日経ビジネス電子版 Special

大切なのは直感や情熱に従うこと スタートアップ転職は、自分を試す絶好の機会

先が見える人生よりも、不確実な未来の方がワクワクする──。その直感のままに、大企業を辞めて、スタートアップを創業した有安伸宏氏。会社を売却した後は、エンジェル投資家として100社以上のスタートアップを支援している。コロナ禍で不確実性を極めるこの状況は、有安氏の目にどう映っているのだろうか。投資家として、また起業家やスタートアップ転職志望者の目線から、これからの時代に強い人材像について語っていただいた。

chapter 01

正解を選ぶのではなく、自分で正解にする。その覚悟が、不確実な未来を切り拓く

——エンジェル投資家になる前は、シリアルアントレプレナーとして活躍されていた有安さん。最初のスタートアップについて教えてください。

初めて起業したのは、19歳のときですね。新しいモデルを思いついたので、ちょっと実験してみようみたいな気持ちで、「ベンチャーを支援するインフラを作ろう」という思想のスタートアップを共同で立ち上げました。起業という発想に至れたのは、思春期に受けたインターネットの洗礼のおかげだと思います。中学生のときに Windows 95 が発売されてインターネットを知り、そこで見ず知らずの人たちが出会ったり商取引をしたりという世界にものすごく興奮して。その原体験がなかったら、今も会社員だったかもしれません。

起業家・エンジェル投資家
有安 伸宏(ありやす のぶひろ)

起業家・エンジェル投資家
有安 伸宏(ありやす のぶひろ)

1981年神奈川県生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部卒。大学在学中にアップステアーズを共同創業。卒業後はユニリーバ・ジャパンに就職。同社退職後、慶應義塾大学SFC研究所員を経て、2007年にコーチ・ユナイテッドを創業。2013年に同社の全株式をクックパッドへ売却。その後、エンジェル投資家として活動を始める。2015年にTokyo Founders Fund、2018年にJapan Angel Fundを設立。マネーフォワード(東証マザーズ上場)、カンム、キャディ、OLTA、レンティオ、Graciaなど、投資先スタートアップは日米100社以上に及ぶ。

——大学卒業後は、外資系消費財メーカーに就職されていますね。

はい。自分が19歳の中、20代なかばの共同経営者たちと仕事をするなかで、自分にはスペシャリティがないと痛感し、ビジネスを学ぼうと考えたんです。学ぶならマーケティングがいい。マーケティングが強いのは消費財メーカーで、なかでも外資系が強いらしい。ということで、的を絞って就活しました。

——26歳でその会社を辞めて、また起業されています。もともと独立する予定だったのですか。

いや、全然そんなことないです。だって、入社式で本国の役員に「僕は日本人初のグローバルダイレクターになります」って宣言していたぐらいですから(笑)。でも何年か働くうちに、10年後20年後のキャリアの輪郭が見えてきて、途端につまらなく思えてしまったんですよね。予想不確実な未来の方がワクワクできる自分に気づいたんです。また、スタートアップの経営を一度経験しているので、大企業での仕事に物足りなさも感じていた。だったらまた自分でやってみようと、ある日思いついてしまい、その日に即決しました。

——思い切った決断ですが、そこに迷いはなかったのでしょうか。

なかったですね。たしかに親には心配されたし、同期や周囲の仕事仲間にも驚かれましたが、世間の価値観のもとで生きるよりも、自分自身がワクワクすることを選ぶ方が大事だったので。すごく雑な意志決定ですが、それがよかったんだと思います。何が正解かを悩んだところで、答えなんか出ないですから。それなら、さっさと意志決定して、自分で正解にしてしまえばいい。正解を探すのではなく、正解をつくる。今スタートアップに転職しようか悩んでいる人も、そういう姿勢の方が人生の満足度は最大化されるんじゃないかな、と思います。

——起業して、有安さんが得られた”正解”とは?

起業すると、あらゆる責任が自分にかかってくるんですよね。市場選択も事業をつくるのも、それが上手くいくのもいかないのも、社員が満足してついてきてくれるかどうかもすべて自分次第。究極の自責の世界です。そういう逃げ場のない場所に自分を置くことで、かなり人間力を鍛えることができたと思っています。

chapter 02

起業家の孤独を自分も経験して知っているからこそ全力で支えたい

——エンジェル投資家になったきっかけを教えてください。

大学時代からの友人が起業するというので相談を受けたのが、そもそもの始まりです。まだ自分の会社を経営していた頃で余裕もなかったのですが、応援の気持ちでなけなしの数百万円を出資しました。それが、現在東証マザーズに上場しているマネーフォワードです。投資をしてみてわかったのは、他所様の経営のナカミが見られるので、非常に勉強になるということ。それが楽しくて、その後も友人経由の紹介で何社か支援させていただきました。

——今では100社以上に出資をされています。本格的に投資活動を始められた理由は?

起業家から投資家になる人は少なくないのですが、みんな辞めちゃうんですよね。やっぱり投資して待つより、自分で起業した方が刺激的でおもしろいし、シード段階からの出資には当然リスクもあるので。だからこそ、僕はプロとして本気でやってみようと思ったんです。それは、自分が全力でサポートすることで何が起こるのだろうかという実験でもあったし、これまで恩恵を受けたスタートアップコミュニティに対するペイフォワード的な意味合いも含めてです。

——投資先は何を基準に選んでいるんですか。

市場選択でアップサイド、起業家の資質でダウンサイドが決まるので、以前はその組み合わせで判断していました。つまり、いいマーケットを見つければ起業家も自然と成長するし、マーケットが悪くても起業家が優秀であれば成功する可能性はあるけど、上には行きづらい、といった教科書的なセオリーです。ただ最近は、そのフレームワークを超えて、もっと起業家個人と事業をホリスティックに捉えることを心がけています。具体的には、起業家と30~40分話して、すべての要素に矛盾がなく円がつながるようなイメージ、過去の大量のケーススタディを踏まえて、事業大きく成長するシナリオが頭に思い浮かんだら出資する、という感じです。

——有安さんが他の投資家と違うと思われるところはどこでしょう?

やさしい、とにかくやさしい(笑)。というのも、僕はスタートアップや起業家が大好きなので、彼らが困っていたらすぐ相談に乗りたくなっちゃうんですよ。経営者の抱える孤独や絶望感は、自分も経験して知っているからこそ、できるだけ支えになりたいと心から思っています。あと、投資家は待つことが仕事なので、たとえ報告がなくても「便りがないのはよい知らせ」と寛容に構えています。起業家がやってもらいたいこと、やってほしくないことは自分が一番よくわかっているので、そこを外さないということですね。

chapter 03

求められるのは、ジブンゴトにする力。大企業での働き方とはマインドから違う

——コロナショックにより、投資活動にも影響が生じていますか。

今回を機に、初めてZoomのやりとりだけで3,000万円を出資する経験をしました。リアルで会わないと出資できない、という思い込みを捨ててみたんですね。やってみたら、リモートでも信頼関係は築けるということがわかった。これは僕の個人的な成功体験ですが、周囲を見てもエンジェルやVCは引き続き出資をしているので、コロナ禍だから資金調達がしにくいという状況ではないと思います。

——出資先のスタートアップの状況はいかがですか。

観光業や飲食領域のスタートアップは、当然ながらかなり苦しいですね。4月、5月は毎日のように経営者とリモート会議で対策を講じていました。どんな状況でも打ち手を繰り出せるように、いくつもシナリオを用意したりして。ただ、それ以外の領域は淡々とビジネスをやっていて、むしろeコマースやDX関連のスタートアップは大きく伸びているところが多いので、次のステップに向けて動き出している状態です。

——起業や出資の相談件数についてはどうでしょう。

それも今までと変わりませんね。スタートアップ市場全体を見れば、今は不況ではないし、そもそも起業家にとって景気の良し悪しは関係ないんですよ。逆境にあっても情熱を抑えられずに事業を始めてしまうのが、起業家という人種なので。そういう意味では、不況期に生まれたスタートアップほど、骨太でいい会社に育つという傾向はあるかもしれませんが。

——魅力あるスタートアップが増えるなか、そこで働きたいという人も増えています。向き不向きというのはありますか。

何でもジブンゴトにする力のある人は、向いていると思いますね。逆に、仕事が降ってくるのを待つようなタイプは向いていない。とくに大企業から転職してくる人たちは、マインドチェンジが必要です。ビジネスプロセスやジョブディスクリプションが明確な大企業と違い、スタートアップでは何もないところから自分で仕事をつくることが求められるからです。それをおもしろいと感じ、自分の責任範囲をも超えてどんどんジブンゴトにできる人はスタートアップでも活躍できるんじゃないでしょうか。

——スタートアップで働く醍醐味はどこにあると思いますか。

一言でいえば、力がつきます。アスファルトで舗装された大企業に比べると、スタートアップは獣道なので、虫にも刺されるし怪我もするだろうけれど、そうした不確実性の中に身を置くことで、自分で考えてどうにかする力が育まれるわけです。そして、そこで得た経験は必ず次につながる。今は、一部のスタートアップの給与水準は大企業と変わらないし、合わないと思ったら転職すればいいのだから、興味があるなら一度チャレンジしてみることをおすすめします。

——最後に、11月21日のオンラインマッチングイベントに向けたメッセージをお願いします。

まずは直感を信じて飛び込んでみることです。僕もスタートアップへの転職相談をよく受けるんですが、悩んで何人にも相談し続けている人は大抵転職しないんですよね。やっぱり同調圧力というか、自分はこうしなきゃみたいな枷があって、僕はそれを「西遊記の孫悟空の頭の輪っか」みたいなものだと思ってるんですが、どうしてもそいつが邪魔してしまう。でも、どうせ先のことなんてわからないんだから、目の前にチャンスがあったら乗ってみる方が絶対にいい。そういう自分の直感や情熱に従って動ける人こそが、これからの時代を強く生き抜けるのだと思います。転職は、それを試すいい機会になるんじゃないでしょうか。

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