2020年1月22日、東京コンファレンスセンターにおいて、主催:日経ビジネス、協賛:日本マイクロソフト株式会社、ダイワボウ情報システム株式会社による「ワークプレイス・イノベーション2020〜これからの働き方と場所を考える〜」が開催された。一橋ビジネススクール 楠木教授の基調講演から始まり、日本マイクロソフトの働き方改革の“裏側”、ポケモン株式会社のゼロトラストへの挑戦の軌跡、クラウド時代の新しいデバイス展開手法「ゼロタッチ」をテーマとするダイワボウ情報システムの講演まで、様々な角度からワークプレイス・イノベーションに対する考察が行われた。すべての講演に対し、満員の会場から大きな拍手が送られた。

一橋ビジネススクール
教授
楠木 建

「好きこそ物の上手なれ」が
最強の仕事の論理

「競争戦略の基盤にある論理は、“違い”があるから選ばれるということです。他社に対してディファレントになることが重要であり、ベターであっても、それは戦略ではありません」と楠木氏は見解を述べ、こう問いかけた。「戦略的な意志決定を行う経営者に必要な資質とは何か」。少し間を置いて、「センスです」と楠木氏は言い切った。「スキルは育てることができる。しかしセンスは育てることができない。センスは誘因(インセンティブ)ではなく、人を行動に駆り立てる動因(ドライブ)によって生まれてくることから、“好き嫌い”に深く関わっています」

働き方の観点では、「好き嫌い」を判断基準に置くべきではないと考えるのが一般的だろう。楠木氏は、「仕事こそ、好き嫌いがものをいう」と強調する。「仕事とは、趣味ではないもの」と定義していると楠木氏は話し、「釣りは趣味です。趣味は100%自分に向いた活動で、自分さえ楽しければいい。漁師は仕事です。自分以外の誰かの役に立つ価値を提供できて、初めて仕事になります。『好きこそ物の上手なれ』が最強の仕事の論理だと思います」と説明を加える。

自分が好きな仕事をどう見つけるか。「具体的な職業カテゴリではなく、もっと抽象的なレベルで、自分の好き嫌いのツボを知ることが大切です。例えば私の場合、スポーツが嫌いで、音楽が好きです。勝ち負けがあり、ルールが明確で、一次元で順位が並ぶものが嫌いな私にとって、嫌いのツボはゲーム性です。このように抽象化を進め、最終的に行きついた私の仕事のコンセプトが『芸者』です。芸者は自ら芸を披露し、お客様が評価する。組織の中で上司が部下を評価するということではありません。このコンセプトから具体的な仕事として見えてきたのが、シンガー、学者、個人タクシーの運転手です。シンガーと学者は、私のコンセプトからすると同じものです」(楠木氏)

最後に楠木氏は、「キャリアプランニングにおいて、好き嫌いを基準に選択肢を持つことが大切です。抽象化を繰り返す中で、自分の好き嫌いのツボを見つけ出し、仕事のコンセプトを固めていくことが、働き方の理想です。そこに、仕事の醍醐味があります」とメッセージを送った。

日本マイクロソフト株式会社
Microsoft 365 ビジネス本部 製品マーケティング部
プロダクトマーケティングマネージャー
山本 築

マイクロソフトの働き方の基本は
「早く決めて、早くやる」

多くの企業にとって、他社が働き方改革をどのように推進しているのかは関心の高いテーマだろう。「マイクロソフトにおける働き方改革の目的は、生産性と創造性の向上です。出産、育児、介護など働くことに制約が生じる社員を支援するためだけでなく、全社員を対象としている点がポイントとなります。マイクロソフトの働き方の基本は『早く決めて、早くやる』ということです」と山本氏は語り出す。

日本マイクロソフトにおける働き方改革でターニングポイントとなったのは2011年の東日本大震災だった。サポート部門や営業部門はもとより全社員がリモートで業務を継続し、お客様の支援に取り組んだと山本氏は振り返り、「そのことが成功体験になりました」と話す。働き方改革の成果として2009年と2019年を比較すると、勤務時間は年間40時間削減、紙の印刷枚数は1,100万枚削減、ペーパーレス化は79%に及ぶ。「残りの20%は、お客様との関係性の中で紙文書を求められているものです。ゼロか100%かではなく、社内資料のペーパーレス化から取り組むことが大切です」(山本氏)

「いつでもどこでも業務ができる環境」構築の次にテーマとなったのが、コミュニケーション、コラボレーションを加速させることだった。「統合コミュニケーションプラットフォーム Microsoft Teams など、『早く決めて、早くやる』ためにツール面の整備も進めました」(山本氏)

日本マイクロソフトが2019年夏に就勤4日・週休3日制のトライアルを実施したことは大きなニュースとなった。山本氏はその舞台裏として「金曜日をただ休むのではなくて、本来やってみたかったことにチャレンジしてみようと、社内にアナウンスがありました。実家の豆腐屋のデジタル化、母校でのプログラミング教育の実施など、普段の仕事とは全く異なることを行う中で創造性の向上につながっていくのだと思います」と明かす。

講演終盤で山本氏は、働き方改革を支えるセキュリティをテーマに取り上げた。「モバイルワークなど柔軟な働き方が広がるのに伴い、セキュリティの境界線が物理から人へ移行しており、場所に依存しないセキュリティが求められています。マイクロソフトはIDベースのゼロトラストを提唱しています。ゼロトラストとは、あらゆるユーザー、リクエスト、サーバーを信用せず、常にチェックすること。 Microsoft 365 を使って、 Azure Active Directory の機能を利用し、条件付きアクセスを活用することでユーザー、デバイス、場所のリスクに基づき自動的にアクセス制御を行います。モバイルワークにおいてもユーザーの生産性を保ちつつ、企業の資産を守ることができます」

IDベースのゼロトラストによって、アプリケーションやデータレベルでの信頼性を構築

株式会社ポケモン
開発事業本部システム部 テクニカルディレクター
関 剛

クラウド時代に応える場所に依存しない
セキュリティの実現

ブランドマネジメントを目的として設立、ポケモンに関わる全てをプロデュースしている株式会社ポケモン。「当社における働き方の特性は、社外での業務が多いことです。またビジネスパートナーにはデザイナーやイラストレーターなどの個人事業主もおり、契約期間も様々です」と関氏は話し、業務を行ううえでの課題について言及した。「当社のコアコンピタンスであるポケモンの情報は、公表される前はすべて機密情報となります。社外での業務が多い中で、機密情報を守るのは難しい。しかし情報を制限すればいいということではありません。いかに多くのビジネスパートナーと安全に情報のやりとりを実現するか。従来の境界型セキュリティモデルでは限界がありました」

同社が着目したのが「 Microsoft 365 によるゼロトラスト」だった。「マイクロソフトが提唱するゼロトラストは物理環境ではなくIDをベースに人を境界線とします。社外での業務が多い当社にとって、社内ネットワークといった場所に依存しないセキュリティの実現は欠かせません。現在、ゼロトラストに移行中です」(関氏)。またゼロトラストのもとで、ユーザーが社内・社外を意識することなく業務を行える環境を実現するために、ITインフラのクラウドへの移行や、クラウドベースの Azure Active Directory による認証基盤の構築なども進めていると、関氏は付け加えた。

講演後半でテーマとなったのがキッティングの自動化だ。「従来、従業員が自由にPCを選択していました。しかしデバイス数が500程度を超えた段階で、キッティングや故障時の対応といった運用面に加え、定価購入によるコスト高も課題となってきました。ダイワボウ情報システムに相談したところ、 Surface Pro を Windows の標準機とし、 Windows Autopilot と Microsoft Intune を活用しキッティングを自動化する『ゼロタッチ』の提案を受け、導入しました」

ゼロタッチによりキッティングの手間から解放されたと関氏は話す。「ダイワボウ情報システムからIT部門に荷物が届き、箱を開けてPCを取り出しインターネットに接続する。IDとパスワードを入力し、シングルサインオンの2段階認証を行った後、自動的にキッティングがスタートします。従来、一台あたり手作業で2時間を要していた作業が30分に短縮できたことに加え、手作業による設定ミスもなくなりました」

関氏は今後の展望について「PC故障時に、ユーザー宛てに荷物を届けてもらい、ユーザー自身がキッティングを行い、新しいPCをすぐに利用できるゼロタッチデプロイメントを実現したい。遠い未来の話ではなく、今年の話として思い描いています」と力を込めた。

ダイワボウ情報システム株式会社
戦略商品推進部 プロモーショングループ
係長
吉道 誉史

利用者自身でインターネットを介して
自動的にセットアップ

国内外約1,200社に及ぶメーカー・サプライヤーから仕入れたIT関連商品を、国内約19,000社の販売パートナーを通じて全国各地に届ける国内最大級のディストリビューター、ダイワボウ情報システム。「日本国内に出荷しているPCの5台に1台は、当社からの出荷となります」と吉道氏は話す。国内のPC出荷で大きなシェアを持つ同社は、キッティングを自動化する「ゼロタッチ」に積極的に取り組んできた。「ゼロタッチの取り組みとしては、2016年からApple社が提供する DEP( Device Enrollment Program )、2018年から Windows Autopilot をスタートしています」

従来のイメージ展開とゼロタッチの違いについて吉道氏は説明する。「イメージ展開はマスターイメージをPCへ複製するため、特定の場所に出荷されたPCを集め、箱から取り出さなければなりません。ゼロタッチでは、情報システム部門や導入業者がクラウド上のMDMに設定しておくことで、利用者の手元に直送し、利用者自身でインターネットを介して自動的にセットアップを行うことが可能です」

ゼロタッチで、いつでも・どこでも・複数台でデバイスを利用できる環境を提供

Windows のゼロタッチは、インターネット、 Microsoft Intune 、 Azure Active Directory 、Windows Autopilot 対応デバイスが必要となる。オンプレミスの Active Directory をメインで利用しているケースも多い中、クラウド認証基盤の Azure Active Directory にすべてを移行するのは難しい。「オンプレミスの Active Directory と Azure Active Directory を連携することで、既存環境を残しつつ、 Windows Autopilot のクラウド展開を可能にします」(吉道氏)

Windows Autopilot で設定できない場合の対処法についても関氏は言及した。「 Windows 10 で無償提供している Windows 構成デザイナーを使うことにより、 Windows Autopilot で展開できない差分を補うことが可能です」

Windows Autopilot のゼロタッチにおいて、一度に多くのPCで自動的にセットアップを行う場合、アプリケーションのダウンロードなどによりネットワーク帯域を圧迫することも想定されると吉道氏は指摘する。「 Windows Autopilot のホワイトグローブ機能を利用し、予めPCにアプリケーションをインストールしておくことで、ネットワーク帯域の負荷を押さえながら展開することができます」

同社では、ゼロタッチを可能にする Windows Autopilot に対応したデバイスメーカーを12社まで拡大し、主要メーカーをほぼカバーできた。今後について吉道氏は「ビジネスパートナー様と協業し、 Windows 10 デバイスの手配から展開、運用、保守までを、サブスクリプションで提供する DaaS(Device as a Service) を実現していきます。DaaSの提供により運用負荷の軽減、IT人材不足の解消を図るとともに、働き方改革の推進に貢献していきます」と展望を述べた。

ダイワボウ情報システム

https://www.pc-daiwabo.co.jp/

ゼロタッチ総合ポータルサイト

https://www.idaten.ne.jp/portal/page/out/wmbc/zerotouchtop.html