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ハートシェア、マインドシェア、ビジネスシェア、「3つのシェア」でDXの加速をサポート 日本企業とのパートナーシップをさらに強化

日本とベトナムをつなぐ企業としてユニークな存在感を示しているのがFPTグループである。2020年11月に設立15周年を迎えたベトナムIT最大手の日本法人であるFPTジャパンホールディングスは、設立以来大幅な成長を続けている。直近5年間においては年率30%以上の成長率を維持し、現在は1500人以上の従業員が働くまでになった。日本法人を傘下に置くベトナム本社のFPTソフトウェア会長を務めるチュー・ティ・タン・ハ氏の来日を機に、FPTジャパンホールディングス社長であるグェン・ヴェット・ヴォン氏の同席を得て、両氏にインタビューした。

3人で立ち上げた日本事業が大きく成長
売り上げはグローバル全体の半分以上

 2020年10月、菅義偉首相は首相就任後初の訪問先であるベトナムの地に降り立った。米中経済摩擦など地政学的な情勢変化、TPP11の発効などもあり、日越関係の重要性はますます高まっている。こうした中で注目されているのがFPTソフトウェアである。菅首相訪越時に行われた首脳会談にも、同社幹部の姿があった。

 FPTソフトウェアは、ベトナムに本拠を置く同国最大のIT企業である。同社の事業をエリア別に見ると、売上高の半分以上を日本が占め、日本は最重要市場と位置付けられている。FPTソフトウェア会長のチュー・ティ・タン・ハ氏はこう語る。

チュー・ティ・タン・ハ(Chu Thi Thanh Ha)氏

FPTソフトウェア株式会社
取締役会長
チュー・ティ・タン・ハ
(Chu Thi Thanh Ha)

ハワイ大学マノア校で経営学修士(MBA)を取得。FPTコーポレーション設立初期から、テレコム事業とオンラインリテール事業の発展に寄与。特に、FPTテレコムにおいては創業者として、ベトナムトップ3の通信企業へと導く。2017年には経済誌フォーブス・ベトナム(Forbes Vietnam)が発表した「ベトナムで最も影響力のある女性50人」にも選ばれている。2020年3月、FPTソフトウェア株式会社の取締役会長に就任。

 「FPTソフトウェアの日本法人であるFPTジャパンは2005年、3人のベトナム人メンバーのみで事業を立ち上げました。お客様のビジネスに寄り添いながら成長を続け、現在、日本国内では11の拠点で1500人以上の従業員が働いています。また、ベトナムその他の地域でも9000人以上の人材が日本企業関連の仕事に携わっています。当初は、オフショア開発のコスト競争力が主要な強みでしたが、技術力の蓄積に努めてきた結果、近年は多くのお客様からDX(デジタルトランスフォーメーション)パートナーとしての評価を受けています」

 日本進出から15年、FPTジャパンは設立以来大幅な成長を続け、直近5年間においては年率30%以上の成長を維持してきた。数年前に日本法人を改組し、FPTジャパンホールディングスの傘下にFPTソフトウェアジャパンなどの事業会社を置く体制に変更。日本市場でのビジネスをリードするFPTジャパンホールディングス社長のグェン・ヴェット・ヴォン氏は、一層の事業拡大に意欲的だ。

グェン・ヴェット・ヴォン(Nguyen Viet Vuong)氏

FPTジャパンホールディングス株式会社
代表取締役社長
グェン・ヴェット・ヴォン
(Nguyen Viet Vuong)

アジア太平洋のビジネスやマネジメントを専門とする立命館アジア太平洋大学を卒業後、2007年にFPTソフトウェアジャパン有限会社に入社。優れた仕事ぶりと専門スキル、リーダーシップを持ち、事業本部長、大阪事業所長、副社長などを歴任後、2019年FPTジャパンホールディングス株式会社およびFPTソフトウェアジャパン株式会社の代表取締役社長に就任。

 「2025年に向けて、私たちは年率20%以上の成長目標を掲げています。2025年、日本での従業員はいまの2倍に当たる3000人に増やしたい。そのうち、日本人従業員は現在の150人から500人への増員を目指しています。2019年にはFPTコンサルティングジャパンを設立しました。従来の開発プロセスだけでなく、ITコンサルティングや基本設計などを担う上流プロセスの能力増強にも注力しています」

 技術力の向上はもちろん、ベトナム人をはじめとする外国人向けの日本語能力強化にも取り組んでいる。中心的な役割を担うのが、2019年に開校した「FPT日本語学校」である。現在はコロナ禍で活動が大きく制限されているが、2021年以降、年間100人近い人材の日本語教育に取り組む予定だという。

日越両国の特性を組み合わせて
ビジネスの競争力を一層高める

 2005年の日本進出は極めて重要な戦略的判断だった。なぜ、日本市場というフィールドを選んだのだろうか。

 「私たちは日本への進出を通じて、世界の先進技術に追いつきたいと考えました。日本には世界市場で競争しているエクセレントカンパニーが多くあります。ただ、日本社会は少子高齢化という大きな課題を抱えています。一方、ベトナムは平均年齢が若く、向学心にあふれる多くの若者がいます。両国の特性を組み合わせることで、グローバルでの競争力をさらに高めることができるはずです」

 ハ氏は20世紀前半に活躍したベトナムの歴史上の人物にも言及する。ファン・ボイ・チャウという独立運動の指導者である。

 「ファン・ボイ・チャウは若者を育てるために、日本への留学を呼びかける『東遊運動』を起こしました。日本進出に当たって、このような歴史のエピソードも1つのインスピレーションをもたらしました。加えて、稲作を通じて培われた行動様式や考え方など、両国の間には風土や文化的な共通点も多いように感じます」

 日本での15年の間には困難な時期もあった。例えば東日本大震災である。従業員を国外に避難させた外資系企業もあったが、FPTジャパンは踏みとどまった。

 「お客様との約束を守るという強い信念と決意のもと、私たちは日本での職場を維持しました。多くのお客様からお褒めの言葉をいただきましたし、日本での信頼を確かなものにできたのではないかと思っています」(ハ氏)

 東日本大震災では全従業員が1日分の給与を返上。会社からの支出を含めて30万ドルの寄付を実施した。「日本に根付いたベトナム企業として、日本の皆さんと一緒に苦難をともにし、喜びを分かち合いたい。そんな気持ちの表れです」と、ハ氏は当時を振り返る。その気持ちは、いまも変わっていない。コロナ禍での対応にその一端を見ることができる。

 「両国間を行き来するエアラインの定期便が休止している時期、私たちはチャーター機を6便飛ばして必要最小限の人の移動を確保しました。当社がアレンジしたチャーター便には、日本企業のベトナム駐在員、日本でビジネス展開する当社以外のベトナムIT企業の従業員なども搭乗しました」とヴォン氏。いまや、FPTジャパンは両国のパートナーシップをビジネス面で支える存在だ。

 「私たちはお客様と一緒に、コロナ禍という困難を乗り越える決意を新たにしています。コスト削減やリソースの最適化、あるいはDXにつながる提案活動を止めることはできません。苦しい時期だからこそ、これまで以上に価値のある提案をしていきたいと考えています」とハ氏は話す。

 ハ氏の決意は日本企業にも届いている。2020年3月、FPTジャパンの親会社であるFPTコーポレーションは、日本経済団体連合会(経団連)に加盟した。ベトナムのIT企業として初めてのことである。

数々のDXプロジェクトに参画
最先端AI研究機関との提携を実現

 FPTジャパンは企業クラウドやAI、IoT、ブロックチェーンなどの先端技術を駆使しながら、企業の新しいビジネスやサービスの創出をサポートしている。例えば、2020年のコロナ禍ではあるが、日本の大手ヘルスケア企業の大型クラウドプロジェクトへの参画においては、膨大な医療画像データをAIで解析し、診断に活用する高度なサービスの実現に貢献した。

 また、日本の住宅設備機器メーカーでは、デジタルマーケティングのプロジェクトをサポート。ショールームや実店舗に来なくても、生活者がWebサイトで3D画像を見ながら設備導入後の姿を体感できる仕組みを開発した。生活者が住んでいる家の間取りなどをリアルに再現でき、気に入ればその場で注文することができる。

 こうしたDXプロジェクトを支えているのが、FPTグループの提唱するDXフレームワーク「デジタル改善(Digital Kaizen)」である(図)。デジタル改善を活用し多くの実践を通じてノウハウを蓄積するだけでなく、DXをさらに高度化するための研究開発にも注力している。

図

 代表的な取り組みの1つが2020年6月に発表された、世界最大級の深層学習研究機関「Mila」(カナダ・ケベック州)との提携である。カナダ政府は国家の成長戦略の中にAIを位置付け、積極的な関与を続けている。中でも中核的な役割を担うMilaとの間では、グーグルなどAI分野の主要プレーヤーが協力関係を構築している。

 「技術力をさらに高めるためにも、優秀な人材の確保・育成は非常に重要です。人材の層をさらに厚くするための体制整備を推進しつつ、これまで以上に日本企業に貢献したいですね。そして、DXパートナーとして、日本企業にとってより価値ある存在へと進化したいと考えています」(ハ氏)

 2020年12月、ハ氏は来日して多くの顧客企業を訪問した。そして、「日本企業と3つのことをシェアしたい」と話した。第1に、「ハートシェア」。順調なときでも、苦境にあっても心を1つにして、困難を乗り越えましょうという意味だ。第2に、「マインドシェア」である。お互いの強みを生かしつつ、最適な組み合わせを工夫して競争力強化を目指す。第3に、「ビジネスシェア」。真のビジネスパートナーとして、ともに新しいビジネスやマーケットを開拓していきましょうとのメッセージである。

 これらは、FPTジャパンが日本市場に進出してからの15年間にわたり、常に掲げ続けてきた「いつもお客様のそばに」という企業理念に通じるものである。

 「多くのお客様から、3つのシェアに共感するという言葉をいただきました」とハ氏はいう。

 すでに多くの日本企業とパートナーシップを構築しているFPTグループだが、今後は日本企業とのジョイントベンチャー、スタートアップとの協業などにも一層積極的に取り組んでいく考えだ。

FPTジャパンホールディングス株式会社

FPTジャパンホールディングス株式会社

https://www.fpt-software.jp/