デジタル技術を駆使して
監査を革新する

あずさ監査法人は、AIや統計、ロボティクスなどの先端テクノロジーの活用によって、監査の高度化・効率化を推進するDigital Innovation部を新設した。今後どのように次世代の監査に向けたイノベーションを展開していくのか、部長に就任した丸田健太郎氏に詳しく聞いた。

あずさ監査法人 Digital Innovation部長/パートナー 公認会計士 丸田 健太郎 氏
あずさ監査法人
Digital Innovation部長/パートナー
丸田 健太郎

3つのCでリスクを可視化し、インサイトを提供

テクノロジーの進化や、国内外での不正会計問題を機に、監査法人に求められる役割は大きく変わりつつある。

「これまでの会計監査は、人手によるものであったことから、取引全体の中から会計データの一部を抽出し、サンプリングによって母集団を推定するというアプローチが一般的でした。しかし近年、不正会計問題が相次いだこともあり、不正の頻発をいかに防いでいくかという問題に対する意識が社会的に広まっています。膨大な会計データから重大な不正を発見するプロセスにおいて、最先端のデジタルテクノロジーを活用した会計監査の手法が今後重要な役割を担うことになります」(丸田氏)

こうした期待に応えるため、あずさ監査法人では、以前よりデータ分析を活用した次世代の監査技術の研究開発を積極的に進めてきた。それをさらに監査の現場レベルまで展開し、深化させていくために、2019年7月にDigital Innovation部を新設。会計士に加え、データサイエンティストやAIのエキスパートなどを結集し、最先端のデジタルテクノロジーを活用した新たな会計監査の実用化に向けて、大きな一歩を踏み出した。

同法人が監査の未来のキーワードとして打ち出したのは「3つのC」だ。これは、①Comprehensive Audit(網羅的監査)、②Centralized Audit(一元的監査)、③Continuous Audit(リアルタイム監査)から成り、テクノロジーの活用で実現するデジタル監査として「3C Audit」と定義している。

①網羅的監査とは、従来のようなサンプリングではなく、全取引データを監査の対象とする手法。②一元的監査とは、これまでグループレベルの監査では主要子会社のみを抽出して、その監査結果を本社で集約してきたのを、本社が全子会社の監査を一括して行う手法である。③リアルタイム監査とは、期末などのタイミングに限って監査を行うのではなく、監査人が常時データをチェックし問題が発生していないか、適時に監査を行う手法。「この3C Auditによってお客様の財務状況を可視化し、不正検知や重大リスク領域の特定、業務改善につながる情報提供などが実現可能です。デジタル監査を通じてインサイトを提供し、監査先の企業にとってより付加価値のある監査を目指していきます」と丸田氏は語る。

あずさ監査法人のAI監査:3C Audit × インサイト。網羅的監査、一元的監査、リアルタイム監査、経営者目線→注力すべき3つの領域、Data、Technology、Capability

監査人とクライアントが、分析結果や課題を共有

同法人では数年後をめどに、3C Auditの本格的な実装を目指しており、すでに一部では運用を始めている。その一つが「子会社リスクスコアリング」と呼ばれる高度な子会社分析である。

例えば、数百の子会社を持つグローバル企業の間では、監査の目が届かない小規模の海外子会社やノンコアビジネスで会計不正が見つかるケースが多発している。そこで、同法人ではクライアントと協力することで、「売上が毎年乱高下している」「在庫の滞留期間が異常に長い」など複数のリスクシナリオを策定。全子会社のリスクを統計的にスコア化して異常値を可視化し、不正の可能性がある危険領域を特定する仕組みを構築した。

もう一つは、一橋大学との共同研究から生まれた「不正検知モデル」だ。これは、公開企業の財務諸表データを基に、過去の不正事例などを機械学習したモデルで不正を検知し、リスクの所在を明らかにしようというもの。「売上の過大計上」「費用の過少計上」「資産の過大計上」の3つの観点から不正リスクをスコア化し、過去の不正事例に類似したケースを抽出する。

とはいえ、単にハイリスクな企業や領域の特定だけでは、不正会計を防げない。そこで、同法人ではプロセスマイニングのツールを活用し、リスクを特定した領域の業務プロセスを可視化。不正会計の温床となる例外処理や異常な取引の存在を明らかにし、不正防止と業務効率化をサポートする取り組みも行っている。なお、③リアルタイム監査についても、グローバルで開発されたERP『KAAP』をベースに、国内でパイロットを展開中だ。

このように、同法人では様々な角度から、デジタル監査(3C Audit)への取り組みが進められている。その基盤となるのが次世代監査プラットフォーム『KPMG Clara』だ。

特長は、メソドロジー、分析、コミュニケーションの3つ。「最も重要なのは、監査先企業と協働してより高い品質の監査を実現できるとともに、付加価値の高いインサイトを提供できる点です。Claraを活用すれば、監査人と監査先の企業が分析結果や課題を共有し、不正検知や業務改善に役立てることができます。また、内部監査部門で分析結果を活用して、財務報告に役立てることも可能です。ただし、そのメリットを享受するには、監査先企業のご協力が必要不可欠。その意義をご理解いただき、データの共有に協力してもらえるように努めています」(丸田氏)。

現在、ClaraはKPMGがグローバルベースで開発を進めており、同法人も大きな役割を果たしている。丸田氏は、分析手法の日本向けローカライズも進めながら、次世代の監査をリードしていきたい、と抱負を語る。

「私たちがデジタル監査で目指すのは、経営者目線のインサイトの提供です。近年、不正検知のみならず、経営リスクの可視化が重視されつつありますが、テクノロジーを最大限に活用したデータ分析で、クライアントの皆様の経営に貢献していきたいです。またその上でも重要なのが、人(会計士)とテクノロジーは共存関係にあるという認識です。 不正や不祥事の内容は時代とともに変化します。各状況に応じた高度な判断、そして企業の方々との信頼関係を築く役割を担うのが、私たち会計士です。これを踏まえながら、今後もスキルを磨いていきたいと思います」