所有から利用へ―。消費者の意識が大きく変化する中、急成長するサブスクリプション(以下、サブスク)型ビジネス。モノを購入することなく、サービスとして利用するサブスクという新たな潮流が世界市場のルールを変えつつある。経営層はサブスク時代にどう向き合い、改革をするべきなのか。変化に柔軟かつ迅速に対応できるアジャイル型経営を実現させるポイントとは?

経済学者の竹中平蔵氏と、社内ITのサブスクDaaS(Device as a Service)に携わる日本マイクロソフトの梅田成二氏が、サブスクを活用して持続成長を図る「モノを買わない時代の企業経営術」に迫る。

デジタル時代はサブスクによって
イノベーションが起きる

なぜ、今サブスク型ビジネスがグローバルで成長しているのでしょうか?

東洋大学教授
慶應義塾大学名誉教授
竹中 平蔵 氏

竹中 所有から利用へという大きな流れが、様々なシーンでかたちになって出てくるようになりました。かつてリゾートホテルの会員権が登場したとき、リゾートマンションを持ちたいと思っていた人に、結果的にかなり普及しました。この現象の本質は何か?高価な資産である不動産で考えてみると、やはりわかりやすい。例えば、ネット通販の普及で店舗を所有する必要がなくなったことから、ニューヨークのマンハッタン東側のビルでは空き店舗が急速に増えています。この次に何が起きるかといえば、その不動産をどうシェアして利用するかということです。所有によって得られるキャピタルゲイン(売買差益)がなくなりつつある以上、価値が変動するモノではなく、利用することに価値を認める時代へとシフトしていくのは必然です。このネット通販の事例からもわかるように、所有から利用への流れは、実はデジタル化と密接に結びついています。

技術革新のスピードが加速する中、製品が陳腐化する速度はますます速くなっています。供給者は、競争力を高めるべく次々と新製品を市場にリリースしなければなりません。一方、購入者の所有価値は日々目減りしていくため、所有することにステータスを持てなくなっています。所有から利用へ―。その象徴ともいえるビジネスモデルが、モノを買うのではなく、モノを利用した期間に応じて料金を支払うサブスク方式だといえます。私たちは、以前からモノに対価されたサービスを買ってきたわけですが、モノを買わなくてもサービスを享受できる技術的な環境が整ってきました。1990年にアメリカでインターネットの商用サービスが解禁されましたが、その前年の1989年が平成元年ですから、平成の30年間はデジタル化の時代だったわけです。様々なモノやサービスがインターネットにつながり、それをAIが制御する第四次産業革命が進む中、プロダクト中心から顧客中心の「利用」に重きを置くサブスク経営が重要になってきたのだと思います。

日本マイクロソフト株式会社
執行役員
コンシューマー&デバイス事業本部
デバイスパートナー営業統括本部長
梅田 成二 氏

梅田 ITの観点では、高価だったコンピュータマシンがコモディティ化(一般化)していく中、IT資産を所有ではなく利用するクラウドサービスが台頭してきました。普及の背景には供給側と利用側の双方にメリットがあったことが挙げられます。巨大なデジタル企業は、ITインフラを運用する莫大なコストの埋め合わせをするべく、余ったリソースをサービスとして提供しています。一方、クラウドサービスを利用する企業は、ハードウェアを維持・運用する手間から解放されるだけでなく、常に最新スペックを利用して生産性や効率性の大幅な向上が図れます。

かつてマイクロソフトでは、4年間のサイクルで何千人もの技術者がOSやデータベースを開発し定期的に新しいバージョンとしてリリースしてきました。昨今では技術進化のスピードも激しいこともあり、週単位で新しい機能を技術者が開発し、それらを一定の期間でまとめたアップデートとして提供し、継続的且つ迅速にサービスを進化させていくスタイルに変わってきています。サブスク型でソフトウェアを利用するメリットは、急速に進化する技術を即座にエンドユーザーに届け、活用頂くことで、新たな価値を創造できることです。

例えば、Office 365 のAIによる自動翻訳機能付きテレビ会議システムを使えば、外国語を話せない日本人も、海外支社の外国人スタッフとミーティングを行うことが可能になりますが、このような進化をシステムの所有ではなくサービスとして利用することで、導入の障壁を限りなく下げながら最新のテクノロジーを駆使したデジタルトランスフォーメーションを実現することが可能になります。ここ最近では、クラウドだけではなくデバイスもサービスとして利用することで常に最新の生産性を提供していくソリューションも出始めてきています。

竹中 クラウドやデバイスも含めて分散型になってきたという視点はとても重要です。分散することのメリットは、供給側と利用側の両方にあると、梅田さんからお話がありました。分散型ビジネスとして、インターネットを介して資産を共有するシェアリングエコノミーの動きも活発になっています。例えば、シェアオフィス事業を展開するWeWorkは、最近様々な話題を提供していますが、基本的な考え方は間違っていません。つまり不動産にヒトやモノ、サービスなどをマッチングするプラットフォームを構築し、会員同士の共創を可能にするなど、不動産テック(不動産×IT)を代表するビジネスモデルです。また自動車も所有からカーシェアの時代にシフトしつつあります。車を借りるレンタカーではなく、車をシェアして利用するカーシェアへ、利用度合いも進化しています。「利用」に焦点を当てるサブスクの流れは、イノベーションの本質と深く関わっています。

イノベーションを定義した20世紀の偉大な経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションは供給側から生まれることが多いと指摘しています。私たちは、楽しいことがしたいといったWants(欲求)は凄くあります。しかし、何が楽しいのかよくわからないため、これをしたいというNeeds(必要性)をなかなか見つけられません。例えば、「フェイスブックみたいなものがあったらいいな」とは、2006年に同サービスが誕生する以前は誰も考えていなかったわけです。それが、「こんなことができる」とわかって、一気に利用者が世界中に広がりました。今は、AIやビッグデータなどを組み合わせて新しい価値を次々に提案できる技術の発展段階にあり、サブスクによってWantsとNeesが結びつき、イノベーションが起こせることに大きな意味があります。

2019年7月、世界経済フォーラム年次総会、通称「サマーダボス会議」が中国の大連で開催されました。大ホールでのスピーチは中国の李克強首相だけで、それ以外の多くは40人くらいが入れるブースでの短時間のインタラクティブなやりとりでした。エスタブリッシュされた識者の話を1時間かけて皆で聞く時代ではなく、最先端で何が起きているのか、短時間で少しずつ刺激を受けて持ち帰っていくという、会議のやり方そのものにもイノベーションが起きていました。私には、ブースがいっぱい並ぶ風景が、技術の急速な発展段階を象徴しているように思えました。

欧米と比べて日本でサブスクの普及が進まない理由をどうお考えですか?

竹中 欧米は、基本的に日本に比べてモノを所有することに固執がありません。だから、サブスクもすんなりと受け入れることできます。一方、日本はまだモノにフォーカスがあたっていると思います。例えば、日本は持ち家比率が高いですが、アメリカは借家依存型です。日本には土地の所有にキャピタルゲインがあったことが、その背景にあると思います。バブル崩壊前の30年前と比べて、3大都市圏の住宅価格は220倍になりました。土地さえ持っていれば一生暮らせるという土地神話が確かにあったのです。それが今でも象徴として残っているように思います。

別の観点になりますが、日本はインフラをずっと国が所有し運営してきました。近年、国がインフラを所有し、運営は民間が行うコンセッションの動きがあります。例えば、国が所有する関西国際空港は民間が運営するようになり、利用しやすさを徹底追求したことで一気に利用者が増えました。その結果、これまで赤字を補填していた状況から脱却し、利益を上げ納税するまでに至っています。自動車を相乗りするライドシェアや民泊にしても、日本は既得権益を守るために規制が多く、参入障壁が高いこともサブスクの普及を阻む要因ではないでしょうか。

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Contentコンテンツ

急成長するサブスクリプション型ビジネスは、市場のルールを大きく変え、企業の在り方も大きく変えようとしている。
ルールチェンジを見極め、いかにその波に乗ればよいのか。

ー01 特別対談

モノを買わない時代の
“企業経営術”

サブスクを活用し、持続成長する企業の共通項とは?

経済学者 竹中 平蔵 氏
日本マイクロソフト 梅田 成二 氏

記事を読む

ー02 企業事例

サブスクで
価格競争から脱却し成長軌道へ

タイヤを売らないブリヂストン、挑戦の軌跡―

ブリヂストンタイヤジャパン株式会社 
末松 聡 氏
 安藤 浩太郎 氏
 藤田 裕司 氏

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ー03 企業事例

市場のゲームチェンジに
乗り遅れるな

「サブスクリプション」がもたらすビジネス変革

ビープラッツ株式会社 
藤田 健治 氏

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ー04 企業事例

「所有から利用」で攻めのITへ
DaaSで企業変革を実現できる4つの理由

~人手不足、セキュリティ、資産管理、多店舗経営に効く~

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ー05 セミナーレポート

新・サブスク経営学
セミナーレポート

2020.02.26 大阪開催 “買わない時代”のビジネスモデルチェンジ

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ーCase Study

DaaSで企業経営を進化せよ

DaaS導入をいかに企業の力に変えればよいのか。
DaaSビジネスの最前線で企業に指南するキーパーソンに話を伺った。

Eventイベントのご案内

本サイトと連動したセミナーを12月11日に虎ノ門ヒルズで開催します。
「買わない時代の企業経営術」を考える一日。ご来場を心よりお待ちしております。

主催 日経ビジネス
協賛 日本マイクロソフト 
パートナー各社様
日時 2019年12月11日(水) 13:00-17:30
会場 虎ノ門ヒルズフォーラム メインホール
費用 無料

セミナー終了いたしました

詳細はこちら
主催 日経ビジネス
協賛 日本マイクロソフト株式会社、
ダイワボウ情報システム株式会社
日時 2020年2月26日(水) 13:30~17:40
会場 なんばスカイオコンベンションホール 7F
費用 無料

セミナー終了いたしました

詳細はこちら

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