いい素材がなければ
いいコーヒーは生まれない
2018年9月に海外初出店となる「猿田彦珈琲 台北南西店」(写真左)を、12月には「猿田彦珈琲 台中三井店」(写真右)をオープンした。それまでスタッフにドリップコーヒーの作り方を教えるのに1〜2カ月かかっていたものが、海外進出をきっかけに試行錯誤を重ね、数日間で教えることができる効率的なやり方がみえてきたという。
「20代の頃にコーヒー豆の専門店で働いていて、自分なりに美味しいコーヒーを淹れる研究をしていました。そこでわかったのが、いい素材がなければいいコーヒーは生まれない、という当たり前のこと。でも、お客さんは自分にあったコーヒー豆の選び方や、うまく淹れる方法を知らないかもしれないし、不安なんじゃないか。だったら豆から淹れるところまで、すべてのプロセスを通して一杯ずつ美味しいコーヒーを提供すればきっと喜んでもらえる、そう思ったんです」
猿田彦珈琲をはじめたきっかけをそう振りかえる。場所は東京・恵比寿、店舗面積はわずか8.7坪。2011年当時は、まだ“サードウェーブ”コーヒーという言葉が生まれる前のことだった。豆の生産地や、素材、焙煎方法、淹れ方などすべての工程にこだわる小さなスペシャルティコーヒー店は、またたく間に行列ができる有名店になった。そして2019年8月現在、国内では都内に12店舗、神奈川県に1店舗の計13店舗を構える。
「最初から店を増やしたいと思っていたわけじゃないんです。僕はなんでも器用にこなせる人間ではないので後輩に助けを求めて働いてもらって。すると彼らを食べさせなきゃいけなくなる。2年後には自社で焙煎もはじめたのですが、それも店を増やすきっかけでした」
店をはじめた当時はもちろん焙煎機などなく、専門の業者へ委託していた。しかし、コーヒーに対しての責任を負いたい。意を決して銀行から借り入れをし、焙煎機を導入。自身の出身地である調布市には、大型の焙煎機などを4台設置した旗艦店をオープンし、すべての店で提供する豆の焙煎を自社で行う。そこで新たな気づきも得た。
「良質な豆を少量、自分たちの分だけ仕入れるやり方は賢いけど、でもそれじゃ産地の人たちを本当に救うことにはならない。そこで働く人たちのことも含めてビジネスモデルを考えたときに、量をたくさん仕入れたほうが産地も喜ぶし、我々にもスケールメリットがある。店舗展開によってみんながハッピーになるやり方を考えるようになりました」