ユーザー数1000万人を8カ月で突破した「アサヒ ザ・リッチ」。発売1年目のマーケティング活動に注目し、慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏と日経BP総研の渡辺和博が、絶好調の要因を探った。
ユーザー数1000万人を8カ月で突破した「アサヒ ザ・リッチ」。発売1年目のマーケティング活動に注目し、慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏と日経BP総研の渡辺和博が、絶好調の要因を探った。
PROFILE
岸 博幸氏 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
テレビや雑誌等でも幅広く活躍。地域再生や政治経済について明快に語る姿が好評。
渡辺ご存じの通り、新ジャンル市場で大ヒットを飛ばしている「アサヒ ザ・リッチ」ですが、コロナ禍で消費者には独特のマインドセットがある中で、何が効いて人々に行動変容をもたらしたのかを解明したいのですが、岸さんはどうお考えになられますか。
岸何が一番の成功要因になったのかを分析するのは難しいですよね。今のマーケティングはテキスト通りにはいかないし、セオリーはあまり通用しないですから。アサヒさんも相当試行錯誤されたと思いますが、例えばコミュニケーションにおいては、有名人を起用したTVCMをはじめ、Web動画や人気TV番組と連動したインフォマーシャル、新聞社や雑誌社とのタイアップ企画などを展開し、さらにこれらをSNSと連動させるなど、総合的なアプローチで幅広い層の消費者と接点を作り、商品理解や納得度を高め、関心を集めてきたことは大きく影響していると思われます。もちろん、この商品の完成度の高さがあってのことですが。
PROFILE
渡辺 和博氏日経BP総研 コンサルティング局 上席研究員。
全国各地で地域活性化や名産品開発のコンサルや講演を行い、消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援。
渡辺今の消費者は、安いものを買う時も、絶対に間違いないものを選びたがる。若い人ほどその傾向がありますよね。「アサヒ ザ・リッチ」の、手軽に贅沢感を味わえるという商品特長は、そうした時代感にも非常に受け入れられたのかと思うのですが。
岸それは間違いなくありますね。でもこの商品は、ある意味、様々な冒険をしていると思うんです。缶の色も落ち着いた濃紺ですが、これって悪く言えば地味な印象ですよね。中味に自信があるからこそできたことだと思いますが、激戦の新ジャンル市場の新商品で、店頭で少しでも目立ちたい中でのこの色の選択は、意図を感じます。また、微煮沸製法によって生まれたコクのある味わいは、“アサヒ=ドライ”という世間の固定観念を良い意味で裏切っています。何より、これだけうまいのにリーズナブル。「アサヒ ザ・リッチ」というネーミングが嘘でないことも飲んだら分かります。マーケティングにおいては、最初にその商品のバリュー、提供価値を定義しますが、「アサヒ ザ・リッチ」はそこが一番大変だったのではないかと思いますし、そんな中で、こうした逆張り的なチャレンジができたのはすごいと思いますね。
今の世の中、企業がビジネスを生み出す際のアプローチは、多くがProblem solving(問題解決)なんです。何が課題でそれをどう解決するか。で、自分の会社が今までやってきたことの延長を考える。これって実は意外とつまらない解にたどり着くケースが多いんですが、アサヒさんの今回のアプローチはProblem finding(問題発見)。消費者の潜在的なニーズを、本人が気づく前に見つけ、ウォンツに進化させている。当然リスクもある中、それをしっかりやり切ったのは素晴らしいこと。今の日本の大企業にはなかなかできないことだと思います。
渡辺原点をしっかりと抑えて、いいものができたからちゃんと売ろうという、アサヒさんの本気を消費者も感じ取っているんでしょうね。
贅沢醸造で丁寧にこだわってつくり、贅沢なコクを実現。アルコール分は、すこし高めの6%。日々をちょっとリッチな気分でくつろぐのにふさわしい商品。