昨年、6年ぶりにトップが交代した九州電力が、今年6月に「九電グループ経営ビジョン2030」を発表した。電力とガスの小売全面自由化、送配電部門の分社化という変革期にあって“九州から未来を創る”というメッセージを発信した狙い、グループ経営ビジョンの重要ポイント、目標達成のための戦略などについて、池辺和弘社長に話を聞いた。

昨年、6年ぶりにトップが交代した九州電力が、今年6月に「九電グループ経営ビジョン2030」を発表した。電力とガスの小売全面自由化、送配電部門の分社化という変革期にあって“九州から未来を創る”というメッセージを発信した狙い、グループ経営ビジョンの重要ポイント、目標達成のための戦略などについて、池辺和弘社長に話を聞いた。

九州電力株式会社
代表取締役社長執行役員

池辺 和弘 Ikebe Kazuhiro

1958年生まれ。大分県出身。東京大学法学部卒業。
1981年に九州電力に入社後、ワシントン大学留学、
経営企画部門などを経て、昨年6月、同社の社長に就任。
地域に密着した「顔の見える経営」を重視して市場開拓の先頭に立つ。

地域とともに発展する
未来に向けた経営ビジョン

ー今年6月に経営ビジョンを発表されました。なぜこの時期に経営ビジョンをとりまとめたのでしょうか。

 2016年4月の電力小売全面自由化など、当社を取り巻く環境は大きく変化しています。一方、原子力発電所の再稼働対応などで、ここ4年間ほどは厳しい経営状況が続いていて、守りの経営に徹するしかありませんでした。しかし、原子力発電所が4基稼働したことに加え、競争力のある最新鋭の火力発電所がこの12月に営業運転を開始することなどから、攻めの姿勢に転ずることができます。そこで改めてグループ全員で向かっていくべき旗を立てることにしました。

 社長就任前から、私たちの強みは九州各地の地場企業として、九州一円に多くの事業拠点を持っていることと認識していました。正に九州に育ててもらった企業であり、地域の皆さまから信頼していただいています。

 社長就任後、地域の首長の方々とお会いする機会をいただきましたが、首長の方々は、少子高齢化と人口減少という問題に強い危機感をお持ちで、活性化の方策を真剣に検討していらっしゃいます。直接お話しする中で、地域に根差す企業として当社が果たす役割への期待が大きいことを強く感じました。そのような期待に対して、できることは何でもやり、地域とともに発展していきたい、と改めて強く思ったのです。そこで“九州から未来を創る”というメッセージを最初に据えて経営ビジョンをまとめました。企業としての原点回帰です。

経営ビジョンでは「エネルギーサービス事業の進化」と「持続可能なコミュニティの共創」が戦略の大きな2本柱

ー九電グループとして初めての経営ビジョンとのことですが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

 もちろんこれまでも、グループ経営という考え方は持っていました。ただ、来年4月には送配電部門の分社化を予定しており、九州電力本体は引き続き発電事業と小売事業を行いますが、送配電事業は九州電力送配電株式会社が行います。

 今回のグループ経営ビジョンは、分社化後もグループ経営をさらに強化していこうという意思を込め、策定しました。

経営ビジョンでは「エネルギーサービス事業の進化」と「持続可能なコミュニティの共創」が戦略の大きな2本柱

 ビジョンの実現に向けた全体の戦略としては、従来から取り組んでいる「エネルギーサービス事業の進化」と、今後強化したいと考えている「持続可能なコミュニティの共創」という2本柱を立てました。

電力の安定供給を通じた
地域活性化と低炭素社会を実現

ーエネルギーとしての電気は、地域の発展にも欠かせない存在ですね。

 安い電気を安定してお届けすることで、九州への企業誘致に貢献できると考えています。企業、人が増えれば、地域の活性化にもつながりますので、責任あるエネルギー事業者として、質の高いエネルギーを安く安定してお届けし、地域の発展に正面から取り組んでいきたいと考えています。

 エネルギーには地域だけでなく、地球規模の課題もあります。その最大の課題は地球温暖化で、私たちにとって避けては通れない問題です。今は気温の上昇ペースが遅くても、今後大きく上昇してしまう危険性があります。それをいかにして防止していくかは、今突きつけられている大きな問題です。

 その解決策として、私たちができることは、発電に伴い排出されるCO2を削減していくこと、そしてそのCO2が少ない電気をエネルギーとして使っていただく「電化」を進めることです。再生可能エネルギーや原子力など、発電時にCO2を出さない電源の比率を高めていくことはもちろん、住宅、自動車、産業などの用途でも電化をもっと進めることで、地球温暖化の防止に貢献したいと強く思っています。

ー電力供給のポイントはどこにあるとお考えですか。

 エネルギー政策を考える上で、S+3E、つまり安全性(Safety)を大前提に、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economical efficiency)、環境適合(Environment)の観点から、それぞれの電源の特徴を踏まえて、バランスよく組み合わせるエネルギーミックスが必要です。

 例えば、CO2の排出量が多く、風当たりが強い石炭火力ですが、燃料価格が安価で安定しており、安定的に調達できるという良い面もあります。経済性の確保は持続可能なエネルギー政策のためのキーワードの1つです。当社は、CO2の排出量を可能な限り低減できるよう、タービンやボイラーを改良して、石炭火力の発電効率を上げる努力をしています。

 太陽光発電や風力発電は発電時にCO2を排出しませんが、出力が不安定な電源です。電力は、需要と供給のバランスを常にとる必要がありますので、出力が不安定な電源も含めていかにコントロールするかが重要です。もし、バランスが崩れると、連鎖的に発電機が止まり、大規模停電を引き起こします。電力供給が不安定だと、企業の生産活動、お客さまの生活などに多大な影響があります。

 そのためにも、再生可能エネルギー、原子力、火力などをバランスよく組み合わせ、CO2排出量の少ない電気を安定してお届けすることが、私たちの責務だと考えています。

九州のCO2削減必要量の70%の削減に貢献することを経営目標として掲げている
(注)日本の中期目標は、2030年に2013年比で▲26%→この目標を九州に置き換えると、2013年の九州のCO2排出量は1億4,600万tであるため、九州のCO2削減必要量はその26%にあたる約3,800万t

地域の課題解決のために
なんでもやるというスタンス

ーもう一つの柱である「持続可能なコミュニティの共創」については、どのように取り組まれるのでしょうか。

 九州は人口減少、少子高齢化、経済の一極集中などの課題に直面しています。その九州を事業基盤とする私たちは、地域の課題解決になるのであれば、なんでもやるというスタンスです。当社の本店は福岡にありますが、九州各地に事業所や発電所などがあります。私たちは「九州各県の地場企業」として、地域の課題解決に貢献できることに、積極的に取り組んでいきます。

 特にグループとしての強みを活かすことができるのは「ICTサービス」「都市開発・まちづくり」「インフラサービス」です。「ICTサービス」では、ドローンを活用した空撮や撮影データの加工のサービスなどをすでに提供しています。「都市開発・まちづくり」としては、先行する取組みとして、他企業とコンソーシアムを組み福岡市の青果市場跡地の再開発を手掛けていますし、不動産事業も強化しています。また、「インフラサービス」においては、福岡空港と熊本空港の運営事業者に選定されました。

他企業とコンソーシアムを組み、福岡空港の運営にも携わっている。
今年4月1日に行われた民間運営開始記念式典には、池辺社長も出席(左から2番目)

ー他社とのアライアンスも積極的に進めていくのでしょうか。

 地域の発展につながるのであれば私たちにタブーはありません。事業のスピードを上げるため、アライアンスも必要だと思います。青果市場跡地の再開発では、不動産事業者などと組んでいますし、LNG供給事業では、都市ガス事業者と組んでいます。今後は、ベンチャー企業などとのアライアンスも積極的に進めていくつもりです。

 これまで育ててくれた九州という地域の発展のために、共に汗をかいていきたいと考えています。

電力を武器に企業を誘致し
地域の活性化に貢献したい

ー経営目標として、2030年に経常利益を現在の倍の1,500億円にするとのことですが。

 一つの旗を立てて皆で取り組むには、経常利益を目標として示すのが分かりやすいと思いました。これまでメインだった国内電気事業を半分くらいの割合にしていきたいと考えています。新しいことに取り組んでいくんだということを社内に再認識してもらうという意図もあります。

 この達成のためには、トップレベルの電気料金を永続的に追求する必要があります。電気を安くお届けすることで、様々な企業が九州に進出してくれば、販売電力量の増加につながるだけでなく、コミュニティの共創という側面でも貢献できます。

ー全国のビジネスリーダーにお伝えしたいことはありますか。

 九州は土地も広く、人材も豊富、そして水も自然も豊かで、素晴らしいところです。私たちが安く安定した電気をお届けし、ビジネスの環境を整えますので、様々な企業の方に九州に来ていただき、一緒にビジネスをしたいと思っています。

 また、九州は、スタートアップの方たちにとってもメリットある環境だと思います。安価で入居できるインキュベーション施設もありますし、当社もオープンイノベーションを推進するなど、全力で応援します。今はどこでも仕事ができる時代です。九州なら、のびのびとクリエイティブな仕事ができると思います。

 世界遺産もありますし、美味しい食材、料理もたくさんあります。まずは観光でも下見でも良いですから、是非一度九州にお越しください。