──医療の分野で、これまで以上に多様なデータが活用されるようになりました。
O’Doherty 医療分野でのデータ活用について、2つのトレンドに注目しています。1つは、これまで医療機関内だけで行っていたバイタルサインのモニタリングを、ウエアラブル端末などを使って、家庭内でも可能にするトレンド。もう1つは、高度な医療用システムを小型化して、患者の生活の場で利用できるようにするトレンドです。
増井 おっしゃる通り、バイタルサインを日常生活の中で取得・活用することには大きな意義を感じます。一人ひとりの体質や生活習慣に応じて個別化医療を行うなど、層別化した医療が可能になります。既に、遺伝情報を利用した治療・診断ができるようになっていますが、日常生活の中で患者の状態変化を追うことができれば、より正確な診断と対処が可能になるでしょう。
O’Doherty ただし、ウエアラブル端末には、進化の余地が大きく残されています。現時点では、半分民生向け、半分臨床・医療向けという位置付けです。ADIでは、こうした端末に搭載する計測技術の高精度化に取り組んでいます。近い将来、医療向けとして利用することで、慢性疾患の管理などで効果を発揮するでしょう。
──遺伝情報など、一人ひとりの体質の違いを知るためのデータ取得技術はどのような進歩を遂げつつありますか。
O’Doherty 個別化医療などに欠かせないDNA検査やDNA合成は著しく進歩しています。ADIでは、バイオセンシング技術を駆使して、DNA合成向けのセンシングと制御を卓上サイズの機器で行う技術を開発しており、手軽で安価なDNA合成の実現を目指しています。完成すれば、より多くの人に、個々の病態に合った治療や薬剤投与するなどの高度な医療を提供できるようになるでしょう。
増井 その際に利用する医療でのデータ収集の手段は、高度化すると同時に多様化もしています。遺伝情報に加え、様々な検査画像のデータ、さらにはウエアラブル端末から得るバイタルサインなどを診断に活用することもできます。これら多様な手段で得たデータを連携させて、複合的な視点から診断することによって、患者の状態をより正確に把握できる可能性も出てきています。