独自システム開発し5時間の作業を5分に高速化
若手の採用にもつながる砂子組のICT改革

写真:吉田サトル

建設物の図面が紙だったり、現場での手作業が多かったり、ICT化が進みづらいといわれる建設業界。国土交通省は建設生産プロセスにおけるICT導入「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を推進しているが、現場への浸透には時間がかかっている。そんななか、中小企業でありながらICTを導入し、業務効率化を実現させた建設会社がある。北海道で建築・土木業を営む砂子組(北海道奈井江町)だ。独自システムの開発や、図面の三次元化など積極的に取り組み、作業の高速化・効率化を実現。それに加え、若手社員の採用数増加や離職率低下にもつながっている。多くの会社が視察に訪れ、今や業界をけん引する存在になっている砂子組の砂子邦弘社長と、真坂紀至・ICT施工推進室室長に話を聞いた。

砂子組は1962年に砂子邦弘社長の父が設立。北海道を中心に公共事業をメインとした建築・土木事業を営んできた。94年、カリスマ的な創業者だった父から会社を引き継いだ砂子社長は、「自分には父と同じような会社経営はできないし、したくはない」という思いがあった。

砂子組の砂子邦弘社長。創業者の父から承継し、自分なりの経営観として若手を大事に育ててきた

写真:吉田サトル

自分なりの経営を模索しながら、「新しい分野への挑戦には具体的な行動が必要」と考えた砂子社長は、2009年頃から、「情報化施工」に注目。情報化施工とは、電子情報を収集・活用し、高効率・高精度な施工の実現を指す。「今後、建設業界でも必ずICTが必要になる。中小企業にはまだ早いという雰囲気ではあるが、とにかくやってみよう」と考えた。

大きな業務改善が狙いだったわけではない。ただ、「建設業は現場が命。そこで働く社員たちの負荷を少しでも減らせるように会社として体制を整えるべき」という思いからだった。

当初は、最新技術に興味を持つ一部の有志の力に頼っていたが、活動はここ10年ほどずっと続けている。思い切って専属の部署をつくろうと砂子社長が決断し、16年にICT施工推進室を設立。ソフト会社での勤務経験があった真坂紀至氏に室長を任せた。現在、ICT施工推進室には9人のメンバーが在籍し、うち3人が土木部との兼務、6人は専属メンバーだ。専属メンバーは異業種や建設現場の経験がない。三次元データ作成や様々な業務をこなすバックアップ専門だ。

ICT施工推進室の最初の取り組みは、土木工事におけるICT施工を行うための図面の三次元化だった。それまで主流だった紙に描いた二次元の平面図では、ベテランの技術者であっても実際の土木構造物の完成形をイメージしづらいという。

土木工事において使われる建設機械の操縦は従来、二次元図面を参考にしながら、運転手の経験や勘に頼るところが大きかった。しかしICT対応建設機械は、あらかじめ三次元データを読み込ませることで、例えば、設計図以上の深さまで掘らないように動きを制御する。そのため経験の浅い運転手でも間違わずに操縦できる。現在、砂子組の土木現場ではほとんどの工事で三次元データを関係者全員で共有し、それを活用できる建設機械を導入している。

検査工程を簡略化するためシステムを自社開発

15年には建築工事において独自の検査システムを開発した。課題があったのは、建築物の検査の工程。システムを導入する前は、例えばマンションの場合、現場の社員たちが一部屋ずつ検査する際に「サッシに傷がある」「壁の塗装が剥げている」など、不具合を一つ一つ紙に手書きで記入していた。

記入した用紙は多いときは一部屋で5~6枚にもなった。これをコピーして、1項目ずつ指示先の業者ごとに別の色のマーカーをつけて、切り出す。そして、壁の不具合は壁業者、サッシの不具合はサッシ業者とそれぞれの担当会社にフィードバックするために、別の用紙に張り直す。10社分の不具合があれば、一部屋で50~60枚になることもあった。

「18時くらいに現場で検査が終わった後、一斉に5人くらいでこの作業に取り掛かる。コピーする人、マーカーを付ける人、仕分けする人と分担しても5~6時間かかっていた。検査は納品直前の忙しさのピークのときに実施する工程。現場の社員たちはへとへとになっていた」と真坂氏は話す。

この作業を高速化できないかと考え、真坂氏は市販のツールを探したが見当たらなかったために、自社で開発すると決めた。

経済産業省の「ものづくり補助金」を活用し、約半年でテスト版をリリース。システム構築の初期費用は約700万円だった。

砂子組が自社開発したシステムの画面。タブレットで管理することで作業の大幅な高速化を実現。一番忙しい時期の作業を短くすることで、遅くまで残業する機会を減らせた

「とにかく現場での使い勝手の良さ、スムーズさを重視した。難しい要件定義はしていない。インターフェースにこだわると挙動が遅くなり、システム開発費も高くなる」(真坂氏)

検査する建築物の図面をあらかじめスキャンしてシステムに取り込んでおくと、図面上の検査箇所に番号が表示される。検査する社員は検査のときにタブレットを持ち込み、システム上で不具合の箇所に内容を入力していく。検査終了後、印刷ボタンを押すと不具合のリストが出力できる。すべての業者分を出力することも、特定の業者ごとに出力することもできる。その時間はおよそ5~10分。それまで5~6時間かかっていたのがウソのように大幅に作業時間が削減された。

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