

2013年のリリース以来、世界累計利用者数4900万人の大ヒットを記録するスマートフォンゲームアプリ「モンスターストライク(モンスト)」は、友達や家族とのコミュニケーションを軸にした新市場を創出し、19年現在も幅広いユーザーに親しまれている。開発の中心を担ったミクシィの木村弘毅社長が参考にしたのが、楠木建教授の著書『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)だった。ヒットを生み出すマーケティング戦略について、木村社長と楠木教授が語り合う。
木村弘毅氏(以下木村) これまで経営戦略書やマーケティングの方法論などを何十冊も読んできましたが、『ストーリーとしての競争戦略』を読んだときに目からうろこが落ちました。
まずとても印象的だったのが、戦略には「動き」と「流れ」が必要であるのに、ほとんどの戦略が「静止画」にとどまっているという視点です。因果関係も含めて「動画」で表していかなければ本当の戦略にはならないといったことが書かれていて、すごくしっくりきました。
楠木建氏(以下楠木) さまざまな経営者の方々から戦略構想を見せていただける機会がありますが、そのほとんどが「箇条書き大作戦」になっているんですね。つまり静止画です。一つひとつに対して、他社との違いをつくるという競争戦略は意識していても、それがどうつながって儲けになるのかがさっぱり分からないということが多いんです。
戦略とは、明治時代に入ってきた英語の「strategy(ストラテジー)」の創造的翻訳です。まだ戦略という日本語がなかった頃、江戸時代のビジネス書を見てみると、戦略に一番近い言葉は「儲け話」なんです。つまり「儲け話を考える」という意味では江戸時代から変わらないのに、「戦略を考える」とかしこまった瞬間に突然箇条書きの静止画になってしまう。それは、社会の進歩によりビジネスの分業化が進んだからなのかもしれません。すべてを自分で組み立てる人でないとストーリーとしての戦略は出てきにくいのでしょうね。