「リラックスして過ごせること」を重視しデザインされたユーグレナ本社2階のカフェスペース。
形や素材の違うソファ、高さの異なるテーブルを配置。仕事や食事、気分転換など、目的に合わせて活用できる。

日本を代表するサイエンスベンチャーとして成長し続けてきたユーグレナが、2018年2月、事業規模拡大に伴い本社を移転した。新オフィスは、研究室をイメージした来客ゾーンをはじめ、カフェスペースや保育園をおくなど、オープンイノベーションを意識した空間作りが特徴だ。この新オフィスを手がけたのが、住宅、オフィス、ホテルなど幅広い分野のデザインで多数の実績を持つ三井デザインテック。「オープンイノベーションを起こすオフィス作り」について、ユーグレナの出雲充社長と、三井デザインテックの渋谷忠彦社長が語り合った。

Photographer:世良武史(人物) Writer:平松理恵

Social

写真左:三井デザインテック 代表取締役社長 渋谷 忠彦氏 / 写真右:ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充氏
ユーグレナ本社3階の来客スペース

出雲 「多少背伸びしても、いいオフィスを作ろう」。当社が移転し新しいオフィススペースを作るに当たり、最初からそう決めていました。

ユーグレナが扱っているミドリムシは、動物と植物両方の性質を持った藻類で、食料からバイオ燃料に至るまで、広い用途と可能性を秘めた素材です。そのミドリムシに関心を持つ人── 企業の方をはじめ、国家元首から宇宙飛行士まで多種多様な人が、世界中からバイオテクノロジーの夢を語りに当社にやってくる。そういう方に、きちんと向き合いたいと思いました。

その方をどうお迎えし、どう楽しんでいただくか。当社が自信を持って世界に発信できるものは何か。それは、科学技術、サイエンスにほかなりません。その思いを形にしたのが、本社3階の来客ゾーン(上写真)です。

当社の考えと現在の状況を三井デザインテックさんにお伝えし、あとはプロを信じてお任せしました。

渋谷 ユーグレナさんのご意向をうかがい、来客スペースのデザイン・テーマを、「ラボ(ラボラトリー・研究室)」に据えました。そうしてできたのが、研究室をイメージさせる、白を基調にした空間です。来客スペースに足を踏み入れてすぐの場所に顕微鏡が置かれたデスクを配すなど、サイエンスを身近に感じるための“しかけ”を施しました。

2階の執務ゾーンにも、様々な“しかけ”を用意したんです。このゾーンのテーマは「アカデミア(学究的環境・世界)」。2階には、カフェスペースや保育園(下写真)もあり、部門を超えてコミュニケーションが生まれやすい環境を整えました。

ユーグレナの新オフィス2階、カフェスペース(写真内左)の隣にある「ゆーぐりん保育園」。
会社の成長に伴って子育て世代が増えていくに当たり、多様なワークスタイルの実現を目指して作られた。

出雲 オフィス移転のための専任チームを立ち上げ、「自由にやっていいよ」と任せたら、カフェと保育園を作りたいという声があがってきた。とんでもないことになったな、と当初は思いました(笑)。

しかし、結果的にはこれがよかった。属性の異なる人、モノ、組織、考え方を一緒にすることで、何かが生まれる可能性は高い。そこから、新しいもの、イノベーティブなものが生まれてくると思うのです。

渋谷 オフィスの中に、食事をしたり、仲間と会話をしたり、くつろいだりできるスペースがある。実はこれが大切なのです。

これまでのオフィスに対する考え方は、「事務処理をする」「作業をする」ことが主軸にあり、その効率をどれだけ上げるかが追求されてきました。その発想が消えたわけではありませんが、考え方の主軸が「新しいものを生み出すこと」へと移りつつあります。

パソコンに一日中向かっていることで新しいものが生み出せるか。食べたり、飲んだり、くつろいだり、というところから発生するコミュニケーションがあって初めて、新しいアイデア、イノベーティブなアイデアが生まれるのではと考える企業は、確実に増えています。

オフィス作りはコストではなく、経営上の投資です。出雲社長は先ほど、「背伸びをすることになっても、いいオフィスを作ろうと考えた」とおっしゃいました。これは経営者として、投資を決断されたということですよね。

出雲 その通りです。だから当社にとって今回のオフィス移転は、単なる引っ越しとは違う。

いいオフィスを作ると、「もうベンチャーじゃないね」と言われることがあります。確かに2012年に東証マザーズに上場しましたが、当社は今もベンチャーの一翼を担っていると思っていますし、ベンチャースピリットにあふれています。しかしそもそも、「ベンチャーであること」は、お客様にとっては大きな価値ではないと思うのです。

僕がこれまで徹底して意識してきたのは、「変化し続けること」「多様性があること」「属性が異なる人・モノ」「びっくりさせること」。そうすることで、イノベーションが起きやすい状態を作ることを追求してきました。これは、お客様にとっても大きな価値があると思う。だから新しいオフィスを作るに当たって、「ベンチャースピリットを生かす」云々より、イノベーションを起こしやすくすることに力を注ぎました。

渋谷 そうした価値に重きを置く人や企業は増えていると感じます。オフィス作りのお手伝いを通して企業の方からお話をうかがうことが多いのですが、イノベーションを起こしたいという要望がとても強くなってきている。

出雲 イノベーションというのは、日常の対極にあります。生物は、昨日、今日、明日と同じ日が続くのが一番安心なわけで、今日と明日が全く違うものになる可能性をはらむイノベーションは、実は生物学的に見るとちょっと無理がある。だからこそ、「イノベーティブな環境を維持し続ける」ことを、常に強く意識する必要があります。ちょっと気を抜くと簡単に“日常”に戻ってしまうので。 

そんな中で、成功のパターンというものも見えてきました。絶対に相容れないと思われる、心理的距離の離れているもの同士を、くっつけてしまうんです。ミドリムシは、東京大学と石垣島という、およそ共同研究などしそうにないものを組み合わせて、培養できるようになりました。先ほども申し上げた通り、まったく属性の異なる人、モノ、組織、考え方を一緒にすることから、何かが生まれる可能性は高いのです。

渋谷 当社は、住宅、ホテル、オフィスなど様々な空間のデザインを手がけていますが、違うもの同士を組み合わせた「クロスオーバーデザイン」が、高い評価をいただいています。住宅の一部にホテル的なものを組み込む。あるいは、オフィスを働くだけではなく、寝たり食べたりできる場所にする。そうやって異質のモノを“クロスオーバー(交差、融合)”させることで、新しいオフィスの形が生まれる。そうした“場”を提供することで、働く人々の意識も変わっていく。そんなことが今まさに起きている、という実感があります。

出雲 新オフィス3階の来客スペースは、まさにクロスオーバーデザインです。ここに来られるお客様のほとんどは、ミドリムシの専門家ではありません。専門家でないからこそ、みなさん突拍子もないことをおっしゃる。しかしイノベーションは、そういうところから生まれるのでしょう。当社がイノベーションを生み出す場であり続けられるようにすること。これが、経営者としての私の責務の1つだと思っています。

Social