音、木の香り、景色、内と外の曖昧さ ──是枝監督にとっての〝心地良い空間〟とは?

映画監督 是枝裕和さん

映画監督 是枝裕和さん

早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。2014年に独立、制作者集団「分福」を立ち上げる。主な監督作品に、『誰も知らない』(カンヌ国際映画祭最優秀男優賞)、『歩いても 歩いても』『そして父になる』(カンヌ国際映画祭審査員賞)など多数。最新作『万引き家族』は、1997年の今村昌平監督『うなぎ』以来、日本人監督作品として21年ぶりに第71回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞。同作品はロサンゼルス映画批評家協会賞でも外国語映画賞を受賞するなど、国内外で数々の賞を獲得している。

音、木の香り、景色、内と外の曖昧さ ──是枝監督にとっての〝心地良い空間〟とは?

人や企業の存続や成長に欠かせないとされる“新しいもの・価値”を生み出すイノベーション。ビジネス界で叫ばれて久しいこの「イノベーション」は、映画制作といったクリエイティブな分野ではこれまでも当たり前のように起きてきた。映画づくりを通して“新しいもの・価値”を創造し、国際的に活躍する映画監督・是枝裕和さんに、空間の持つ重要性について聞いた。

Photographer:世良 武史(人物) Writer:平林 理恵

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──着想したり、構想を練られたりといったクリエイティブワークは、どんな場所でなさるのですか。

アイデアを思いつくのは、飛行機や新幹線、タクシーの中など、移動中が多いです。歩いて駅に向かう道すがら、ひらめくこともあります。体を動かすことが刺激になっているのでしょうね。周囲に人がいて、うるさくない程度にノイズがある環境の方が、着想を得やすいですね。

脚本を書き始める段になると、茅ヶ崎にある「茅ヶ崎館」という旅館に行きます。ここは小津安二郎監督が脚本執筆のための定宿として使っていた旅館で、国の有形文化財にも登録されています。

2007年だったかな、小津監督がよく使っていたという海に面した中2階の角部屋で『歩いても 歩いても』の脚本を書いたんです。そしたらこれが良くてね。海の近くで、夜はしんと静かなのだけれど、耳を澄ますと波の音が聞こえる。脚本がはかどりました。以来、作品ごとに1週間から10日くらいここに泊まり、構想を固めるようになった。

東京で考えたり書いたりする時は、事務所の作業部屋にこもります。この事務所を借りる決め手になったのは、窓からの借景です。隣の家の庭のもみじが色づく季節に、部屋の窓から外を眺める。すると窓枠が額縁の代わりになって、隣の庭のもみじがまるで1枚の絵のような景色になり、本当に美しい。うちのもみじではなく隣りのもみじ、というのがまたいいんですよ。外にあるものを自分の空間に取り込む「借景」は、すべてを我がものにしなくてもよいという発想が逆に豊かで、素晴らしい。好きだなあ。

ここに移る前の事務所もよかった。コの字型のマンションで、作業部屋からテラスに出られた。そこにテーブルを置いてよく脚本を書きました。テラスやベランダ、それから縁側。そういうウチなのかソトなのか分からない、曖昧な“どちらでもない”空間がいいんですよね。

── 「波の音がいい」とおっしゃられましたが、是枝監督の作品には、音楽や効果音が効果的に使われています。「音」にはどんな力があるとお考えでしょうか。

音の持つ力は大きいと思います。映画の企画が動き始めたら、作品のイメージに合わせて楽器を1つ決めます。そして、仕事部屋にその音楽を響かせる。その音を基調にして、音に包まれながら脚本を書くんです。『海街diary』の時は、4人姉妹の物語なので弦楽四重奏をかけながら書き上げました。『万引き家族』の時は、細野晴臣さんのアルバムだった。

『そして父になる』では、産院で取り違えられた子どもをそれぞれの家族が引き取りに向かうシーンで、「北関東の鉄塔の中を車が走っていく」絵がまず浮かびました。カメラが鉄塔の送電線を捉えるその瞬間、「ここでピアノが入る」と直観した。これが「男の子がピアノを習っている」設定につながり、僕はグレン・グールドをかけて脚本を書き上げました。結局、映画でもそのままグレン・グールドを使うことになった。音楽がイメージを広げたり、方向づけたりする。この力はとても強いと思います。

──監督は海外を訪れる機会も多いと思います。滞在場所に求めるものは?

多くは求めませんが、バスタブがあること。これは外せませんね。滞在先では特に、ゆっくり湯船に浸かりたい。さっきお話しした「茅ヶ崎館」には、檜の大きなお風呂があります。木の香りがしてね、懐かしくて癒される。僕の子どもの頃って、浴槽は木製の樽型で、薪をくべて湯を沸かしていたんです。その原体験があるから、木のお風呂にワクワクするんでしょうね。

こうした「懐かしさ」がまさにそうなんですが、空間に刻まれた時間というものは、その空間を豊かにします。『海よりもまだ深く』は、母親が1人で暮らす家に子どもが戻ってくるという設定なんですが、家族が過ごしてきた時間が家に刻まれるような空間づくりをしました。息子が子ども時代に使っていた部屋に、母親が使わなくなったものを置く。別の部屋には姉が高校時代に使っていたものを置いて、その上に母親が今使っているものを重ねる。そんなふうに“時代の層”を作りながら、ものを置いていく作業をした。「今」だけでなく、「これまでの時間」と「これから訪れる時間」を層として空間に加えることが、その空間の魅力や価値になっていくと思います。

──海外、外から見てこそ分かる日本の良さはありますか?

日本人の繊細な手仕事はすごいと思う。日本製の文具の質の高さは有名ですよね。日本のすし職人がいる美味しい寿司屋がパリにあるのですが、フランス近海でとれた魚を、炭火でちょっと炙るといった“ひと手間”を加える。職人がかけるそうしたひと手間で、美味しいものがさらに美味しくなる。こうした工夫は素晴らしいですね。

良いところも良くないところも含めて、日本の独自性は、外から見て初めて分かることもある。当たり前だと思っているものを外から眺めること、物事を俯瞰して見ることが大切なのでしょうね。

五感に響く繊細な仕事で
要望に沿うデザインを提案

三井デザインテック
インテリアデザイン事業本部
企画営業部長
平松 健さん

三井デザインテックは、オフィスやホテルなどからレジデンスに至るまで、様々な分野のデザインを手がけています。設計・内装はもちろん、インテリアの商品販売もご提案しており、エンドユーザーと直接触れあう機会も多く、ライフスタイルの変化に伴い変わる住まいのニーズに精通しています。その知見・ノウハウを生かしたデザイナーの提案に、お客様のご要望を取り入れながら“双方向”でプランを進めていくため、お客様に寄り添ったきめ細やかなご提案ができると、高い評価をいただいております。

是枝監督は作品づくりの中で、五感や、日本人ならではの繊細なものづくりを大切にされていらっしゃいますが、それはまさに当社がデザインで追求していることでもあります。国際的なホテルデザインイベント「Sleep」(2016年)のコンペでは、日本人ならではの繊細なものづくりと、「五感で感じるデザイン」が評価され、審査員特別賞を受賞しました。こうした経験も踏まえ、お客様にご満足いただけるデザインを、これからも提供していきたいと考えています。

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