まず推進決議で内外に検討結果を宣言
再生の方向性固め、パートナー選びへ

耐震性の不足しているマンションや外壁落下の危険があるマンションは災害時に周囲まで被害を及ばしかねない。老朽化マンションのストック増は、いまや社会課題だ。制度を整備する国も事業面で協力する民間デベロッパーも、その解決に乗り出している。では当事者である区分所有者は、どう対応すればいいのか――。マンション問題に詳しい国土交通省国土技術政策総合研究所住宅研究部長の長谷川洋氏の元に教えを請いに出掛けた。

国土交通省
国土技術政策総合研究所
住宅研究部長
長谷川 洋 氏

老朽化マンションの概況を尋ねると、あるわ、あるわ、築年の古い「高経年」マンションは膨大な数に上ることが分かった。長谷川氏が見せてくれたのは、そのストックを築年数単位で整理したグラフだ(図1)。

これによれば、2018年末時点で築40年超のマンションは80万戸強。それが10年たつと、倍以上の約198万戸に、さらに10年たつと、4倍以上の約367万戸に膨れ上がる、と推計される。

築年の古いマンションではどのような問題が起きるのか。

長谷川氏は「ハード面で心配されるのは、外壁のひびや設備の陳腐化など建物の物理的・社会的な老朽化です。居住者はもちろん、周辺住民の生命・身体にも危険を及ぼす恐れのあるものが、すでに発生し始めています」と指摘する。

ハードとソフトの「老い」が
老朽化と管理不全の悪循環へ

耐震性の不足は、その典型なのだろう。建物の耐震設計は地震被害の積み重ねの中で進化してきたと聞く。昔の基準上は問題なくても、いまの基準に照らせば、耐震性に欠ける建物は多い。

長谷川氏は続いて、ソフト面での問題も指摘する。「居住者の高齢化です。築40年超のマンションでは60歳以上が居住者の半数以上を占めるといいます。同時に非居住化が進み、賃貸住戸や空き家が増えます。管理組合の運営が適正でなくなる恐れがあります」。

なるほど、確かに周囲を見渡しても、そうだ。しかもこの2つの問題は、互いに絡み合うという。「管理組合の運営が適正でなくなれば、建物の老朽化がさらに進み、そうなると非居住化にも一段と拍車がかかります」。

この悪循環に陥ってしまうと、それを断ち切るのは骨が折れそうだ。早いうちに第一歩を踏み出すことが、マンション再生のポイントと言えるだろう。

とはいえ現実を見ると、再生手段として想定する建替えはそう簡単ではなさそうだ。

調べていくと、建替え件数の推移を示したグラフを見付けた(図2)。これを見ると、件数は着実に増えてはいるものの、工事完了済みは2019年4月時点で244件。住戸数で約1万9200戸という。築年の古いマンションのストックに比べれば、微々たるものだ。

しかし、希望はある。

5分の4以上の建替え決議後
マンション建替法で手続きへ

老朽化マンション問題への国の取り組みを尋ねると、管理適正化や再生支援という2つの側面から、さまざまな手を打ってきていることが分かった(図3)。これらをうまく活用すれば、建替えも夢ではなさそうだ。

この図で注目すべきは、区分所有法とマンション建替法である。

区分所有法は、建替えを進めるうえで一つの大きな節目になる建替え決議について規定している。必要な賛成数は、区分所有者と議決権それぞれの5分の4以上。ハードルは低くない。

マンション建替法は、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」という名称が正式のもの。2002年12月に施行された。図2から分かるように、建替え事例では最近、この法律に基づく「法定建替え」が増えてきている。

もちろん、マンション建替法の施行前から建替えは行われている。そこで利用されてきたのは、全員同意を原則とする「等価交換」という手法だ。図4は、それを示したものだ。全員同意であれば、マンション建替法のような手続きを定めた法律がなくても、建替えを進めることができる。

しかし、全員同意のハードルはあまりに高い。また等価交換型建替えで余剰床の創出と売却が可能になるマンションは限られてくるという。

そこで重要になることが2つある、と長谷川氏は指摘する。一つは、再生の方向性を共有していく合意形成の進め方。もう一つは、事業協力者の存在である。そもそも区分所有者だけで建替えを行うことは無理がある。建替えには専門的な知識が必要なうえ、莫大な費用負担も生じるからだ。

では具体的にどう進めていけばいいのか。マンション建替法に基づく事業の流れは、図5の通りだ。長谷川氏はここで、「準備・検討・計画」から「建替え決議(区分所有法)」に至るまでの流れを、さらに2つに分ける。

「第1段階は、再生の手段を建替えに限定せず、改修や修繕による延命も含め、幅広く検討する段階です。ゴールとして見すえるのは、再生手段の推進決議です。第2段階は、そこから先、パートナーを探して、その再生手段の実施を決議する段階です」

建替え決議を目指すにしても
改修・修繕を含め幅広く検討

第1段階では、推進決議が重要な役目を担うという。確かに、推進決議は法的な位置づけは持たないものの、建替えに限っても多くの事例で見られる。

「建替え推進決議を例に言えば、管理組合の意識レベルを上げる意義があるだけでなく、事業協力者に向けて検討の熟度を示すことで、事業性の見通しを与えるという意義も見込めます」

建替え推進決議では、どの程度の賛成を必要とするのか。長谷川氏は「建替え決議では5分の4以上を求めています。それとの整合を考えると、できれば同じ5分の4以上、最低でも4分の3以上は必要でしょう」とみる。

この段階でわざわざ改修や修繕まで含めた幅広い検討を行うのには、将来を見すえた理由がある。

「再生の手段として建替えを選択し、最終的に建替え決議を目指す場合、その招集通知には建替えを必要とする理由を明記する必要があります。それには、改修や修繕との比較が不可欠です」

第2段階では、事業協力者になるパートナー選びに留意したい。相手を決めるにあたって見極めのポイントになるのは、どのような点なのだろう。

長谷川氏は「管理組合と同じ価値観で事業に臨めるか否かが重要です。経済性を優先してしまいがちですが、それだけではないはず。管理組合としてどういう方向の再生を望むのか、まずそれを見定める必要があります。そのうえで、その方向性を共有できるか否かを見極めることが重要です」と強調する。

なるほど、そうか。手段はともかく、区分所有者としてどういうマンション再生を望むのか、まずそこから思い描く必要があるのか。パートナー選びでは、それが一つの重要な評価軸になりそうだ。

マンション再生への選択肢は幅広い

マンション建替法では建替え事業とともに敷地売却事業が規定されている。耐震性不足から除却の必要性を認定されたマンションを買受人に売却する事業だ。敷地売却決議は5分の4以上の賛成を必要とする。

長谷川氏はこの制度の意義をこう指摘する。「建替えは、区分所有者がそのまま事業に参画することを前提に建物の計画を作成します。そのため、賛成できない人の巻き込みに労力を必要とします。しかし敷地売却であれば、そこまで労力を必要としません」。

買受人が敷地に分譲マンションを建設するのであれば、分配金を元手に再取得も可能だ。建替えとは別の形で、マンションの再生と生活の一新を図ることができる。

今後、「大都市の郊外や地方都市の中心部でも、その活用が見込める」と長谷川氏は指摘する。東京都心ほど建替え事業の環境に恵まれない場所では、敷地売却による再生が中心になってくるのではないか、という。

なお、今年6月に公布された改正マンション建替法には、除却の必要性が認定されるマンションに、外壁落下の危険や火災安全に問題のあるものも加わった。この改正法は2021年12月までに施行される見通しだ。

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