日経ビジネス電子版 Special

東南アジアで創業し、決済インフラを変革 フィンテックで世界を変えた日本人起業家

スタートアップの舞台は国内のみにとどまらない。東南アジアを拠点に、世界を相手に戦い続けてきた長谷川潤氏も、グローバルに活躍する起業家の一人だ。高校卒業後に単身渡米し、日米でいくつかのスタートアップを立ち上げた後に、タイでOmiseを創業。ペイメント事業とブロックチェーンの開発・運営で業績を伸ばし、今年4月には社名をSYNQAへと変更した。次なる挑戦に向けて動き出した長谷川氏に、自身の起業ストーリーとスタートアップの魅力についてうかがった。

chapter 01

スタートアップには世の中を変える力がある苦労を重ねても事業に挑み続けてきた理由

——シリアルアントレプレナーとしても知られる長谷川さん。タイでOmiseを起業されるまでのキャリアを教えていただけますか。

うちは祖父も両親も起業家だったので、事業の大変さや面白さをわりと身近に感じて育ってきたんです。中学に入ると、叔父からもらったコンピューターに熱中し、高校では機械工学やプログラミングを学んでいました。でも大学に進学する気はなく、親から渡されたシアトル行きの片道切符でそのまま渡米。現地でWebエンジニアとして働き、帰国後に最初のスタートアップとなる、LIFEmeeを立ち上げました。その後もスマートフォン向けのアプリケーションやサービス開発などでいくつか事業を興したりイグジットを成功させたりはしたんですが、どれも資金調達には至りませんでしたね。当時の日本にはまだスタートアップを支える投資家が少なく、また大企業にサービスを使ってもらおうにも意思決定が遅すぎると感じていました。

SYNQA Holdings CEO
長谷川 潤(はせがわ じゅん)

SYNQA Holdings CEO
長谷川 潤(はせがわ じゅん)

1981年、神奈川県生まれ。高校卒業後、単身渡米しWebエンジニアに。帰国後、ライフログサービス「LIFEmee」の開発で、2009年のTech Crunch50のファイナリストに選出。その後複数の起業を経て、2013年タイでOmiseを創業。BtoB事業者向けの決済ソリューションのOmise Payment、ブロックチェーン技術を活用した分散型決済プラットフォームのOMG Networkを開発・運営を手がける。2020年4月にSYNQAへ社名変更し、日本向けのサービスを軸とした新たな事業展開を目指す。Forbes JAPANの「JAPAN’s STARTUP OF THE YEAR」の常連ウイナーでもあり、「日本の起業家ランキング2020」では4位に選ばれた。

——それで、新天地を求めてタイに行かれたんですか?

はい、もう日本で事業をやるのに疲れていて。そんなとき、仕事仲間でもあるタイの友人から、「東南アジアは面白いよ」と誘われ、2012年の終わりに家族で移住しました。その友人と2013年に創業したのが、Omiseです。

——Omiseの事業について教えてください。

最初は、東南アジアの旺盛なEC市場に着目して、ECプラットフォームの開発事業でスタートしました。開発も順調で、資金調達の目処もついていたんです。でも、いざ決済システムを導入しようとした段階で、現地には満足できるサービスがないと気づいた。ならば、自分たちで作ってしまおうと動き始め、最終的にはピボット(事業転換)を選びました。こうして2014年に生まれたのが、Omise Paymentです。キャッシュレスの利便性と現地消費者の需要に則した現金決済を盛り込んだこのペイメントソリューションは、今ではタイの携帯電話3大キャリア全てに採用されるなど、順調に業績を伸ばしています。

——軌道に乗せるまでにはどんな苦労がありましたか。

当初はまず、利用者数をどう増やすかで悩みました。僕らのミッションは”Payment for everyone”、だれもが公平に使える決済インフラを目指していたんですが、そのためには多くの人に使ってもらう必要がある。でも自分たちだけでは限界があったんですね。そこで発想を転換し、すでに多くの顧客を持っている大企業を巻き込むことで、一気に課題の解決を図りました。またもうひとつは、資金調達に関してですね。当時の東南アジアにはまだフィンテックの概念がなく、サービスの斬新性を訴求するのが難しかった。日本の投資家に東南アジアの市場の大きさを理解してもらうのにも苦労しました。しかも資金を投入したらもう止まることはできない。事業成長を見せ続けないといけないわけです。そうした日々のプレッシャーから、何度も病院に担ぎ込まれたりしていましたね(笑)

——そんな大変な思いをしてまで、長谷川さんがスタートアップに取り組む理由、惹かれる魅力はどこにあるのでしょう。

やはりスタートアップの持つ、世の中をひっくり返す力に可能性を感じているからです。これまでは、大きな資本を持つ企業が小さな企業を取り込んでいく”Big fish eats small fish”の原則があったわけですが、テクノロジーの発達によって、”Fast fish eats the slow fish”、つまりスピードのある事業が市場を塗り替えていく時代に変わった。これを自分のアイディアや意思決定で成し遂げられるのが、スタートアップの魅力だと思います。

chapter 02

OmiseからSYNQAへ新体制でさらなる進化を目指す

——今年4月にOmise HoldingsからSYNQA Holdingsへと社名を変更されました。その理由と、SYNQAという社名に込められた想いをお聞かせください。

テクノロジー業界で最も重要なことは、最後まで生き残ることです。生き残るためには、状況やテクノロジーの変化に応じて、僕ら自身も進化していかなければなりません。また、事業をやるからには、真に価値あるものを提供し続けていきたい。そんな2つの想いを込めて、シンカ(進化・真価)と名付けました。SYNQAの”SYN”にはSynchronization(同時性)やSymbiosis(共生)、Synergy(シナジー)、”QA”にはQuest(探求)などの意味も含めています。

——現在の事業体制を教えてください。

ヘッドオフィスとなるSYNQA Holdingsをシンガポールに置き、その下にペイメント事業とそのトランザクションを支えるブロックチェーン事業を各拠点に展開、さらに今年からはDX導入支援事業を新設しています。この新事業は、我々のインフラでフィンテック化、テックフィン化を進めていく企業を、開発導入の段階からスピーディーかつプロフェッショナルに支援していくというもの。主に日本企業を対象としたサービスなんですが、スタートから数ヶ月にもかかわらず、うちで2番目に大きな事業に急成長しています。今秋には東京に新拠点を設け、日本向けの新しいサービスやプロダクトも展開していく予定です。

——いよいよ凱旋というわけですね。日本で、世界で、長谷川さんが描く理想の決済テクノロジーのあり方とは?

人の生活に密着した技術であること、そしてその技術を意識せずに使えること、の2点ですね。どんなに技術がすごかろうが、使い勝手が悪ければお話になりませんから。そこを見誤ることなく、目には見えなくても最高のユーザーエクスペリエンスを実感できるソリューションをこれからも開発し続けていきたいと考えています。

chapter 03

スタートアップ企業で働くことが最高の学習環境となる

——SYNQAには、現在37カ国もの国籍から成る約300名の従業員がおられます。スタートアップ企業で働くことの魅力やメリットはどこにあるとお考えですか。

うちの社員には、Proactive(積極性)、Professional(専門性)、Go beyond(範囲を超える)であることが求められます。要は自分で決断して実践し、さらにその先までを見据えて行動しなくてはならないんですね。入った初日からそうした大きな仕事や責任を任せられるというのは、大企業にはない魅力のひとつといえます。また、起業を目指す人にとっては、そこで得られる経験も大きな糧となるはずです。僕は高卒のくせに大学で経営学修士の教官をやっていたりもするんですが、そこに来る学生たちは何千万円もの学費を払ってケーススタディを学んでいる。でもケーススタディなんて、スタートアップ企業に入ればいくらでも学べます。お金をもらって自ら実践できるのだから、最高の学習環境となるんじゃないでしょうか。

——なるほど。では、スタートアップ企業で活躍できる人材についても教えてください。

先ほども申し上げたように、プロフェッショナルでありながらそれを超えた仕事も積極的にこなしていけるような人材ですね。そうなるためには、どこでもパフォーマンスを発揮できるフレキシビリティと、謙虚に学び続ける姿勢が重要となります。それができなければ、優秀なスタッフがひしめくスタートアップ企業で生き残るのはむずかしいでしょう。当社は国籍も履歴書の内容も一切問わず、人重視で採用しています。

——最後に、11月21日のオンラインマッチングイベントに向けたメッセージをお願いします。

厳しいことを言いましたが、本音は「優秀なみなさん、ぜひSYNQAに来てください」ということです(笑)。スタートアップの成長を支えるのは、結局は人。市場や技術がいかに変化しようと、人の持っているコアは変わらないからです。僕らがやろうとしていることと、みなさんのやりたいことがマッチしていれば、今回のイベントは大きなチャンスとなります。銀行口座を持てない十数億人を含めた多くの人たちに公平な金融の機会をもたらし、そのインフラを世界に広げていく事業を、僕らとともに取り組んでいきませんか。みなさんの参加を心よりお待ちしています!

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