今も世界の海で活躍している。

「船舶の需要は、時代とともに大きく様変わりします。オイルショックが起きた1970年代には、タンカーの受注が激減して多くの造船会社が経営危機に陥りました。そうした中、当社は日本から米国への自動車輸出が急増していたことに着目し、当時としては最新鋭の自動車運搬船を積極的に手掛けることで危機を乗り越えたのです。変化に迅速かつ柔軟に対応しながら、新しい領域をどんどん切り拓いてきたことが、今治造船の強さであり、成長の原動力であると自負しています」

そう語るのは、代表取締役社長の檜垣幸人氏である。

近年は、一度に大量の貨物を運んで燃費を抑えたいという船会社のニーズに対応して、超大型船の建造に注力している。2017年に第1号が完工した世界最大級の2万個積みコンテナ運搬船は、日本船舶海洋工学会から「シップ・オブ・ザ・イヤー2017」を受賞した。

「大型化が求められる一方、地政学リスクの高まりや、海洋汚染問題の深刻化などから、安全で強く、環境への負荷が少ない船へのニーズが強まっています。当社が培ってきた高度な造船技術が、今後ますます生きてくるはずです」と檜垣社長は自信を示す。

だが、船価の安さで受注を伸ばす中国、韓国企業との競争は激しい。より多くの受注を勝ち取るため、今治造船は積極的なM&Aや建造能力の拡充など、規模の拡大を図ってきた。現在、今治造船4工場とグループ会社6工場の計10工場で年間100隻前後を建造しており、建造量の国内シェアは約31%と1位。世界でも約7.8%を占める(2018年、IHSフェアプレイ調べ)。さらに、「中国、韓国勢に負けないコスト競争力をつけるため、AI(人工知能)やドローンなどの最新テクノロジーを積極的に応用して造船現場の生産性を高めることにも挑んでいます」と檜垣社長は語る。

目指すは「世界トップクラスの造船所」である。その実現への足掛かりとして、今治造船は2014年、KPMGコンサルティングの支援のもと、業務の標準化によってグループとしての総合力を高め、今後数十年の成長を支える業務基盤づくりに着手した。

業務・システム刷新に着手 組織的な業務遂行の仕組みを実現する

写真:檜垣 清志 氏
今治造船株式会社
専務取締役
営業本部長 兼 経営企画副本部長
檜垣 清志

近年では、2018年4月に大分県の南日本造船をグループに迎え入れるなど、今治造船は積極的なM&Aによって業容を拡大してきた。それぞれのグループ会社には、高度な建造技術を要するLNG運搬船や特殊貨物船など、得意とする船がある。そのため同社は、グループ会社の拡充によって、あらゆる規模や船種の建造に対応できる体制を整えてきた。

グループ会社が増えれば、資材の集中購買によってコスト競争力を高めることもできる。このように、グループ化の推進は今治造船の成長性と収益性を高める大きな力となった。

しかし、「グループに迎え入れた会社には、それぞれが長年培ってきた文化や価値観、業務の進め方、コミュニケーションのための言語などで違いがあります。それらを共通のものに置き換え、グループとしてのシナジーを本格的に発揮できるようにしなければ、変化の激しい造船需要に対応しながら、柔軟な事業戦略によって今後も成長し続けることは困難なのではないかと考えたのです」と、檜垣社長は語る。

そこで今治造船は2014年、グループ全体の業務を一体化するための施策づくりをKPMGコンサルティングに依頼。そのアドバイスの下、「業務・システム刷新プログラム」を発足して、組織的な業務遂行の仕組みを構築することにした。

KPMGコンサルティングとしても、2014年の設立後初の大規模プロジェクト。檜垣社長をはじめとするマネジメントに丹念なインタビューを重ね、グループとしての総合力を発揮する上で課題となっている点を洗い出した。抽出された課題の一つが、グループ会社ごとにシステムに登録されているコード・マスタの不統一である。同じ調達資材でも、会社ごとに登録されたコード・マスタの名称や計上ルールが異なれば、グループ全体としての原価管理は困難だ。これでは、グループ全体の状況を俯瞰しながら最適な経営判断を下すことはできない。

コード・マスタの統一は、グループ会社によって異なる“言語”を共通化するだけでなく、グループ全体における資金・資源配分や経営管理の最適化を促すきっかけとなった。また、造船や管理の現場においては、部門ごと、グループ会社ごとの業務のやり方が不統一で、属人化も著しいことが明らかになった。

「造船の現場では、10年、20年と経験を踏まなければ一人前と見なされない風潮があり、専門性の高い仕事ほど、他の人は手を出しにくくなってしまいます。これが属人化を促す大きな要因となっていたのです。しかし、少子・高齢化とともに人材獲得が困難となり、外国人材の登用が進む中で、そうした状況をいつまでも放置しておくわけにはいきません。そこで、まずは業務を簡素化、標準化した上で、システムを活用することで、誰もが、高度な業務を効率よく遂行できる仕組みを作り上げました」(檜垣社長)

今治造船の「業務・システム刷新プログラム」は、全員参加型で行われた。同社専務取締役で経営企画副本部長としてプログラムをリードした檜垣清志氏は、「社員一人ひとりが“自分事”として刷新に関わることで、発言や行動が今まで以上に積極的になるなど、社員の実力が上がったことを実感します。KPMGコンサルティングが社員に熱心に働き掛けてくれたおかげですが、お金に代えられない財産になりました」と語る。

本気のコミットメントが成長のための基盤づくりを早める

写真:宮原 正弘 氏
KPMGコンサルティング株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
宮原 正弘

今治造船による「業務・システム刷新プログラム」は、キックオフから5年後の2019年に完了した。この間、本社およびグループ会社の各部門における業務の効率化・共通化、資材調達、生産管理、経理会計、原価管理に至る業務全体の一貫管理、グループ最適供給体制の確立などを実現し、これらを支え、ビジネス環境や構造変化に柔軟に対応できるシステム基盤も構築された。

KPMGコンサルティング代表取締役社長 兼 CEOの宮原正弘氏は、「近年、様々な企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組まれていますが、データを集めるだけでも一苦労されています。この点からも、グループ全体でデータを一貫管理できる基盤を構築されたことで、他の企業より一歩進んだ段階にあると言えるでしょう」と語る。

また、グループ全体の業務基盤の大掛かりな刷新にも関わらず、5年で完了できたのは、檜垣社長をはじめとするマネジメントの意思決定の速さによるところが大きいようだ。宮原氏は「プログラムオーナーである檜垣社長の下、役員クラスの方々と2カ月に1度の頻度で時には数時間に及ぶ討議会を開催し、全社最適の視点から事業部門をまたぐ重要な課題をその場で解決していただき、『必ず刷新を果たす』というマネジメントの方々の強い思いを感じました。このような討議会や日々の検討会を通して当社メンバーも大変刺激を受け、成長を後押ししていただきました」と語る。

KPMGコンサルティングの担当者は、今治造船グループ全体に刷新プログラムの目的を共有してもらい、現場の課題を抽出するため、瀬戸内海沿岸に点在する各工場やグループ会社に何度も足を運んだという。そうした労力を惜しまないコンサルティング活動も、刷新プログラムの進捗を早めたのであろう。

この刷新プログラムによって、業務によっては生産性が30%も向上するという成果も上がっているという。今治造船が目指す「世界トップクラスの造船所」の実現に向けた業務基盤は整ったと言える。