日経ビジネス電子版スペシャル

ニューノーマル時代の成長戦略 ~新たな長期的価値の創造~

サステナブルな社会を創るための企業の役割

末吉竹二郎氏 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI) 特別顧問、平尾恒明氏 クレディ・スイス銀行東京支店プライベート・バンキング 日本代表、牛島慶一氏 EY Japan CCaSS(Climate Change and Sustainability Services) Leader

ニューノーマル時代の成長戦略 ~新たな長期的価値の創造~サステナブルな社会を創るための企業の役割

新型コロナウィルスの感染拡大で大きく変容した世界。
「ニューノーマル」の時代に企業やビジネスパーソンはどう適応し、成長戦略を描いていくのか。
日本を代表する大手企業トップ、著名有識者がライブで本音を語り、視聴者の質問にも答える、
「日経ビジネスLIVE」のWebセミナー(ウェビナー)シリーズ。
今回は「サステナブルな社会を創るための企業の役割」をテーマに開催された議論の模様をレポートする。

こちらの動画でWebセミナーの全編を
ご視聴いただけます。

(2020年7月15日開催)

コロナ禍、SDGs、気候危機…。問題が山積する中、企業が問われていることとは  コロナ禍、SDGs、気候危機…。問題が山積する中、企業が問われていることとは 

サステナブルな社会に向けて企業の取り組みは待ったなしの状況だが、世界はコロナ禍のまっただ中にある。まずは3氏の現状認識から聞いた。

「これまでのいろいろな制度ややり方がまったく役に立たないことが露呈した」と末吉氏。コロナ禍で、権威や常識など人々のマインドセット(物の見方)を縛ってきたものが崩壊したという。「大事なのは、真にあるべき姿を追求する自由なマインドセットです。SDGs、気候危機、コロナ禍と課題は山積だが、ビジネス界はこの新しい現実への対応を問われています」と述べた。

バングラデシュで日本の技術を伝授する自動車整備学校をソーシャルビジネスの形で設立した平尾氏によれば、同国でもコロナ禍の第一波がすでに甚大な被害を出している。「日本の4分の1の国土に1億6000万人の国民を抱え、いわば6畳一間に10~12人が暮らすような状態で、密を避けるどころではない。医療が脆弱で、感染しても病院にも行けず、ただ祈るだけ。生まれた場所が先進国か途上国かの違いで、これほどの差があっていいのか。企業はこういう現実に目を向けるべき」と訴える。

牛島氏は、「コロナ禍で人々の考え方も変わりつつあります。将来のあるべき社会像を考えるいい機会であり、まさに企業の適応力が問われている」と述べたうえで、株主価値にフォーカスせず、さまざまなステークホルダーに価値を提供すべきという流れに変わりつつあると指摘する。「昔の価値観による企業活動によって、環境問題などさまざまな弊害が顕在化しています。企業はこれまで特定のエコシステムの中で富を分配して利益を得てきたが、それが壊れ始めていて、富を再分配する仕組みも変わりつつある」という。

真のESG経営しか生き残れない「選別の時代」に 真のESG経営しか生き残れない「選別の時代」に

企業間でESG(環境・社会・ガバナンス)経営に温度差がある現状について末吉氏は、「いい加減な取り組みではビジネスパートナーに逃げられます。本気で取り組んでいる企業にしてみれば、サプライチェーンにやる気のない企業を入れたくないからです」と説明する。すでにサプライチェーンを通じて選別が始まっていて、投資家や金融市場も企業のESG対応を厳しく見るようになり、やる気のない企業は社会から退場を迫られるようになるという。「環境問題にせよ、コロナ禍にせよ、現在の混乱は短期経営の企業がいかに世の中を壊してきたかの証明だ。破壊が続けば、ビジネスさえもできなくなる」と指摘したうえで、「コロナ禍への対策は、実はSDGsやパリ協定の実現に向けた努力と重なる部分が多い。ならばすべてに効果的な対策を取っていくほうが現実的。V字回復を目指すにせよ、その先に新しい形の経済を目指し、ビジネスにもっと公共性を持たせるべきです。そういうビジネスが利益を上げられる社会・制度づくりも大切」と強調した。

平尾氏は、SDGsが目指す貧困の廃絶や世界の健康福祉の増進という面からも、途上国のコロナ禍の影響は看過できないという。「途上国を救うにはワクチン開発が不可欠。すでに多くの企業がワクチン開発に取り組んでいるが、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士によると、①開発企業は株主利益でなく公益のために取り組む、②ワクチンの研究成果はWHOで管理する、③研究成果はオープンにする、④ワクチンは世界の人々に分け隔てなく無償で与えるという姿勢が重要です。株主利益も大事だが、地球全体に利益が及ぶような経営を目指すべきではないか」と企業経営の在り方を提起した。

牛島氏は、「今後、企業には、ESGへの取り組み情報のディスクロージャー(開示)強化が求められます。消費者が食品表示ラベルを見て商品選びをするように、投資家やビジネスパートナーが企業のESG開示を見て企業を選別する時代になります。ESGに対して説明ができない企業はバリューチェーンに入れなくなる」と、企業のESGシフトを促した。

「アフターコロナにおいて新たな産業構造の再構築に資金や人を振り向けるべきだが、日本企業は危機があってもなかなか行動に移せない傾向がある」と牛島氏。欧州では経済復興を、グリーンリカバリーと称して脱炭素化に一気にかじを切ろうとしているという。「新たな社会を構築するスタート地点とするのか、それとも引き続きリスクにさらされる昔の姿に戻るのか。たとえ短期的にコスト増であっても長期的な成長基盤をどう残していくのか考える必要があります。また、そのための評価システムも重要です。環境は、R&Dやインフラと同じ。すぐに利益が出るわけではないが、そこを怠ると将来の価値創造の芽を摘んでしまう」と、重大な岐路に立っている現実を指摘した。

一人ひとりの意識改革を 一人ひとりの意識改革を

最後にまとめとして3氏に視聴者・読者へのアドバイスや提案を求めた。

末吉氏は、「もっと世界の現実を知ってほしい。最新の科学データ、情報を基に、今、世界はどういう状況にあって、自分たちがどういう状況に置かれているのかを敏感に捉えてほしい」と訴えた。

平尾氏は「ESGに本気で取り組む企業を消費者が選択する時代が来る。従来の資本主義からの転換点だ。ミシュラン三つ星レストランのように、ESG三つ星企業のような基準がほしい。そしてコロナワクチンを無償配布したような企業は星三つと認定してはどうか」と提言した。

牛島氏は、「自社のビジネスを知ることが第一歩。自社に納入される原材料や製品は誰がどこでどうやって作り、どのように運んできているのか。また、自社の製品やサービスは誰がどのように使っているのか。目先の顧客だけでなくバリューチェーン全体、さらには社会との接点を含め、自社ビジネスが及ぼしている影響を理解する。そして、子供や次世代の人々に誇れる仕事をしているかを自問自答する姿勢を忘れてはならない」とアドバイスした。

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