その“常識”がムダを生む
生産性改善は頭の切り替え一つ

様々な企業の現場を取材し、時にはコンサルティングも手掛けてきた日経BP総合研究所が、現場で見つけた具体例を基に“常識”を疑って生産性改善をする方法を紹介する。大がかりな投資や、高度な知識や技術は必要ない。むしろ素人目線を持ち続けたほうがいい結果を生むことが多い。

日経BP総合研究所
主席研究員
サステナブル経営ラボ所長
杉山 俊幸

コンサルティングを通じて多くの現場にかかわると、初めて見た現場でも、ムダを生んでいる場所が見えるようになります。そうしたムダを取り除いて生産性を高めるには、まず、時間がかかっている作業、ミスが起こりやすい作業を見つけることです。そして、そうした作業を見つけたら、「なぜ、この作業方法なのか」を現場で働く人に確認します。当たり前の行動に見えますが、本当にこれだけです。ここで明確な理由が示されなかったり、「昔からこうだったから」といった答えが出てきたりしたら改善のチャンス到来です。

こういう回答の場合は、ほかの誰に聞いても明確な根拠がなく、昔に作成されたマニュアルや規則、習慣で決まった方法を続けているケースがほとんどだからです。こうした作業の見直しには、大掛かりな設備投資も、大規模なレイアウト変更も不要。すぐに改善できるうえに、現場で働く人の作業負荷を軽減できます。以下に、そのような事例を紹介します。(分かりやすくするために、実際の現場と一部条件を変更していたり、省略していたりする部分があります。根本的な原因とその改善方法についてはまったく変更していません)

事例1

食品工場の壁に穴を開けて毎日6時間分の作業をゼロに

最初の事例は、年商7億円ほどの、食品メーカーです。加熱された食品をそのままパックに充填する「ホットパック充填」という手法でおいしさをキープすることに長けた工場で、HACCP認証も取得しており衛生管理も行き届いていました。

食品がパックに充填されてから、保管用の冷蔵庫に運ばれるまでの工程を順番に書き記すと、

1:冷却用プールに投入する
2:温度が下がったタイミングで、冷却プールから取り出し、台車に載せたカゴに詰める
3:台車ごと、ドアで仕切られた隣の部屋に移動させる
4:カゴからパックを降ろし、水気を拭きとってから、コンベアに載せる
5:コンベアの先にある金属探知機で検査する
6:検査が終わったパックを再び台車に載せたカゴに詰める

となります。

この工程のために、3人の従業員が専属で2時間つきっきりで作業していました。3人×2時間で6時間分の労働力です。大事なのは、ここで、商品であるパックに付加価値を加える作業がほとんどないことです。具体的には、4の「水気を拭きとる」と、5の「金属探知機で検査」だけです。それ以外の4つの工程は、パックをカゴに詰めたり移動させたりしているだけで、何も付加価値を加えられていません。

カゴに詰めたり、降ろしたりという作業は、1個当たりであれば1秒や2秒程度の短いものです。家庭では気にするものではありません。ですが、工場や店舗では、同じ作業を何百回、何千回と繰り返します。それが毎日続くのです。「塵も積もれば山となる」でこうした小さなムダの積み重ねが、大きなムダになります。

この食品メーカーでも目線は同じ。小さなムダの積み重ねでここにつきっきりになっている3人を何とかしたい、と考えました。そこで最初に聞いたのが、「なぜ、カゴに載せ替えて運搬しているのか。簡単なコンベアで流すだけで、1人か2人は少なくてすむのではないか」というものでした。

工場長の回答はこうです。「衛生管理の観点から、プールがある部屋と検査する部屋を、扉で仕切らないといけない。だから、コンベアは通せない」。

この回答を聞いた私の対応は、「部屋を仕切らなければいけないのは分かる。だったら、壁にコンベアを通せる穴を開けよう。フタをつければ衛生管理上も問題ないから」というものでした。工場長も社長も呆気に取られていましたが、私は別の工場で、より簡素な仕切りのみで衛生管理している現場を知っています。そこも厳しい衛生管理の認証を取得していたし、食中毒などもありません。だから、確信を持って提案したのです。

半信半疑の工場長が、衛生管理を任せている企業に問い合わせたところあっさりOKが出たと驚いていましたが、これは事例を知っているかどうかだけです。「仕切りが必要だから、壁に穴など以ての外」と最初から検討したこともないのです。

こうして、壁に穴が開き、蓋を取り付け、コンベアを通しました。投資費用は約100万円。そうすることで、これまで6段階に分かれていた作業は、

1:冷却用プールに投入する
2:温度が下がったタイミングで、冷却プールから取り出し、コンベアに載せる
3:コンベアの先にある金属探知機で検査する
4:検査が終わったパックを再び台車に載せたカゴに詰める

の4段階に変わりました。コンベアで運ばれる間に水が落ちるので、拭く必要もなくなりました。結果として、専属で配置していた3人全員の仕事がなくなりました。もちろんクビにはしません。他の部署で活躍してもらいます。3人をここに投入する人件費を計算すると、1年間で200万円。投資費用は半年で回収できると社長も喜んでくれました。誰も不幸にならないカイゼンです。

最初こそ現場は疑っていましたが、実際に進めると「なんでこんな簡単なことに気づかなかったのか?」という反応に変化。現場の負担もなく、結果が数字に表れるので、社長と工場長も満足し信頼してもらえました。その結果、ほかのカイゼン策も順調に進むきっかけとなりました。

事例2

分業制をやめるだけで必要人員が大幅に減る

2つ目の事例は、関西にあるメーカー。年商は約20億円です。課題は、通信販売で売れた商品の出荷作業。すべて自社の倉庫から宅配便を使って発送します。

これまでは分業制で、出荷用に集めてきた商品を

1:コンベアに載せる人
2:段ボールに入れる人
3:検品して封をする人

に分かれていました。つまり、1つのラインを動かすのに3人が必要でした。(厳密には、2人や1人でもラインを動かせるが、3人で作業する前提なので、ムダが多く効率は大きく落ちる)

そこで、現場でシンプルに、「セル生産をしよう。それだけで何人か不要になる」と提案しました。セル生産とは、分業制や流れ作業のように、1人が特定の作業をし続けるのではなく、複数の作業をこなす作業者がたくさんいる状態を指します。ここでは、1人で必要な商品を手元に集め、段ボールに詰め、検品をして封をする人になります。

セル生産の強みは、流れ作業では当たり前に起こるムダを排除できる点にあります。それは、作業者間の作業能力の差によって生じるムダ。例えば、この現場であれば、コンベアに載せる人が新人で遅かったり、載せる商品を間違えたりすると、本人だけでなく、後工程の2人も作業が止まります。1人のトラブルが、ラインの関係者全体に影響してしまうのです。これも1つ目の事例と同様、1回の作業での1秒や2秒といった小さなムダが、1日単位、1年単位だと大きなムダを生みます。

しかし、この現場では最初まったく受け入れられませんでした。管理職も現場の作業者も、「そのやり方は、以前やっていた。効率が悪いから今の形になった。だから、やる意味がない」と口を揃えます。セル生産の考え方自体は理解しているのに、これまでの自分たちの経験から自社には合わないと決めつけていました。ただ、よくよく話を聞いてみると、まだ会社の規模が小さかった頃に、とにかく目の前の仕事をしなければいけない、と全員がガムシャラに働いた結果、セル生産に近い体制になっていた、というもの。そもそも、流れ作業によるムダが顕在化していたので、うまくセル生産を導入すれば必ず結果が出ると私は確信していました。

しかし、無理矢理導入しても、結果は出ません。だから、最初は別の現場のムダなどを見つけて取り除きつつ、説得を続けました。私がかかわると、現場が確かに楽になると感じてもらい、信頼してもらうように努めました。そして、最初の提案から半年ほど経って、ようやくラインの一部でセル生産を試してもらえることとなりました。

やったことはシンプルです。コンベアを取り除き、一人ひとりが作業するための机を入れました。段ボールに封をするガムテープやカッターも人数分購入し準備。総額は10万円ほどでしょうか。設備投資とも呼べません。もともと簡単な作業なので、特別な研修や訓練もまったくしないで始めました。

結果は最初の1カ月ではっきりと出ました。時間当たりの梱包個数が1.5倍に増えました。これまで2ライン6人で作業していた量を、4人でこなせる計算です。そして実際に、次の繁忙期は、社内応援も派遣社員も頼まずに、残業時間も昨年比で減らして乗り切ったのです。通常時は、常に2~3人減らした体制で動き続けています。全員が正社員なので、人件費換算で年間1000万円以上の効果を生んでいます。

ここまでくると、当初は嫌がっていた現場の人も「もっと早くやっておけばよかった」「今から前の形式に戻るのは嫌」と言ってくれるようになり、ラインのまま残っていた場所も、現場主導でセル生産にカイゼンしてしまいました。

事例3

実は1回減らしても精度が変わらない検品工程がたくさんある

最後の事例は出版社です。

ご存知の方も多いと思いますが、書籍や雑誌が発売される前に、「校正」という作業があります。正しい日本語を使えているか、固有名詞や数字を間違えてはいないか、といった確認をします。1冊の書籍や雑誌を、一言一句間違いがないか集中して読むことを想像してもらえれば、たくさんの労力と時間がかかる仕事だとイメージいただけるでしょう。

しかも、校正は締め切り(一般的な仕事での納期に相当)の直前に実施します。一番忙しく、疲れているタイミングで、集中力と時間を必要とする校正作業を複数回するのです。ここで取り上げる部署では、原稿を書いた本人と上司が、それぞれ3回ずつ確認していました。校正は言ってみれば「間違い探し」。より伝わりやすい文章に書き換えたり、理解を促すために写真や図を書き足したり、といった仕事ではありません。いい原稿にするためには、そうした時間も必要ですが、その時間が確保できない状態が続いていました。

そこで、「校正の回数を1回減らしましょう」と提案しました。ここでも、最初は「そんなことをして、誤字などが増えたらどうするんだ」と一喝されました。ただ、残念なことに、どれだけ一生懸命校正をしても、間違いをゼロにすることはできません。1カ月や1年という期間でみると、数件はミスをしていました。「今もゼロではない。集中力が切れている状態で確認しても、ミスを見つけられないのでは意味がない」と説得し、実際に校正作業を1回減らしました。

私の提案に声を荒げたのは、変更の結果、ミスが増えてしまう可能性を抱えることが怖かったからです。しかし、他社の事例などを参考に取り組む限り、実際には大したトラブルは起きません。

3回を2回に減らして、ミスが増えるかと言われれば、答えはNOです。目立った増加も減少もありませんでした。逆に、長ければ1回に何時間もかかっていた校正が1回減るわけですから、作業者の体力にも余裕が生まれ、よりよい原稿にするためのアイデアも作業時間も出てきました。

これは不思議なことではありません。この出版社の事例だけでなく、複数回の検査や検品をしている現場では、作業者の意識の低さがミスにつながっています。その原因は、「自分がちょっとくらいさぼっても、ほかの人が見つけてくれるはずだ」という甘えです。回数が増えれば増えるほど、その傾向は顕著になります。何回も見たからと言って精度が上がるわけではないのです。

いかがだったでしょうか。ご自身の仕事や会社にも通じるものがあったのではないでしょうか。こういったカイゼンの事例には共通点があります。それは工場・オフィスどちらの仕事でも変わりません。

一般論や、他社の事例で効果が明らかなのに、それに反発するのは、その会社に根付く常識、慣例にとらわれているからです。しかし、常識、慣例に照らすと、「変えても意味がない」「むしろ悪化する」と感じてしまう場所こそ、1つを変えてみるだけで大きなカイゼンにつながるケースが往々にしてあります。

難しいのは、最初に実行してもらうまでです。そこを乗り越えて実行すると、効果は数字でも体感でもはっきりとわかります。そして、すぐに馴染んで、先頭に立って文句を言っていた人が、「こっちのほうがいい」と賛成派に回ります。私は多くの現場で、そのような光景を目の当たりにしてきました。そして、反発しないだけでなく、ほかの改善を自主的に始める人も出てきます。

現場の間違った常識を疑い、たった一つ更新するだけで、生産性は大きく向上します。一歩を踏み出すためには、数字や科学に基づいた客観的な資料と、「実際にやってみせる」ことによる納得感の提供が大事になります。

このように、高額な設備や複雑なシステムを導入する前にできることがあります。ちょっとした改善策が現場の負担を軽くし、経営に利益をもたらします。現場が抱えているちょっとしたムダは、工場でもオフィスでも店舗でも、常識と思い込んでいる働き方や設備の中にこそ無数に転がっているのです。

COLUMN

オフィスの“常識”も疑って、生産性向上につなげよう

日経BP総合研究所の杉山が指摘するように、旧弊や常識にとらわれず「一見変えても意味がない、むしろ悪化してしまうと感じてしまう箇所こそ、そこを一つ変えてみるだけ」で大きな効果が生まれることは少なくない。

それはオフィスでも同じこと。オフィスの複合機/プリンターは、これまでほとんどレーザー方式が利用されてきた。その機種選択の際、どれだけの企業が消費電力やスピード、印刷品質、コストなどの要件を詳しく比較検討しているのだろうか。オフィスの複合機/プリンターはレーザー方式という“常識”という名の固定観念にとらわれ、レーザー方式での比較にとどまっているのではないか。

エプソンのスマートチャージは、高い生産性や印刷品質に加え、優れた環境性能も実現。管理負荷やコスト低減も可能にする。レーザー方式ではないからと、検討もしないのはもったいないだろう。

最大1分間に100枚という印刷スピードを実現しており、例えば従来機種が1分間に50枚ならば倍のスピードだ。1秒、2秒の違いでも食品工場の例のように、積み重なれば大きな差となる。特に毎日多くの社員が使う複合機/プリンターだからこそ、この差は大きい。

また、印字プロセスに熱を使わないインクジェット方式だからこそ、レーザー方式のA3カラー複合機の平均値に比べて圧倒的な省エネルギー性能を実現。レーザー方式に比べ構造がシンプルで交換部品が少なく、大容量インクカートリッジによりインクの交換頻度が少ないことも効率化につながる。

※ LX-10050MFシリーズA4横片面の場合。

レーザー方式を圧倒するその性能が可能にする業務改善や生産性向上の効果は、以下でチェック!

▲Page Top

記事一覧