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45万時間の業務を自動化へ──。 ユーザー主導の第一生命のデジタル変革 業務改革は“Blue Prism”で加速する

第一生命保険のDXはすでに大きな効果を上げている。その背景には、業務部門が中心となったユーザー主導の導入や成功事例の積極的な共有など、社内での普及を図る様々な工夫があった。その中心を担うRPAの導入から、約2年半で約23万時間の業務を移管。同社のDX推進の取り組み、ニューノーマルで求められるスピード感を持った変革について、執行役員の拝田恭一氏と事務企画部長の櫻井建氏に伺った。

DXで保険事業の課題を解決する

拝田氏
第一生命保険
執行役員
拝田恭一

 第一生命保険(以下、第一生命)はDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が広く使われるようになる前から、Insurance(保険ビジネス)とTechnology(技術)を融合させた生命保険事業独自のイノベーションを創出する取り組みを「InsTech(インステック)」と銘打ち、デジタライゼーションを進めている。

 そしてこの変革が、保険加入者の顧客体験の向上(=カスタマーサクセス)へとつながっていく。

 「第一生命グループは既存の領域から新しくチャレンジする領域へと人財をシフトする必要がありました。その観点からも、保険事業の効率性・生産性を高めるためのデジタル化は欠かせません」と、執行役員の拝田恭一氏は背景を語る。

 「IT部門とユーザー部門の協働がなければ、 DXの改革は進みません。そのためにはIT部門と連携し、ユーザー部門もしっかりと目標とコミットメントを持って変革に取り組むことが大事です」

櫻井氏
第一生命保険
事務企画部長
櫻井建

 事務企画部長の櫻井建氏も、ユーザー部門の取り組みの重要性を説く。

 「デジタル化というと技術に目が行きがちなのですが、結局使うのは人です。弊社の営業現場には、チャネルとして営業員、そして社員たちがいます。実際に使う人、例えば営業員や社員がどのように使うのか、そしてそれがお客様にどう役立つかを考えてデジタル化を進めることが大切なのです」

 一方で、「保険という商品は契約期間が長く、すでに販売を停止した商品についても、最後の1件の契約が終了するまでサービスを提供する必要があります。そうした部分にIT投資を行った場合、効率化できる効果が少なく、十分なROI(投資収益率)が得られないという課題がありました」と拝田氏は話す。

 第一生命はその課題解決方法の1つとして、RPA(Robotic Process Automation)に着目したという。詳しく見ていこう。

RPAで約23万時間の業務を自動化

 「RPAは業務のロングテールのテール部分の効率化に適していると言われます。RPAで我々の事務処理の効率化が期待できると考えました」(拝田氏)

 2016年夏、第一生命はRPAのPoC(概念実証)に着手した。中心になったのは、拝田氏が所属長をしていた事務企画部だった。

 「導入前に現状の業務を分析して見える化し、RPA化すればどの程度の成果が得られるのかを洗い出す必要がありました。そして、この洗い出しを最も的確に検証できるのは、実際の業務に携わっていた業務部門の担当者たちでした」

 当初、コンサルティングファームからは国内で知名度の高いRPAツールを推薦されたが、その導入は困難と判断した。

 「我々のシステムは金融機関として高いセキュリティーを求められるなどの特徴があり、推薦されたRPAツールでは安全性を担保しつつ運用することは難しいことが分かったからです。そこで、米フォレスター・リサーチの調査結果などを参考に、グローバル市場で評価されているものを検証しました」(拝田氏)

 第一生命がメンテナンス性、安全性、そして堅牢性に優れ、複数のロボットを統制管理できるRPAツール「Blue Prism」と出合ったのは、このタイミングだった。同製品を展開するBlue Prism社はRPAという言葉を創出したことでも知られている。

 PoCを進める中で、重視したポイントが3つあったと拝田氏は語る。

 「1つは、普段使っているシステムに組み合わせても問題なく使えるか。ここをクリアできなければ、導入しても意味がありません。もう1つは、日本のマーケットに対してどの程度コミットしてもらえるか。細かなところまで日本語でやり取りできるかも重要なポイントです。そして最後のポイントは、先行する欧米の金融機関で実績があるかどうか。やるのであれば高いROIを目指さなくてはなりませんから、実績の豊富な企業の製品を導入したいと考えました」

 最終的に第一生命は、この3つのポイントを満たしたBlue Prismを導入した。18年4月にRPAの本格運用を開始し、徐々に適応範囲を拡大。19年末時点で約23万時間もの業務がRPAに置き換えられ、自動化が実現した。第一生命はこの数字を20年度末には約35万時間、22年度末には約45万時間にまで伸ばす予定だ。

RPA(Robotic Process Automation)の特長

RPA(Robotic Process Automation)の特長
定型業務を効率化するRPAの特長。人からロボットへと業務を自動化し、24時間365日稼働する

事例の共有が普及を加速する

 RPAの導入により、様々な業務が人の手を離れた。例えば、日々の各種営業実績の集計とリスト作成・掲示は自動化され、全国の所属長は決まった時刻になると自所属の実績が把握できるようになった。また、コールセンター業務では、切電後のお客様あて通知メール送付など、電話を切ってからの後処理を自動化。さらには、新商品開発の際に欠かせない事務システム開発上のテスト検証も効率化できた。

RPA事例紹介

コールセンターにおけるSMSを活用した保険料入金方法のご案内

保険料の口座引き去りができなかったお客様に、ペイジー入金をご案内する業務
※所定の番号を入力することで金融機関のATMやインターネットバンキングから支払うことができるサービス
【RPA事例紹介】SMSによる保険料入金方法のご案内
RPAの導入による「SMSによる保険料入金方法のご案内」業務の自動化の事例

 こうした事例を社内で積極的に共有してきたと、拝田氏は話す。

 「RPAの取り組みを進めるに当たっては、全社的な方針の策定と投資が欠かせませんが、それだけではうまくいきません。全社的な動きにしていくためには、実際にRPAツールを使う人、つまりユーザーに『やってみたい』と思ってもらう必要があるのです」

成功事例の共有により、各部門の「実感」を創出

 「現在では、保険事務部門を超えて全社的にRPAの導入が進んでいます。これは、各部門にRPAアンバサダー(推進者)を配置して、情報や成功事例を共有しながら間口を広げていったことで、『これにも使えるかもしれない』『さあ、みんなで使ってみよう』という機運が社内に生まれたからです」(櫻井氏)

 第一生命では、数字には表れにくい“実感”の社内共有も図っている。

 「仮に年に50時間しかない業務でも、もし忘れてしまった場合に他に与える影響が大きければ、その業務の存在自体がストレスになります。待ち時間が長い仕事も同様です。こうした業務を手放せることによる精神的な負担の軽減も共有することが重要だと考えています」(拝田氏)

ニューノーマルで求められる“スピード感”

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴うニューノーマルの到来は、保険業界の顧客サービスにも急速な変化を与えている。業務のデジタル変革はもはや待ったなしの状況だ。さらにその変革にスピード感を持って取り組まなければ、コロナ禍での顧客のニーズに応えることはできない。

 「第一生命社員の働き方もコロナ禍で変わりましたが、そのような状況下においても、我々の存在意義として、新型コロナウイルス感染症に感染し入院されたお客様に対して、迅速に給付金などのお支払いを進める必要があります。つまり、どのような状況下でもスピードが求められるようになったことを感じます」(拝田氏)

 スピード感が失われてはならないのは、顧客からの申出が集中した場合も同様だ。

 「よりお客様に分かりやすく、かつ対面業務と同じようにストレスなく、リモートで手続きができるような環境を作っていかないといけないでしょう。サービスが止まってしまうことのないように、安定して運用できるRPAの仕組み作りがますます必要になってきたと感じています。

 安定して運用できるか。業務が集中したときでもスムーズに対応できるRPAにできるか。それがこの先のサービス向上やお客様へのサービス提供においてダイレクトにRPAを使っていくためにはおそらく必要になってきます。そのために、Blue Prismのクラウド版、Blue Prism Cloudの導入プロジェクトを進めています」(拝田氏)

 「何かのきっかけでRPAが止まってしまうことがあれば、お客様向けのサービスにRPAを導入することに対して、非常に慎重にならざるを得ません。クラウドで安定した運用ができるようになると、それも変わってくるのかなと思います。目標の35万時間、45万時間に向けて、今までなかなか手が出せなかったところがBlue Prism Cloudで広がる可能性に期待しています」(櫻井氏)

 拝田氏は、“Growing Together with Robot”という言葉で今後のDXの方向性を示す。

 「最初から完成形は得られません。テクノロジーの進化は急速に早まっていると感じます。様々な技術やアイデアを取り込みながら、我々もロボットも一緒に成長をしていく必要があると感じています。そのためには新しい技術の導入にチャレンジしながら、私たちも学習し続ける必要があります。Blue Prismには、そうした情報発信の部分にも大いに期待しています」

 第一生命は、今後も顧客体験の向上のためにDXを推進。スピード感を持った改革を推進すべく、RPAを積極的に活用していく。