今こそ企業文化を醸成せよ
「働き方改革」と「イノベーション」成功の鍵

大成建設株式会社

あらゆる業界で働き方改革が求められているが、すべての企業が順調に進んでいるわけではない。特に「The 日本企業」というような大手企業ほど新しい文化やツールへの抵抗が強く、昔ながらの慣習を最適解ととらえる風潮が強いと聞く。そんな中「みんなやってる」と自分もやる、という日本人ならではの特性に目を付け、コミュニケーションツールの導入に成功している企業がある。それは140年以上前に創業した大成建設。同社におけるツール活用の仕掛け人は「企業文化を進化」させることこそが目的であると語る。

企業文化が古いままでは
働き方改革やイノベーションを推進する制度は機能しない

大成建設は1873年創業の日本を代表する総合建設会社のひとつ。同社が手掛ける施設は、ビルや工場からスポーツ施設、空港や橋など、あらゆる建築・土木にわたる。

近年、建設業は効率化や労働環境の改善などが求められている。そこで、同社は2018年策定した中期経営計画で「働き方改革」と「生産性向上」に取り組むことを決定。全社的に長時間労働の短縮や十分な休日の確保などに取り組んできた。

大成建設株式会社 建築本部 建築部企画室ICT業務改革推進担当 チームリーダー 田辺 要平氏。プライベートでは、IDL オープンイノベーション・プロジェクト・スーパーバイザーも務めた CO-WORKS飯島ツトム氏と共に、YouTubeチャンネル「Build-C Channel」を今年1月に開設した

そのような流れの中、膨大なコミュニケーションをプロジェクトごとに適切に管理できる「 Microsoft Teams 」を含む「 Microsoft 365 」の全社導入をIT部門が決定したが、うまく活用できている社員は決して多くなかったという。若手を中心に新しいもの好きな社員には比較的スムーズに浸透していったが、そうではない大多数は旧来のツールをつかい続けていた。「使いやすいですよ、簡単ですよ」と使用を促しても対象者自身の考え方がアップデートされておらず活用度はなかなか高まらなかったという。

そこで、同社のICT活用の推進を担う建築本部 建築部企画室ICT業務改革推進担当 チームリーダー 田辺要平氏が考えたのが、インターネット上のLINEやTwitter、Facebookなどに慣れている社員のコミュニケーション能力を活かしながら、“みんなが使っているから自分も使ってみよう”という日本人ならではの心理を刺激することで企業全体の文化を進化させるという手法。

簡単な使い方マニュアルを配って説明したところで自分の周りがやっていないことが分かった瞬間に、多くの社員はチャレンジすることすらしないという。裏を返すと、周りがやっている、ということに気づけば日本人の特性上、自主的に勉強し使い始めるという。各国の国民性に関して田辺氏は面白い例えを紹介してくれた。「英国人は“紳士の方はやっていますよ”と言えば行動し、フランスの人には“ご婦人が見ていますよ”、アメリカ人には“自由が手に入りますよ”、そして日本人は“皆さんやってますよ”と言うことで行動するという表現があります。少し極端かもしれませんが、日本人の個性として周りとの調和を大切にするがゆえ、非常に周囲を気にするのは事実だと思います」

いわれてみると腑に落ちる読者も多いのではないだろうか。これが働き方改革も含め、新しいツールや制度、考え方を日本企業に浸透させていくためのポイントであると同氏は考える。 では、こうした仕掛けをどのように施していったのだろうか。

いきなりハイスペックを提供しない
普段使いの少し先くらいを提供する

大成建設ではDXや働き方改革の実現に向け、「 Microsoft 365 」を導入している。いくつものアプリケーションがパッケージングされた同サービスの中で、田辺氏が活用の中心におこうとしたのが「社員間のコミュニケーションと意思決定のやり方」に関することだった。「大人数が集まる会議で結論が出ない」「会議のための会議があり効率が悪い」といった多くの日本企業で見られる現象が同社でも起きていた。これは企業文化が凝り固まっているから。そこで、コミュニケーションの取り方を変えられれば生産性も高まり企業文化が進化するための柔軟性を持てると考えたという。そこで始めたのが「 Microsoft Yammer (以下 Yammer )」と「 Microsoft Teams(以下 Teams ) 」の活用だった。

厳密には多くの機能が異なるが、コミュニケーションツールとしては同じ方向を向くツールである。使用者にとってそれぞれがどんなツールなのか、目的をわかりやすく伝えないことにはせっかくの宝も持ち腐れとなる。そこで、田辺氏は「 Yammer はTwitterのような社内SNSで業務上接点のない人と人が自然と繋がるネットワーク。 Teams は煩雑になりがちな業務上のコミュニケーションをまとめるビジネスのハブという位置づけ」と明確に目的を分けたという。

グループ社員も含む約2万人が活用する Microsoft Yammer 上で運営する
「テック系雑談〜夢物語と現実のボーダライン」の一画面。田辺氏は社内外へ積極的に情報を発信している

今や多くの人々がプライベートでは様々なSNSやツールを使いこなし日々のコミュニケーションを取っている。この感覚をビジネスシーンに取り入れてほしい、という単純明快な施策である。しかし、どうやら日本人はプライベートとビジネスを切り分ける傾向が強いようで、充実したツールを企業内で提供しただけではインターネット上で養ったスキルを発揮しようとしないという。

そこで、田辺氏は同社グループ社員全員が閲覧可能な Yammer に自らのブログを投稿するグループを作成し、インターネット・ブログのような表現方法で社内に発信することから始めた。これにより Yammer というビジネス向けSNSの空間に、インターネット上の流儀が持ち込まれていった。多くの社外講演や講師、そしてテック系ポッドキャストなどもこなしてきた田辺氏が投稿する「キャッシュレス」や「自動運転車」などに関する様々な文章に対して、コメント欄でインターネット上と同じ作法で、面識の有無に関わらず色々な部署の社員たちとやり取りするようになった。2年前から始めたこの Yammer グループのことを田辺氏は次のように振り返る。「最初は、みんなビックリしたと思いますよ。社内の空気をわざと無視した表現や言葉遣いで書いていますからね。テック系の技術的な話もなるべく分かりやすく楽しく書くようにしていますが、今でもできるだけ読み手に迎合しないよう心がけています」

「周りがやっているから自分も」の連鎖を続けることが
企業文化の進化につながる

 

ツールに目的を持たせ、大多数に受け入れられる環境を用意したうえで田辺氏が活用推進で大事だと考えるのが前述の「みんなやっている」感の醸成である。この雰囲気を効率的に広められれば企業全体の考え方が変わり、文化が進化する速度が上げられる。ではどのように進めたのだろうか。

田辺氏が作成した Yammer グループには、同氏のブログ的なモノのほか、様々な業務システムのサポートを目的としたグループが複数ある。そして Teams 内にもそれらに対応したグループチャットが作られており、本社の関連部署や支店などの“キーマンたち”の多くは、その両方のメンバーとなっているという。

「みんなが見ている Yammer では、社内の一般ユーザーがカジュアルに質問や要望、ときには苦情を各業務システムのグループへ投稿します。我々はみんなが閲覧可能なコメント欄で誠実にやり取りした上で、Teams 上で“キーマンたち”と結論を作るのです。これらは効率的なインターネット上でのコミュニケーションの流儀を企業へ持ち込むことで体験できた良い成功事例となりました」と田辺氏は、Yammer と Teams とを連携させて利用するメリットの1つとして説明する。

そして、同社の全プロジェクトで活用するため、全社員が使用する社内ポータルサイト上にあるプロジェクト管理システム「Projectポータル」に2020年1月より Teams が組み込まれた。同社は設計から施工まで行い、巨大施設の案件も多いため、手掛ける案件にはいくつものプロジェクトが並走する。プロジェクトを担当する社員の画面には、各自の権限にあわせてそのプロジェクトで利用できるツールが表示される。現在それらは社内システムやクラウドサービスを含め全部で6つ。その1つが Teams だ。田辺氏率いる部門横断で組織されたWGが企画・構築した「Projectポータル」は、新しいプロジェクトが発足すると、Teams のWebAPIを使いチームが簡単に追加されるようになっており、プロジェクトのメンバーなども自動で同期される。現在施工部門だけで約400チームが稼働中だ。「使い始めて間もないので、まだそれほど活用されてはいませんが、浸透するには時間がかかると思っています。まずはインフラとして各プロジェクト専用のチームを簡単に用意できることが重要です」と田辺氏は語る。

同プロジェクト管理システムでは、どのプロジェクトがどのツールを使っているのかがぱっと見でわかるようになっている。つまり、Teams を使っているプロジェクトなのかが、社内全体で共有されているのだ。

「Projectポータル」では Microsoft Teams をはじめ社員一人一人が必要なツールを分かりやすく使える環境が整う

従来の考え方では、自分に関係ないプロジェクトがどんなツールを使っているのかを知ることは難しい。しかしそれでは、様々な進捗や規模のプロジェクトが多数併存しているビジネスの現場では、新しい仕組みが全てのプロジェクトに定着するのに時間を要してしまう。田辺氏も「多くの日本企業はテクノロジーで物事が激変すると考えているがそんなことは少ない。実際はテクノロジーを使おうとする人々の意識がアップデートされていくことの方が大切であり、そのためには質の高い新しいコミュニケーションツールを使うことで物事は変わっていく」と語る。その文化の醸成のために、自分が担当するプロジェクト以外が何を使っているのかを一目瞭然にする仕組みは欠かせないだろう。さらに田辺氏は、「良いアイデアを思いつく人は世の中にたくさんいますが、それをいかに時代の速い流れの中でアジャストし、必要に応じて方向転換などをしながら切り盛りするかが最も重要です。そして、その采配を生むのは企業文化です。企業文化が進化しないまま、一社員がミラクルなアイデアを思いついたとしても、その企業はアイデアを生かし切ることはできません」とも語る。

定型の枕詞をやめてまずはサムアップから始めよう

目的に沿ったツールを適切なスペックで提供しつつ、周りも使っている感を醸成してきた田辺氏は Teams を質の高いコミュニケーションツールとして推進している理由を次のように表現する。

「私はメッセージングアプリが好きで、90年代から新しいツールが出る度にひと通り試しています。その中でも Microsoft Teams はすばらしい」と評価する。

他に機能が充実したサービスが多くある中、田辺氏は Teams を「機能は多くはありませんが、その割り切り方が絶妙です」と言う。例えば、既読/未読の表示は、チャットには実装されているが、チームへの実装は見送っている。田辺氏は、「『読んだこと』と『了解したこと』はイコールではありません。そのため、ビジネスでは伝達するだけでなく理解する必要があり、チーム内ではサムアップやコメントでリアクションが求められます。既読/未読が表示されてしまうと、既読になったことで理解したと思われてしまう可能性があり齟齬を生む原因となります。ここが一般的なチャットとビジネスチャットの大きな違いで、マイクロソフトはよく理解していると感じています」と語る。一方、個別の会話であるチャットでは必ずしもリアクションが必要ない場合も多いので、既読/未読が分かればよいのだ。

企業にはITリテラシーが高い人も低い人もいて、既に機能が充実したサービスを最初に提供してしまうと、全員が使いこなすためのハードルが高くなる上、教育コストも余計にかかってしまう。そのため、「現在の Teams が持つ機能は、今の日本企業が導入するのに最適だ」という。

利用が進むうちに、最初は慣れなかった人も徐々に新しいコミュニケーションの方法を学ぶことができる。Yammer や Teams で他の人の発言に触れ、文章の書き方やリアクションの仕方も学べる。田辺氏は、「最初はチームに書き込むことを躊躇してチャットから始めるかもしれませんが、続けているうちにコミュニケーションのコツを学び、徐々に変わっていきます。これを継続していくことで企業文化が進化していきます」と語る。

最後に、「 Teams と Yammer を組み合わせて利用することが重要」と田辺氏は強調する。インターナルなコミュニケーションから順番に、Teams のチャット、チーム、 Yammer と連なり、最後は外部のインターネットの世界となるが、これらが相互に影響を与えるという。「チャットからインターネットのコミュニケーションまで、きれいにグラデーションが作れます。これによって、外の世界で養われた感覚を企業の中に持ち込むことが可能になると思っています。私がプライベートで始めたYouTubeチャンネルもその一環ですね。私なりの情報発信グラデーションです(笑)」(田辺氏)

このように、提供するツールの目的をしっかり明示し、社員のリテラシーやキャパシティを考慮したうえで適切なスペックを提供することが新しいツールの導入に必要不可欠な一歩目である。この先に一番大事な「企業文化の進化」を促す手法がやってくるのである。

大成建設は、新しいツールが生み出す新たな社内コミュニケーションにより、企業文化の進化を目指す。

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