コロナ禍で浮き彫りになる人材育成の課題と可能性
人と企業を成長させる研修のあり方とは
~リモートワーク時代のオンラインスキルアップソリューション特別座談会~

コロナウイルス感染拡大を受け、大きく変わったニッポンの働き方。研修においても対面型や集合型は難しくなり、一気にオンライン化が進んだ。ウィズコロナにおいて、企業は今どんな取り組みをしているのか。また、そこで得られた知見をポストコロナにどう生かしていくのか。ここでは日本イーラーニングコンソシアムの加藤憲治会長をはじめ、オンライン研修を積極的に取り入れてきた日立製作所、日本生命保険、アステラス製薬の各キーパーソンによるオンライン座談会の様子を紹介する。
(モデレーター:マイクロラーニングコンソシアム代表理事 川口泰司氏)

オンラインとオフラインの逆転現象
教育・研修のトレンドを読み解く

マイクロラーニングコンソシアム
代表理事
川口 泰司 氏
※本取材はテレビ会議システムを活用し、実施しました

川口 コロナ禍で一気に加速した、企業研修のデジタルトランスフォーメーション。その背景にある、オンライン研修を取り巻くトレンドについて、まずはじめに、日本イーラーニングコンソシアムの加藤会長にお聞きします。

加藤 世界のeラーニングマーケットは、2019年で約20兆円。対して日本市場は個人向けを含む総額で2354億円、法人市場だけだと690億円弱※と、まだまだ小さいのが現状です。ただし、前年度比では7.7%の伸びを示しており、このコロナ禍でさらに大きなパラダイムシフトが起きているのも事実です。従来はオフライン7割:オンライン3割で行われていた研修も、3:7と逆転しつつあります。これにより移動および会場準備にかかる時間や費用が大幅に削減され、新たな人材育成投資の余地も生まれました。また、オンライン研修によるコンテンツの多様化や学習支援機能により、学習活動のきめ細かな記録や分析に基づいた個別最適学習の実現なども期待されています。一方で、スマートフォンを使った学習のモバイル化も進み、ICTとeラーニングプラットフォームは、教える側と学習する側の単なるコミュニケーションツールではなく、⼈材育成において不可⽋な基盤、環境となっていくでしょう。

※矢野経済研究所調べ

特定非営利活動法人
日本イーラーニングコンソシアム
会長 
加藤 憲治 氏
※本取材はテレビ会議システムを活用し、実施しました

川口 日本のeラーニング市場が海外に比べて伸びなかったのはなぜですか。

加藤 一つところに集まって師に教えを請う、昔ながらの寺子屋的教育思想が根強かったためでしょう。ただ、これからはそうも言っていられません。アメリカでeラーニングが急速に伸びたのは、2002年といわれています。2001年の9.11を機に移動が制限された結果、いや応なしに教育のオンライン化が始まったんですね。今日本をはじめ、世界中でそれが起こっているということです。

加速する企業研修のデジタル化
コロナ禍における各社の取り組み

川口 急速なデジタル化で環境整備に追われる企業が多いなか、日立製作所様では2015年からラーニングマネジメントシステム(以下LMS)「Hitachi University」をグローバルで活用されています。その取り組みをご紹介いただけますか。

株式会社日立製作所 
アプリケーションクラウドサービス事業部 
アプリケーション第1部 
⼩橋 岳史 氏
※本取材はテレビ会議システムを活用し、実施しました

小橋 当社は、ここ10年ほどの間、社会イノベーション事業をグローバルに展開していくという事業戦略を取っています。事業戦略が変われば、求められる組織も人材も変わる。グローバル全体での組織能力の向上が必要となったことから、多言語でグローバルに一斉配信できる「Hitachi University」を導入しました。このLMSで目指すのは、成長するために学び続ける「学習する組織」の構築です。基盤となる共通の学習に加え、各々の組織・個人に求められる知識・スキル・経験を明確にし、それらをタイムリーに充足させる環境づくりを重視しています。様々な研修機関が提供する研修を統合・一覧化し、集合研修やバーチャル研修、eラーニングの各研修を展開するほか、これらのブレンディングにも対応するなど、あらゆる研修をシステム上でカバー。部下の受講状況を一覧できるので人材マネジメントツールとしても活用できるなど、多彩な特長を備えています。

「Hitachi University」の導入を通し、「学習する組織」の構築を目指す

川口 コロナの状況とは関係なく、教育のデジタル化、グローバル化を進めてきたわけですね。

小橋 もちろん、コロナ禍での変化もあります。国内での技術者教育など、実技や対面コミュニケーションが必須であった研修は急遽設計の見直しが必要となり、今後の教育のあり方も含めた新たな取り組みを模索しているところです。

川口 対面重視という意味では、その最たるビジネスモデルを持つのが生命保険会社です。ウィズコロナにおける教育について、日本生命様の取り組みをお聞かせください。

井上 ご承知の通り、我々の強みは5万人の職員を活用した対面によるリテール営業です。とはいえ、現在の環境下ではお客様と会って営業することも職場を訪問することも機会が以前よりも少なくなってきています。目下の課題は、デジタルを使っていかにお客様へのコンサルティングを実現していくか。そのためにタブレット端末やお客様向けツールの見直しを行うと同時に、双方向ラーニングプラットフォーム「UMU(ユーム)」を活用した研修や社内コミュニケーションを図っています。

日本生命保険相互会社 
商品開発部営業開発G 
井上 晴雄 氏
※本取材はテレビ会議システムを活用し、実施しました

日本生命保険相互会社 
営業教育部 
⽯垣 雄⼀朗 氏
※本取材はテレビ会議システムを活用し、実施しました

石垣 拠点で行う朝礼について、在宅勤務時はUMUを活用したオンライン開催に取り組み始めています。また、本社や各支社で実施していた集合研修も、各所属に配備しているタブレットや職員に貸与しているスマートフォンを使った、UMUによるオンライン研修に切り替えています。

井上 研修のデジタル化やUMUの導入は以前から検討していたことですが、コロナで加速度的に進みましたね。急激な変化ではありましたが、UMUはITが苦手な職員にも使いやすく、また教材や研修状況、テスト結果がデータで蓄積されることで進捗や成果が可視化され、本部からの直接指導も行いやすくなりました。

川口 アステラス製薬様も、この4月から本格的にオンライン学習を開始されていますね。

岩崎 製薬会社のMR(医薬情報担当者)は、非常に専門的かつ個別の知識が求められます。したがって、画一的な全社教育だけでは限界があり、以前からアダプティブラーニングの可能性を模索してきました。その実現には多彩な学習ライブラリーが不可欠で、多岐にわたる知識を個別に習得するにはマイクロラーニングの仕組みが最適だと考えた次第です。

アステラス製薬が推進する学習デザインのあり方

アステラス製薬株式会社
営業本部 
コマーシャルラーニング&デベロップメント部
研修企画グループ
岩崎 雅彦 氏
※本取材はテレビ会議システムを活用し、実施しました

岩崎 個々に必要な知識・スキルを主体的に高めるには、動機付けが最も重要なトリガーです。ひとつは「活動における必要性」、つまり、顧客に説明する内容や質疑内容をあらかじめ学んでおこうという動機。もうひとつに、自分の強み・弱みを客観的に把握し、その伸長や改善を図る「成長における必要性」があります。この2つをテコに知識習得と実践を繰り返すことで、学びを定着させ、行動変容を促していくのが我々の目指す学習デザインのあり方です。この動機付けの工夫のひとつに「Daily QA」があります。10問の問題を毎日配信しているのですが、当初の想定以上に多くの方が高頻度で実施してくれています。

オンライン研修における課題と
ポストコロナを見据えた学びの改革

川口 コロナ禍により急速に進展する教育研修のデジタル化。ここからは、その過程で生まれた課題や気づき、ポストコロナに向けた展望についてお話をうかがいたいと思います。

小橋 日立製作所は、来年度以降も在宅勤務をベースとした働き方改革を推進していきます。その先にあるのは、ジョブ型人材マネジメントへの転換です。それらを前提として、まず急務となるのはオンライン学習のさらなる拡充です。研修の設計やファシリテーションのあり方も含めて見直していく必要があります。またジョブ型となれば、現在もしくは将来の就きたいポジションに必要となる新しいスキル・学習を各従業員がより自発的に学んでいくことが求められるので、そのために必要な学びをHitachi Universityを通じて促進できる環境をさらに整えていきたいと思っています。小橋個人としては、マイクロラーニングの活用や学習者に対する効果測定機能、レコメンド機能などを取り入れるなどし、個人に最適化されたアダプティブラーニングの環境を整えることも重要だと考えています。

井上 日本生命では、教育における3点の強化を目指しています。ひとつは「質の向上」、次に「量の増加」、そして「パーソナライズ化」です。これらを実現するために、まず従来は紙媒体と集合研修で行っていた知識インプット型の研修を、今後は徐々にデジタルに移行します。各自がマイクロラーニングで知識を習得し、メンバーが集まるオンライン研修ではアウトプットに時間をかけることで学習の「質の向上」を図ります。UMUを介した動画コンテンツや教材の配信、AI評価に基づくロールプレイング動画の提出やフィードバックなどを定期的に行うことで、「教育の量」も担保していきます。また「パーソナライズ化」については、デジタルで可視化された研修成果をもとに、個別最適学習をシステム的に行えるようにしたいと考えています。学習データやAIを活用することで、教育を高度化し、営業職員のコンサルティング能力をより一層向上させていくのが狙いです。

教育アプリの多角的な利用により、顧客へのコンサルティング力向上を推進

岩崎 コロナを機に、従来の集合研修も Skype でのオンライン研修で実施せざるを得ない状況が続き、受講者側も慣れてきたようです。オンラインならではのアドバンテージは、営業所単位などの物理的な“箱”にとらわれずにレベル別や目的別といったフレキシブルな研修が実施できることで、アダプティブラーニングには欠かせません。この機会を活用して一気にオンラインへのシフトを加速させたいですね。一方で、従来の課題であったアダプティブラーニングに関しては、学習者個人の能力をどう可視化するかについてはいまだ試行錯誤しています。今はテスト結果やチェックシートによる自己診断にとどまっていますが、その他のデータやこれから蓄積されていくマイクロラーニングの膨大な学習データをいかに有効活用していくかが、目前のテーマですね。

ICTを活用した新しい学び方が
働き方の改革につながる

川口 集合研修からオンライン研修へ。本日の各社のお話からも分かるように、オンライン優勢の逆転現象は日本でもすでに起こっており、その有効性も広く認知されつつあるようですね。

加藤 集合研修であろうとeラーニングであろうと、学習者にきちんと役立つものでなければ決して活用はされません。研修ツールは、それを提供する企業側の都合だけでなく、学習者自身のメリットを考えた使いやすい設計であることが基本中の基本。その意味では、本日お話しいただいた各社の研修プログラムは学ぶ人の理にかなったものであり、将来の人材育成に大きく貢献していくものだといえるでしょう。また、今の新人は幼少期からインターネットやスマートフォンに慣れ親しんでいることから、新世代に向けた新しい研修方法を考えていく必要もあると思います。今後、日本でもジョブ型雇用を推進する企業は増えていくと予想されますが、それを実現する大前提となるのが、上司と部下のきめ細かな対話。教育やコミュニケーションのデジタル化は、その大きな一助となるはずです。ICTを活用した新しい学び方、働き方をこれからも追求し続けていきたいですね。