いまや日本中の企業が取り組むようになった働き方改革。しかし、期待ほどの成果が上がらないと嘆く企業が多いのが現実だ。集中力を高める空間の開発・運営を行っているジンズの井上一鷹氏は「チームで取り組む『コ・ワーク』の生産性を高めるには、その準備段階の『ソロ・ワーク』の質を上げることが大切です」と指摘する。働き方改革を成功に導くための鍵は、ソロ・ワークの集中力が握るのか!? 古くから働き方改革に取り組んでいるマイクロソフトとジンズのキーパーソンに話を聞いた。

「従業員エンゲージメント」の向上が
働き方改革を成功に導く

2019年4月に「働き方改革関連法」が施行されたことによって、日本中の企業がワークスタイルの変革に乗り出している。労働時間を短縮するとともに、生産性を向上させることが大きな狙いだ。

日本マイクロソフト株式会社
Surface ビジネス本部
プロダクトマーケティングマネジャー
永井 健多 氏

労働生産性を向上させることは、日本企業にとって喫緊の課題だ。先進国クラブとも呼ばれているOECD(経済協力開発機構)の加盟国35カ国の中で、日本における「1時間当たりの労働生産性」は20位と下位に低迷。先進7カ国の中では最下位だ。「長時間労働の割合」も、7カ国中で首位に位置している。日本マイクロソフトの永井健多氏は、現在の日本企業の状況を次のように説明する。

「日本企業の経営者の多くが、働き方改革の狙いとして、労働生産性を高めることに加えて、優秀な人材を維持・確保することを掲げています。しかし、大半の企業で期待ほどの成果が表れていないのが現実です」

同氏は「こうした課題を解決するためには、従業員のエンゲージメントを高めることが重要です」と指摘する。「従業員エンゲージメント」とは、企業に対する従業員の関わり方のことで、エンゲージメントの高い従業員は、仕事に対してより深い関心を持つとともに自らの意思で積極的に関与し、付加価値を向上すべく主体的に行動する。永井氏によると、従業員エンゲージメントが上位の集団の業績評価指標(※)は高い傾向にあるという。※収益性、生産性、顧客満足度、などの企業の状態を表す指標を指す

「カルチャー・テクノロジー・スペース」の最適な組み合わせ

マイクロソフトでは、従業員エンゲージメントを高めて働き方改革を加速するために2019年4月から「ワーク・ライフ・チョイス」というプロジェクトを展開している。ワーク・ライフ・チョイスとは、仕事(ワーク)や生活(ライフ)の事情・状況に応じて、多様で柔軟な働き方が選択(チョイス)できるという意味だ。このプロジェクトでは、全社員が「短い時間で働き、よく休み、よく遊ぶ」ことにチャレンジし、生産性や創造性の向上を目指している。永井氏は自身の経験を踏まえて、「従業員に対して、働く環境の選択権を与えることがエンゲージメントの向上につながります」と指摘する。

同氏の家庭では、夫婦共働きで2歳の子どもを育児中だ。実は、奥様も日本マイクロソフトに勤務しており、夫婦でワーク・ライフ・チョイスの恩恵を受けている。「仕事をしたいときに仕事をして、休みたいときには休んでいますし、子育てで手間がかかる際には夫婦のどちらかが時間をもらって世話をしています」と語る。マイクロソフトに勤務する夫婦ともども、エンゲージメントは高いという。

永井氏は、エンゲージメントを高めるような働き方改革を成功に導く要素として、①時間・場所に縛られない働き方を推奨する「カルチャー」、②いつでもどこでもオフィスと同じように仕事を進めるための「テクノロジー」、③働き方に応じて最大の生産性を発揮できる「スペース」――の3つを掲げる。同氏は「マイクロソフトは古くから、今でいうところの働き方改革に取り組んでいて、大きな成果も出ています。テクノロジーとカルチャーでは大きな強みがあると思っていますし、お客様に製品・サービスや知見を提供できると考えています」と語る。ただし、現時点ではスペースの側面で顧客に提供できる製品・サービスは持っていない。そこで今回、「世界一集中できる環境を目指し、進化し続ける」ワークスペースの研究・開発を行っているThink Labと協業したという。

「ソロ・ワーク」と「コ・ワーク」の双方の
環境整備が大切

アイウエアブランド「JINS」を運営する株式会社ジンズのプロジェクトであるThink Labは、予防医学研究者・石川善樹氏と建築家・藤本壮介氏監修の下で科学的エビデンスとデザインが融合した集中空間を開発している。「Think Lab」と名付けた集中空間の運営を実施している。Think Labは「一人で深く考える時間(Deep Think)」のために最適な環境を研究し、より生産性の高い状態を生み出す働き方を提案している。企業のオフィスのアセスメントを行うとともに、Deep Think空間を設計する「 Think Lab for Business 」というサービスも提供中だ。

株式会社 ジンズ
Think Lab 事業統括リーダー
井上 一鷹 氏

井上一鷹氏は、新卒で戦略系コンサルティングファームに入社した後に、外からの支援ではなく自らイノベーションを起こしたいと考えてジンズに転職し、Think Labプロジェクトを立ち上げた経歴を持つ。同氏は、日本企業が取り組んでいる働き方改革の課題として「ソロ・ワークの環境が整備できていないことです」と指摘する。

どのようなビジネスでも、異なる役割を担う従業員が協業する「コ・ワーク」と、一人で集中して仕事を行う「ソロ・ワーク」の組み合わせで成り立っている。ソロ・ワークとは、例えば会議前に一人で資料を作成するような時間や新しいアイデアを一人で創造する時間のことだ。同氏は、現状の課題を次のように解説する。

「どのようなコ・ワークでも、準備のためのソロ・ワークの時間が必要です。一般的な仕事は、コ・ワークとソロ・ワークの繰り返しです。ですので、ソロ・ワークのクオリティーがコ・ワークの成果に直結するのです。ソロ・ワークは『知を深化』させる作業であり、コ・ワークは『知を探索』する作業だと分離して整備した上で、シームレスに連携させることが重要です」

図1 コ・ワークは「知の探索」、ソロ・ワークは「知の深化」のための作業だと捉える

アイ・ティ・アール (東京・新宿、以下「ITR」)が2019年6月に実施した調査でも、フリーアドレス制のように自由な座席レイアウトを採用する企業・組織では、集中する場がないことが課題だと指摘している。「自席で仕事をするうえでの悩み」を問うた設問に対して、フリーアドレス席で仕事を行っている人は、固定席で仕事を行っている人に比べて、他人の会話や雑音、視線、モノの動きなどの影響を受けやすい傾向があるという結果が示されている。

図2 自席で仕事をするうえでの悩み
(グラフの数値は「大いに感じる=3点」「たまに感じることがある=1点」として加重平均することで算出)

現在は、働き方改革の名の下で多くの企業がコ・ワークの環境を整備しているが、井上氏は「集中力を高めるようなソロ・ワークの環境を整備することが課題として浮上してくるでしょう」と予測する。双方の環境を分離した上で、それぞれを整備していくことが働き方改革の成功に結びつくと強調する。

Think Labの調査・分析によると、人間は深い集中状態に入るのに平均で23分を要している。しかし、現代人は11分に1回は話しかけられるか、すぐに見なければならないメールやチャットを受け取っているという。これでは、1日に一度も集中できるチャンスがなくなってしまう。

それでは、ITRの調査で指摘されていた「集中の場」の課題に向けた解決策とは何か。オフィス内でソロ・ワーク環境を整備する手だてはあるのか――。これらを明らかにするために、日本マイクロソフトとThink Labが共同で実証実験を行った。

ノイズキャンセラー付きのヘッドホンが
ソロ・ワークの集中力を高める

ジンズでは、集中力をはじめとしてココロとカラダの状態をリアルタイムで可視化するツールを開発している。眼鏡型ウエアラブルデバイス「 JINS MEME 」である。6軸センサー(加速度・ジャイロセンサー)と特許取得済みの3点式眼電位センサーを搭載していることが大きな特徴。センサーが取得したデータを、Bluetoothで連携したスマホのアプリ上で分析する仕組みだ。アプリには、まばたきの状況を測定することで集中力を可視化する機能を備えた「 JINS MEME OFFICE 」のほかに、体幹トレーニングを支援する「 同TAIKAN 」、運転中の覚醒度をお知らせしてくれる「 同DRIVE 」などがある。

今回の実証実験(※)は、ノイズキャンセラー機能の付いたヘッドホンを装着すると、オフィス内でも集中力が高まるという仮説を検証するものだ。20~59歳の男女20人を対象として、ヘッドホンを着けた状態と着けていない状態のそれぞれで40分間ずつ小説を読んでもらい、その際の集中力を JINS MEME で測定した。会場には通常のオフィスノイズの音を流すとともに、ヘッドホンではノイズキャンセル機能をオンにした。

ヘッドホンには、マイクロソフトが今年1月に日本で発売した「 Surface Headphones 」を活用。本体外側にあるメカニカルボリュームでノイズキャンセルの効果を調整できることが特徴だ。誰かに話しかけられたときに反応できるようにしたければ、ノイズキャンセルを弱めれば外部の音も聞こえるようになる。

実験では、作業時間における「集中」および「深い集中」の状態にある時間を測定し、被験者の平均値を算出した( JINS MEME は「集中」と「深い集中」の2段階の状態を測定できる)。この結果、ノイズキャンセラー機能付きのヘッドホンには、特に「深い集中」をもたらす効果があることが判明。「集中時間の合計」を約10%高める(長くする)効果があることが明らかとなった。
※日本能率協会総合研究所の調査概要 https://www.jmar.biz/news_and_column/

リラックスしながら集中する環境を創出

井上氏は「集中の時間が10%増えることは、企業全体の生産性を考えると膨大な効果になります」と語る。1日に8時間働くと想定すれば、従業員1人当たり0.8時間(48分)も、集中して仕事をする時間を増やすことになるからだ。同氏は「 Surface Headphones の価格を考慮しても、費用対効果が極めて大きいと考えられますね」と評する。

同氏は、 JINS MEME が測定する「focus」と「calm」という2つの指標にも注目する。focusは、まばたきが減っている状況のことで、没頭(集中)していることを意味する。一方のcalmは、まばたきが安定している状況のことで、リラックスしているという意味だ。focusについては有意な差は認められなかったものの、calmは「ヘッドホンあり」の方が高いスコアとなった。同氏によると、エネルギードリンクを飲んだりすればfocusを引き上げることができるが、calmは簡単には上がらないという。マイクロソフトの永井氏も、「ヘッドホンを着けると、落ち着いて仕事のできる理想的なゾーンに早くたどり着けそうですね」と感想を述べる。

図3 「focus」(集中した状態)と「calm」(リラックスした状態)の測定結果

両社は、この実証実験のほかにも、3つのシナリオに基づいて集中状態の差を計測するための検証を行っている。具体的には、 Think Lab と一般的なオフィス・カフェにおける集中度を測定した。ノイズが多いオフィス・カフェ環境では「ヘッドホンあり/なし」の違いも調査している。結果は、集中力を高める空間である Think Lab が首位(「集中した時間」の合計が94%)。この後にヘッドホンを着けた状態でのオフィス・カフェ環境(同93%)、着けない状態でのオフィス・カフェ(同45~85%)の順に集中度が高いという結果になった。やはり、同一の場所ではノイズキャンセラーが付いた Surface Headphones がソロ・ワークにおける集中力を高めることに大きな効果があることが分かった。

図4 Think Labとオフィス、カフェにおける実証実験結果

コ・ワーク環境に残っている課題を
解決する手だてとは?

働き方改革の名の下で、日本企業が整備を進めているコ・ワークの環境にも課題は残っている。ITRの調査でも、多くの企業がテレワーク環境、なかでもオンライン会議に不満を抱いている実情が浮き彫りになっている。テレワークを実施する際に感じる課題を問うた設問では「オンライン会議環境の品質が低い」という回答がトップに位置している。さらに、オンライン会議の不満を聞いた設問では、①相手の音声が聞き取りにくい、②表情や感情が読みにくい、③ホワイトボードの内容が共有しにくい――という回答がトップ3に位置している。

図5 オンライン会議を行う際に感じる不満
(グラフの数値は「大いに感じる=3 点」「たまに感じることがある=1 点」として加重平均することで算出)

マイクロソフトは、これらの課題を解決するソリューションも提供している。オンライン会議の基盤となるツールが「 Microsoft Teams 」である。 Teams は、いつでもどこでもどのデバイスからでも使えるコミュニケーション&コラボレーション・ツール。音声通話やチャット、オンライン会議など、一対一から多人数までのコミュニケーション機能を単一のサービスで提供していることが大きな特徴。話し相手とオンラインで資料を共有することも可能だ。 Teams と、ほかのソリューションを組み合わせることで、①~③の課題をいずれも解決できる。

①は、実証実験にも使った Surface Headphones で解決が可能だ。外部のノイズに邪魔されずに、相手の声を明瞭に聞き取れるからだ。指向性マイクを通して会話することも可能なので、オンライン会議だけでなくコ・ワークにおける話し手と聞き手の双方に恩恵がある。

②と③の課題を解決するのが「 Surface Hub 2S 」である。 Hub 2S は、社外で働くリモートワーカーと、オフィスや会議室などのワークスペースをつなぐことによって、チームでの協業を支援するコラボレーションデバイス。高性能マイクとカメラを搭載しているので、リモートからの参加者にも会議室の様子をしっかりと伝えることができる。

図6 Surface Hub 2S で Microsoft Whiteboard を使用する井上氏

Hub 2Sは、デジタルホワイトボードである「 Microsoft Whiteboard 」というアプリケーションも搭載している。これを活用すれば、ホワイトボードを会議参加者の手元にあるPCでも共有できる。参加者がペンを使って、同時に手書きで文字や図形を書き込むことも可能になっている。会議の中でホワイトボードに書いた情報は即座にデジタルデータとして共有できる。このため、コ・ワークでの成果をすぐにソロ・ワークで活用できる。手元のPCで作成した情報をホワイトボードに表示することも可能なので、ソロ・ワークとコ・ワークをシームレスに連携させることが可能になる。井上氏は、 Hub 2S の使用感を次のように説明する。

「テレビ会議システムをはじめとする今までの製品とは一線を画する革新性を感じました。レイテンシーが全くないので、デジタルとリアルの世界がシームレスにつながっている感覚です。フェース・ツー・フェースのコミュニケーションと同じように議論できますね」

永井氏は「Think Labさんと協業すれば、カルチャー、テクノロジー、スペースの全ての要素において、お客様に貢献できるようなソリューションを提供していくことが可能になります。コ・ワークとソロ・ワークの双方の環境において、日本企業の働き方改革を加速していきたいと考えています」と展望を語った。

Surface Headphones

マイクロソフトが初めて製品化した本格的ヘッドホン。日本では今年1月から販売を開始している。ノイズキャンセル機能搭載のBluetoothヘッドホンであり、PCはもちろん、スマホやタブレット端末でも利用できる。耳を覆う部分の外側にあるメカニカルボリュームから、音量やノイズキャンセルを調整できることが特徴。

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JINS MEME

「自分を見るアイウエア」をコンセプトにした世界初のセンシング・アイウエア(眼鏡型ウエアラブルデバイス)。6軸センサー(加速度・ジャイロセンサー)と特許取得済みの3点式眼電位センサーを搭載する。JINS MEMEで取得されたデータは、Bluetoothで連携したスマホのオフィシャルアプリケーション上で可視化される。JINS MEMEの装着者は、いつでもココロとカラダの状態をリアルタイムで確認することが可能だ。

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Think Lab

「世界一集中できる環境を目指し、進化し続ける」ワークスペースとして、予防医学研究者・石川善樹氏の監修の下でデザインと科学的エビデンスが融合して生まれた集中空間。「一人で深く考える時間(Deep Think)」のために最適な環境を研究し、より生産性の高い状態を生み出す働き方を提案している。企業のオフィスのアセスメントを行うとともに、Deep Thinkな空間を設計する「Think Lab for Business」というサービスも提供中だ。

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Surface Hub 2S

社外で働くリモートワーカーと、オフィスや会議室などのワークスペースをつなぐことによって、チームでの協業を支援するコラボレーションデバイス。Office 365や、複数人で同時に書き込みができるホワイトボード・アプリ「Microsoft Whiteboard」、Microsoft Teamsのグループチャットなどを自然に使えるように設計されている。ほかのSurface製品と互換性があるため、デバイスの垣根を超えてブレインストーミングやアイデアを議論することが可能だ。

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Surface Laptop 3

2019年10月に発表されたマイクロソフトのクラムシェル型ノートパソコン。スリムでスタイリッシュなのが特徴で、従来モデルの13.5型ディスプレイ搭載モデルに加え、今回15インチがラインアップとして加わった。13.5型モデルが308×223×14.51mm、1,265gまたは1,288g。15型モデルは339.5×244×14.69mm、1,542gです。本体の薄さに加え、スピード、パフォーマンス、バッテリー駆動時間が従来モデルより向上。ハイクラスなノートPCだ。

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Surface Pro 7

2019年10月に発表されたマイクロソフトの 2 in 1 ビジネスラップトップ。775 gと超軽量で薄いにも関わらず、バッテリー駆動時間は最大10.5時間。12.3インチの画面と第 10 世代 インテル® Core™ プロセッサ、さらに Instant ON 機能で快適な作業が可能に。これまでにないほどのパワーと汎用性を実現した。

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