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コロナ禍をきっかけに、日本企業の抱えるさまざまな課題が浮き彫りになった。今こそ日本企業が生まれ変わる千載一遇のチャンスであり、この機を逃すのは大きな損失だ。では経営層は在宅勤務をどう捉え、いかに生産性向上に生かすべきか。雇用環境を「ジョブ型」にしていくことの是非、アフターコロナ下における企業経営への提言など、日本経済界の論客、オリックス シニア・チェアマンの宮内義彦氏に持論を聞いた。

1935年生まれ。神戸市出身。関西学院大学商学部卒業、米ワシントン大学経営学部大学院修士課程(MBA)修了後、日綿實業(現双日)に入社。64年、オリエント・リース(現オリックス)に入社。社長室長、取締役などを経て80年、代表取締役社長・グループCEOに就任。代表取締役会長・グループCEO、取締役兼代表執行役会長・グループCEOを経て、2014年、シニア・チェアマンに

——コロナ禍の影響で、在宅勤務が一気に進みました。

もしコロナが消えてなくなったとしたら、また元の状態に返るのか。どうなるか見ものだと思います。今まで日本企業の、特にオフィスワークの生産性は欧米に比べてものすごく低かった。今回の件で1人1人が、いかに無駄が多かったかを痛切に感じたはずです。一方で、「早く元のように働きたい」という先祖返りの力も出てくると思います。

プライベートな話になりますが、身内が外資系企業に勤務しています。今回の件で全く出社せず、ほとんど家で仕事をしていました。急に環境が変わって大変だなと思ったら、もともと世界中そんな働き方だそうで、社長もスイスの本社には時々来るだけだと言います。以前からこういうワークスタイルで、コロナでより徹底しただけ。「マネジメントスタイルがえらい違うな」と驚きましたが、やはり在宅勤務は適切に導入すると効率はいいのだろうと思いましたね。

リモートワークという点で日本は世界の潮流から見て、相当遅れていました。オフィスワークの生産性向上が1つの課題になっていく中で、コロナ後はそれぞれの企業ごとに、仕事を「リモートにできるもの」と「できないもの」に仕分ける作業が必要でしょう。もちろん、対面で顔を突き合わせて真剣に議論しないと駄目な仕事もある。そこはやはりハイブリッドで、対面とリモートのいい面を取り入れていくのがいいでしょう。

リモートか、オフィスか、右か左かではなく。例えば、週に2回出社すれば十分仕事がまわるようにするとか、都心まで来なくてもいくつか都下の駅前にサテライト拠点をつくってそこで働けるようにするなど、より効率的なオフィスの配置はできるはずです。

ただ、リモートの仕事で一番難しいのは、評価の仕方だと思う。そう考えると、評価のしやすい仕事だけ、リモートワークにする企業も出てくるのではないでしょうか。会社に来なくてもいい仕事はたくさんあるが、「評価が難しいから出社せよ」となるのではないかとみています。いずれにせよ、リモートワークのできる範囲をどこまで増やせるかで、その会社の効率化への意気込みが分かると思います。

——時間管理が難しい在宅勤務が広がったことで、成果で評価する「ジョブ型雇用」への移行が日本企業で広がる可能性があります。ジョブ型雇用とは、ポジションごとに必要な経験やスキルを明確に定めた上で、最適な人材を配置することをいい、欧米などで一般的な雇用形態です。

この対義語として挙げられるのが「メンバーシップ型雇用」で、これまで日本企業ではこちらが主流でした。仕事の範囲や責任が曖昧で、昇進も給与も年功序列的な要素が残っていました。今、一部の大企業でジョブ型を取り入れようとする動きがありますが、これが広く浸透していくと思いますか。

これは、日本企業の人事関係者がこれから直面する最も大きな問題です。もしジョブ型雇用を中核に据えようとしたとき、「うちの会社に果たしてそんなことができるのかな」という企業が大部分でしょう。日本企業は新卒を一括採用して、我が社色に染め、転勤や異動、ジョブローテーションで会社を支える人材を長期的に育てる。みんなでワイワイ言いながら、「我が社命(いのち)」でやっていく。それがやや崩れてきたというのが現状だと思います。

ジョブ型に切り替えるなら、何が起こるか。まず、新卒一括採用をやめ、ジョブに合わせて専門スキルを保有した人材を採用しないといけない。今、どの仕事で人を必要としているかを見極め、経理の補助業務が3人、営業のアシスタントが2人……といったように採っていく。能力があれば、新卒か既卒かは問わない、といった採用となります。あるいは定年などという制度もなくさないといけない。

しかし、いまだに新卒一括採用をやめる大企業はほとんどない。「就職協定を違反してでも、いい人材をとりたい」と、むしろ新卒採用にこだわる会社もあります。人事部に「こういう仕事ができる人材を採れ」と具体的に指示するトップはあまりいない。「去年100人、今年は景気がいいから120人だ」とこんな感じでしょう。世界的には完全に特殊な採用の仕方です。こんな状態で、欧米式のジョブ型に変えることが本当にできるのか。

それくらいジョブ型の導入は新しいことで難しい。だからメンバーシップ型、私は「我が社命型」と言っていますが、これとジョブ型を並列させようとする企業があります。私もこの並列型を指向したこともありました。ただし、1つの会社に2系列の人事体系をつくるのは、マネージする立場から言うとそれはそれでとても難しい。

我が社命型とジョブ型は、ある意味水と油です。我が社命型は組織への高い忠誠心があるが、ジョブ型の人のほうが具体的な仕事はできる。しかし、ジョブ型は仕事への忠誠心のみで、会社へのそれは低い。プロジェクトが終わったら、それこそライバル会社に行くかもしれない。言ってみれば、プロ野球の世界みたいなもので、フリーエージェントで他のチームへ行ってしまうこともあるわけです。私はいっとき、このハイブリッド型が可能な形だと思っていましたが、実際にやってみると難しさを痛感しました。

それに、ジョブ型を徐々に増やしていくやり方では、何十年もかかってしまう。「ジョブ型、ジョブ型と周囲がうるさいから専門職でも入れるか」という程度の理解ではいつまで経っても駄目でしょう。本来であれば、ジョブ型を一気に導入して、抜本的に人事施策を見つめ直すべきですが、そうする勇気のある会社は少ないと思う。

偉そうなことを言っていますが、私がオリックスのCEOをしていたその昔、新卒一括採用だけでなく、積極的に中途採用を始めました。今のオリックスでも新卒より中途採用の方が多いのですが、新卒採用をなくすことはできませんでした。ささやかな抵抗で4月1日の入社式には出席しませんでしたが。また定年、配置転換あるいは転勤といったことにも抜本的に手を入れねばなりません。

——日本企業は変わっていけるのでしょうか。

ものすごく変わりにくい国民性ですよね。戦後復興から1980年代までの大きな成功体験があって、これまでは真面目一筋で働くという、この原則さえ貫けば勝てた。この成功体験がどうしても忘れられない。だからバブル崩壊から今に至るまで、何かおかしいぞと思いながら、ずるずると世界の中で負けていっている。成功体験を持っている人たちがいなくなり、一度も成功したことのない人が経営のトップになっている企業もありますが、それはそれで成功体験がないから、現状維持の経営になってしまっているように映ります。

会社というのは1つのコミュニティですから、一心不乱に束になってやったら強い力を発揮するのは確かです。この手法は戦後の高度成長期に威力を発揮しました。大量生産時代に最も合ったのです。みんな同じ考え方で、我が社命で進めば、勝てました。しかし、今は知識集約的な業務では、1人1人、別の考え方を持たないと成果が出ない時代です。とんでもないことをする人をうまく集めて、何か面白いことをやる。そうでないとイノベーションは起こせません。

そう考えれば、どんなに大変でも、今の人事体系をジョブ型に変えていくしかない。日本のゼネラル人材育成法では国内はもちろんグローバルの競争に勝てません。

日本企業のサラリーマンで、○○株式会社という看板を外した時に何かが残る専門性の高い人はどれほどいるのでしょうか。ジョブ型雇用とは後ろの看板をはずして、専門性で勝負することです。

——社員の側も、自己改革が必要ですね。

日本人特有の協調性や忠誠心を捨てよ、ということではありません。それもとても大切なのですが、それだけでは勝負にならない。世界で戦うためにはもっと生産性を高める必要があります。資本を十分投入して、世にないこと、より価値のあることを考え、つくり上げるには、1人1人が個人として高い専門性を持たないと駄目でしょう。今の多くの日本企業のように長年かけてセミプロをつくっていく集団では、それはなかなか実現できません。

会社から必要とされる人材でいるためには、自己研鑽をして専門性を高めるしかない。これをやらせたら誰にも負けないというものがないと生き残れない。この会社にいたら、ずっと安泰なんてとんでもない話です。

これは、下から盛り上げるものではない。ボトムからこうした改革は起こりません。これはトップダウンでやるしかない。我が社命という社員に、「命までかけなくていいから、もっと専門性の高い仕事を身につけろ」と言うのは、結構な大仕事ですよ。ただ、日本企業のビジネスパーソンは極めて理解力が高いですから、こうするという具体的な目標をトップが示せば変わると思いますよ。

——トップが変われば、変わる可能性もあるわけですね。

そう、思い切ったことのできる経営者が出るか出ないかですよ。出たら、その企業は勝つはずです。出なければ衰退するだけです。

——この機会をとらえて、新しい社会をつくろうという気概のある経営者は出現するでしょうか。

日本のエスタブリッシュメントというか、いわゆる伝統的な大企業にはそうした人材を選抜するシステムづくりが求められます。期待できるとしたら、オーナー企業やスタートアップ企業でしょう。

大企業からそうした人材を輩出するには、ガバナンスを変えて、今までのようなトラディショナルな人材供給でトップを選ぶのではなく、従来にない発想を持った人を選べるシステムをつくることが先決です。無難な人が次々にバトンタッチしていくようでは、改善はできても改革はできません。

社内を見渡せば、そういう人は必ずいるはず。今まではそうした「出る杭」のような人はトップになれなかったのです。そんなトップを3代続けたら、相当変わりますよ。いきなりは無理でしょうから、スピード感のある段階を踏んで変えていくことです。

経営者目線では、ジョブ型はとても運営が難しい。会社に対する忠誠心を育てにくいですからね。「我が社命」という人がいなくなったら、どうするのか、と。これまで我が社命ではない人を中心に集めて、会社の業績をよくしていった経験がないわけです。我が社命型を集めた組織のほうがある意味、楽に経営できた。経営者は楽をしてきたわけです。「みんながんばろう、ワッショイ、ワッショイ」と言いながら、ときどき一杯飲んでね。これからはしち難しい専門家を大勢集めて、彼らが意欲を失わないように組織を動かさないといけない。

それには、経営者にも今までとは全く違ったスキルが必要です。私は、究極は人事体制を日本的メンバーシップ型から欧米式ジョブ型に変更するのではなく、日本的なジョブ型人事を目指すべきだと考えます。会社が冷たいプロフェッショナル集団化するのではなく、企業の社会的責任を十分理解し、会社を核としてそれと繋がる個々の専門性を活かせるような新しい日本的経営、企業の競争力と責任を自覚した日本的雇用を生み出すべきだと考えています。

ジョブ型への転換は、ビッグテーマです。経営のやり方を抜本的に変えるかどうかという話ですからね。突き詰めていったら、日本の企業社会が十分競争力を持ったものに変わってしまう。もっとも変わっていいと思うし、大変でもやらないといけません。

——ジョブ型を導入する場合、どんなステップで、何を考えていったらいいでしょうか。

かなり複雑なステップを踏まないと、うまくいかないと思います。人事施策としてとても難しい。これだけ確固たるものを一度に変えるのは無理で、漸進的に取り組む必要がある。その一方で、のんびり構えては駄目。矛盾しているようですが、可及的速やかにやらないといけない。企業ごとに事情は異なると思いますが、現時点で大きく後れをとっている企業こそ覚悟を決めて、何年以内という明確な目標を立て、きっちりしたロードマップをつくってやり通すことでしょう。これから日本企業にどんな変化が生まれるのか、楽しみです。

事例紹介

事例 01フォトシンス

これからのオフィスに求められる新たな労務管理 コロナ以後の遠隔ワークを支える
オフィス管理の新常識

株式会社フォトシンス
セールス・マーケティング部 部長
板倉 大樹 氏

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事例 02大塚商会

さまざまな企業のニーズに合わせた
最適なテレワーク環境を構築 
“今を凌ぐための働き方”ではなく
“今を機に変える働き方”とは

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事例 03e-janネットワークス

高度なセキュリティと自由度で
1,300社65万ユーザーを獲得
優れたテレワーク環境で変わるオフィスの役割

e-Janネットワークス株式会社
代表取締役
坂本 史郎 氏

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